第1章10話 エンモン族のウキキ
「ん・・・?」
「あ!気が付いた!?」
「んへ?」
周りを警戒しながら待つこと数分。
傷口の手当てをミミが手慣れた様子で行っていると、目を覚ました。
まだ意識がハッキリとしていないのか、ボーっとしているような気がする。
「君、倒れてたんだよ?」
「あちし、たおれてた?」
「そう!ここに倒れていたのを私たちが見つけたの!ねぇねぇ!何があったの?」
「ミミ、急かさないほうが良い。起きたばかりでこいつも混乱しているはずだ。」
「そうなの?」
「あちし、どうして・・・ッ!!?」
何かを思い出したのか、自分自身を抱きしめながらエンモン族の女は震えだす。
その表情から何かしらの恐怖体験を味わったのは想像に容易い。
周りの現状を見るに、人間に襲われて逃げてきた、というところだろう。
それにしても、見れば見るほどに人間そっくりである。
治療と称してミミがズボンを脱がし、尻尾があることを確認できたからこそ、助ける気になったのだが。
「混乱しているところ悪いが、俺たちは先を急いでいるんだ。何かしらの訳アリなら話ぐらいは聞いてやるから何があったのか教えて欲しい。」
「私も知りたい!」
「えっと・・・。」
チラチラとこっちを見てどうしたのだろうか。
もしかしたらオーガに何かしらのトラウマがあるのだろうか。
だとしたら距離を取った方がいいのだろうか。
「俺に何かあるのか?」
「え!?う、ううん!そうやなくって!そ、その・・・。」
「言いにくいことか?俺が嫌なら離れるが?」
「ううん!その、ちぃっと、ちぃっとだけ驚いたんよ。あんた、いや貴方はオーガ、なんよね?」
「ああ。オーガに何か嫌な思い出でもあるのか?」
「ううん!あちしが知ぃてるオーガとはちぃっと違っただけ。」
「なるほどな。確かに俺は他のオーガとは違うらしい。だが、お前に何かするつもりは無い。それだけ信じてくれればいい。」
「わ、わかったんよ。」
「それで?何があったの?あ!私ミミね!コボルト族!」
「あ、あちしはエンモン族のウキキ。その、何から話せばいいんやろか。」
「ゆっくりでいい。思い出せたところから話せ。」
「あ!この人はオリバーね。私の旦那様!!」
「あ、ご夫婦・・・。」
「余計なことは言わなくていい。それよりも何があったのかを話してくれ。」
「えっと・・・あちしは、旅商人でして。いつものよぉに町から村へと物売りをしていたんよ。そしたら黒い鎧の集団に襲われて・・・。」
「襲われて、どうしたんだ?」
「よく、覚えてないん。無我夢中で逃げたんよ。そぃで疲れてここで・・・。」
「気を失っちゃったんだね。可愛そう・・・。」
「黒い鎧の集団、人間たちが言っていた“騎士”ってヤツか?」
「わかんらんよ。あちしが知ぃてる人間の騎士様は誰かを襲うってことしないん。でもあれは・・・。」
「お前を襲った、と。確認なんだがいくつか質問してもいいか?」
「あちしが知ぃてることなら。」
「まず、お前一人で旅商人していたのか?」
「ううん。お兄ぃと一緒だった。」
辺りにそれらしき影は見当たらない。
殺されたか、あるいはバラバラに逃げたと考えて別の場所にいるのか。
悪い方に考えるならば殺されたんだろう。だからこそ、ウキキは逃げ切れた。
そう考えるのが自然だ。
「次の質問だ。お前たちは何か、特別な物でも運んでいたのか?」
「ううん。いつも通りだったんよ。なのに襲われて・・・。」
「特別な物はない、か。なら、何かいつもと違うところは無かったのか?例えば荷物の量がいつもより多かったとか。」
「それも無いんよ。荷物も
「お前の兄の様子はどうだ?怯えていたとか、いつもより周りを警戒していたとか。」
「ううん。お兄ぃもいつも通り・・・あ。」
「何だ?」
「なになに!?」
「お兄ぃ、お守りを持ってた。」
「お守り?って何だ?」
「お守りっていうのはね、神様にお祈りした物を言うんだよ。何だっけ?ん~っと、確か人間たちが言っていたのは・・・かないあんぜん?だっけ?」
「神に祈った物?かないあんぜん?それは何かしら凄いのか?」
「う~ん・・・気持ちの問題かな。何かしらの影響はあるかもしれないけど、目に見える訳じゃないと思うし。」
「何だそれは。ウキキの兄は人間の真似事でもしたかったのか?」
「そうじゃない?」
「違うと、あちしは思うんよ。お兄ぃは旅商人をしてるんけど、人間のことは好きじゃなかったもん。そんなお兄ぃが真似事なんて・・・。」
お守りを狙って黒い鎧の集団が襲ったのだろうか。
それだと何かしら凄い何かが無いと襲うには弱い理由な気がする。
では別の何か・・・。
「最後に聞きたいんだが・・・恨まれている、ということは無いか?」
「そんなことない!って言いたいんけど、わかんないん。」
「そうか。」
これ以上の情報は無いな。
得られるものがない以上、ウキキには悪いがミミを連れてここから去ろう。
それが正しい選択だ。
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