第1章13節 自覚する感情

「すごい数だな・・・。」

「あれが黒い騎士!?いっぱいいるよ!!?」

「あちしが襲われた時よりいるんよ。」


ウキキの記憶を頼りに襲われた場所を探してみれば、黒い騎士が集まっている現場に遭遇してしまった。

荷台だったと思われる壊れた何かからここが襲われた場所だとわかる。

だが、この異様な黒い騎士の数は想定外だった。


「これじゃどうすることも出来ないな。」

「何とか出来ないの?」

「残念だがな。あれだけの数を相手に隠れて行動なんて出来はしないだろう。」

「夜でも?」

「その時を確認しなければハッキリとは言えないが、無理だろうな。」

「そんなぁ・・・。」

「仕方ないんよ。あちしでも無理だってわかるんよ。」

「ウキキちゃん・・・おりばぁ?」

「そんな目で見られても困る。戦うにしても俺一人であの人数は無理だ。それに・・・。」


今更ながらに気づいてしまった。いや、気づかないふりをしていたのかもしれない。

この手の震えはいつからなのか、そして頭の中の怖いという刻まれた文字。

‟恐怖”。その感情が内側から溢れ出して止められない。

そして何よりも、そう自覚してから脳裏に苦々しい記憶が浮かび続けている。


「だいじょうぶ?」


覗き込んだミミの瞳は安心を与えてくれたような気がする。綺麗だ。


「あ、ああ。」

「そっか。ならよかった!」

「すまない。」

「ううん!」


深呼吸を一回すると、恐怖が体から抜けていくのがわかる。

あの時とは今は違う。戦わなくてもいいんだから。


「このままここにいても何も出来ないだろう。俺は先に進むべきだと思うが、お前たちはどうだ?」

「私もそう思う。もしかしたら逃げたお兄さんと出会えるかもしれないもん!ね!ウキキちゃん。」

「そう、やんね。正直に言えば、少しでもいいから物資を確保したかったんけど。」

「無理だな。あの中から取ってくるのは今の俺たちには出来ない。」

「わかっとるんよ。」


納得できないかもしれないが、ウキキには納得してもらおう。

あの黒い騎士たちの数、やはりウキキの兄は何かを持っていたのだろう。

その何かはわからないが、自分たちの障害にならないことを祈ろう。



「そろそろ話す気になったかしらァ?ねェ?お兄さん。」

「・・・。」


日の光が僅かに差す。

椅子に縛り付けられた男は下を向き、何も話そうとしない。

その反抗的な態度に、女は嬉しそうに自身の唇を舐める。


「うふふ。その屈さない姿勢は評価するわァ。けど、こちらも話して貰わないと困るのよねェ。わかるゥ?お兄さん。」

「・・・。」

「もう!少しは会話しようと思いなさいよォ。私の独り言なんて嫌よォ?」

「・・・かに。」

「うん?」

「お前なんかに話すことなんてない。俺は、俺たちは!誰かに恨まれるような商売はしてねェッ!!」

「うふ。でも、結果的にこんな目に遭ってるんだもん。何かしら恨まれるようなことをしたと思わないのかしらァ?そ・れ・と・も、恨まれるような相手がいっぱいいるのかしらァ!」

「そんな奴はいねぇって言ってんだろッッ!!俺たちは真っ当な商売しか・・・。」

「幾日か前。」

「・・・?」

「とある貴族と取引をしたんじゃないかしらァ?ねェ?お兄さん。」

「・・・。」

「その貴族はねェ、貴方にあるものを渡したはずよォ。」

「・・・。」

「それが私たちは欲しいのよォ。どんな手を使ってもねェ・・・。」

「・・・ッ!!?妹はどうした!!?」

「うふふ。心配しないでェ。。今は、ねェ。」

「お前!妹に何かしてみろッ!その首を噛み切ってやるッッ!!」

「こわ~いわァ。でも、今の貴方に妹ちゃんを守れるかしらねェ。うふふ。」

「テメェ・・・。」

「私、女の子って好きよォ。痛めつければ素直に鳴いてくれるんだものォ。男はダメねェ。貴方の様に耐えようと、無駄な努力をするんだものォ。好きじゃないわァ。」


女の言葉に怒りを我慢できなかった男は牙をむき出しにして暴れるが、全く動けない。目の前で薄ら笑いを浮かべている女を殺したいのに何もできない。

その事が男の心を苦しめる。


「失礼します。」

「・・・見つかったかしらァ?」

「いえ、依然として捜索中です。」

「そうなのォ?ならここに何の用かしらァ?」

「副団長がお呼びです。すぐに来られますようお願いします。」

「・・・わかったわよォ。」


女は振り向き、男を見ろしながら笑う。


「残念だけどォ、今日はここまでねェ。明日もたっぷり可愛がってあげるわァ。」

「消えろッ!」

「うふふ。威勢はまだまだあるようねェ。楽しみだわァ。」


女は嬉しそうな笑い声を残していなくなる。

男は願う。妹が無事に逃げ切ることを。

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