第1章9話 旅立ちの朝
「世話になったな。」
必要なものを揃えるために費やした準備の日の次の日、朝早くから村の入り口にはコボルトたちがミミを見送るために集まってくれた。
こうして見ると、やはりほとんど女しかいない。
「気にするでない。むしろミミを貰ってくれたことに感謝しておるわい。」
「・・・まぁ、そうだな。」
「えへへ~。」
「両親を亡くしてからというもの、ここまで育てることは出来たが、村ではどう接すればよいか困り果てていた。深い関係を結ぶこともなく・・・。」
「村長!もういいって!私はこれからオリバーと幸せになるんだから!ね!」
「ヒャヒャヒャ。そうじゃな。これからはオリバー殿がおる。子作りに励むのじゃよ。ミミ。」
「もちろん!絶対にたくさん子供を産むね!」
「(どんな会話だよ・・・。)婆さん、ここまで色々と良くしてもらったが、俺には何も返すことが出来ない。許せ。」
「ヒャヒャヒャ。今は、じゃろ?」
「ん?」
「お主はゆくゆくは王になるやもしれん男じゃ。じゃろ?ならば王になった暁にはわしらコボルト族を優遇してくれればええ。お主の将来性に期待じゃ。」
「・・・気が遠くなりそうだな。」
「構わん。未来が明るいほうが子供たちの成長にも良い。」
「そうか・・・わかった。約束しよう。俺が王になった暁にはコボルト族を優遇しよう。」
「うむ。期待しておるぞ。」
差し出した手を取り、約束の証に固い握手を交わし、村を後にした。
村を出てしばらく歩いたが、湿地など見えてこない。
歩けど歩けど森の中。ミミがいるから食料に困ることは無いが、目的地には程遠いのかもしれない。コボルトの婆さんの話ではこの先で昔、リザードマンの影を見たような気がすると、言っていた。
それしか情報が無いのは心許ない。
「あ!ねぇねぇオリバー!あの木の実取るの手伝って!」
「これか?」
「そう!それそれ!」
だがミミがいるから気が滅入ることは無さそうだ。
その分夜も運動があるからある意味では休まらないのだが。
「この木の実は何に使うんだ?」
「この木の実はね、皮は傷薬に使えるし、実はさっぱりとしていて美味しいんだ。ちなみに種は鳥を捕まえるのに使えるよ。」
「全部使えるのは凄いな。」
「でしょ!私も村長に初めて教わった時には感動を・・・。」
「どうした?どこか具合でも悪いのか?」
「ううん。そうじゃなくて・・・その、あれ。」
「あれ?」
ミミの指さした先には服を着た人間のようなものが倒れていた。
理解した瞬間、すぐさま腰のナイフに手を伸ばしたが、ミミに止められた。
疑念を抱く前にミミは耳元で囁いてきた。
「あれ、もしかしたらエンモン族かも。」
「エンモン族?」
老オーガからは聞いたことの無い種族だが、ミミが言うのなら魔族なのかもしれない。だったら武器は必要ないな。
「エンモン族とは?」
「えっと、私もそんなに詳しくないんだけどね。確か見た目はほとんど人間と変わらないんだけど、耳が人間と比べれば丸くて、尻尾も短いけどあるのが特徴かな。」
「・・・そんなの見えるのか?」
「尻尾は見えないけど、耳は丸いからエンモン族だと思う。」
「・・・他に知っていることは?」
「人間に混ざって商人をやってるって村長が。」
「商人?にしては荷物なんて見えないが?というか生きてるのか?」
「わかんないけど・・・どうする?近づいてみる?」
耳が丸いというだけでエンモン族かどうかはわからない。が、危険があるかどうかを聞かれると、正直無いように見える。
それよりもどうしてこんな森の中で倒れているのかのほうが気になる。
「・・・助けてみるか。」
「うん!なら善は急げだよ!」
「あ!おい!!」
この考えなしにすぐに行動に移してしまうのはミミの弱点だな。
だがその分、自分が周りに気を配ればいいのだから可愛いものだ。
エンモン族・・・リザードマンについて何か知っていればいいのだが。
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