第2章7節 認識の違い
「だが、ううむ。神聖武器の譲渡は出来ぬことよのぉ。そう思うのだろう?メラ君。」
そう、この問題がメラを悩ませている。
人々にとって広く周知されている神聖武器の認識は教皇たちからすれば全くの見当違いになってしまっているからだ。
そもそも神聖武器とは何なのか、そのことから人々には説明しなければならない。
教皇たちにとっての神聖武器とは、かつて英雄と呼ばれた者たちが愛用していた武器であり、意志を持つ武器のことである。
12種類の武器たちはそれぞれに意志を持ち、使い手を選ぶ。
選ばれた者のみが神聖武器を扱え、選ばれなかった者には触れることすら出来ない。
その選定基準は謎で、過去の聖女の働きによって教会で守られるようになってからは誰一人として使い手は現れていない。
つまり、現状ではガラクタと等しい価値しかないのである。
「このワシですら選ばれなかった武器に誰が選ばれると思える?」
「無理な話しよね~。」
「ふんっ!ゴミ共は神聖武器は聖女たちによって作られていると勘違いしてるでおじゃる!全く、何故こうなってしまったのか迷惑でおじゃる。」
この認識の違いによって過去にも教会には他の国々から神聖武器の譲渡の話しは来ていた。
無論、全て断っているがその度にエグデシア信仰国の印象が悪い方向に向いてしまうのはメラにとってはあまり気持ちの良いものでは無い。
だからメラは神聖武器のありのままの事実を広めようとしているのだが、トリトンによって邪魔されている。
その事もメラにとっては悩まされている一因になっているのだ。
「だからボクチンは神聖武器について公表すべきだと思うのネン。」
「バァカかッ!!そんなことをしてみるでおじゃる!使えないガラクタを知ればこの国に来るのは敵兵の波でおじゃる!メラ殿はこの国を亡ぼす気でおじゃるかぁ?」
「そんなつもりは無いのネン。では、トリトン教皇はどうお考えなのネン?全く使い物にならない武器について、ネン。」
「んぐっ!?そ、それは・・・。」
「まぁ~確かに~今のままだと~神聖武器はある意味で邪魔よね~。変に~人々の~希望になっちゃってるし~。いっそのこと~公表しちゃうのも~アリよね~。」
「ヌァーッハッハッハ!公表についてはワシも問題ない。だが、今ではないのぉ。」
「・・・では、何時だとお思いネン。」
「ん~そうじゃのぉ・・・聖騎士共の練度がワシの納得するレベルになったらいいかものぉ。」
「吾輩は反対でおじゃるぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!」
叫ぶトリトンを無視して、メラは考える。
武神教の二人からの賛同は得たも同然だが、結局現状は変わっていない。
神聖武器の譲渡に関しては諦めてもらうしかない。
が、そうなると問題は魔獣の存在である。
魔獣と断定できる根拠はない、しかし否定する根拠もない。
確認できた存在が魔獣だとすれば、聖騎士を派遣したところで単なる無駄死に。
それではいつまで経っても神聖武器について公表できなくなる。
それはメラにとって望む展開ではない。
「と、いうことは~聖騎士だけ派遣ってことで~終わりでいいかしら~。」
額から流れる汗が頬を伝い、一滴落ちる。
「うぬ。良いであろう。ここが落としどころよのぉ。」
久々に鼓動が早くなるのを感じる。
「吾輩は反対でおじゃるぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!話を聞けぇぇぇぇぇっっっ!!」
今、メラの中で一つの賭けが芽生える。
「・・・ちょっとだけ話を聞いて欲しいネン。」
3人の視線がメラに集まる。
正直こんなことは言いたくはないが、万が一に備えなければメラは安心できなかったのだ。
だから、自分がこんなことを言うなんてと笑ってしまう。
「ボクチンは適性審査を行うことを具申するネン。」
その言葉に教皇たちの目の色が変わる。
「な、何を言ってるでおじゃる!今さらしたところで結果は目に見えてるでおじゃろうが!!」
血走った目で睨みつけてくるトリトンを無視し、メラは武神教の二人に訴えかける。
「仮の話し、ネン。敵が魔獣だった場合、聖騎士たちは死にに行くようなもの、それを見過ごすことは許されないネン。」
「だから適性審査をかぁ?ふぅむ・・・。」
「アタシは~良いと思うわよ~。人って~成長するもんでしょ~。」
予想外のジュエルの賛同に動揺しそうになるが、顔には出さない。
黙ってガスパーの答えを待つ。
「・・・。」
沈黙がメラを震え上がらせようとしてくる。
実際にはトリトンが騒いでいるが、そんなものが聞こえてこないほどにガスパーの沈黙は重かった。
「ヌァーッハッハッハ!確かにワシもむざむざと聖騎士を無駄にするようなことは好かん。うぬ!やろうではないか、適性審査をのぉ!!」
賭けに買った。その事が口から吐かれる息を促す。
「ただし!!その審査にはワシも参加することが条件だのぉ。」
不敵に笑うガスパーに、安堵していたメラは簡単に了承してしまうのだった。
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