第2章6節 聖女のお膝元
「と、いう訳ネン。」
要請書が届いてから二週間。
ようやく、教皇メラは他の教皇たちを集めることに成功した。
だが、今では集めたことを早くも後悔している。
「フン!そんなものは無理でおじゃる!メラ殿はおバカでおじゃる!」
つるんと光る頭を撫でるぶくぶくと醜く太った巨漢の男、教皇トリトンは鼻で笑う。
くちゃくちゃと肉を噛みながら侮蔑の視線をメラへと向けている。
「そもそもの話しが無理でおじゃるのに何を考えてこんな所に呼び出したでおじゃる!メラ殿だって理解してるでおじゃろう?」
メラが呼び出した場所は“聖女のお膝元”と呼ばれる審議場だ。
ここは教皇たちがどのようなことを憂い、熟慮しているかを聖女や聖騎士たちが拝見出来るよう工夫された場所である。
教皇たちが座る円卓を中心に階段状に広がる席には普段なら聖女や聖騎士が座っているのだが、今日に限っては未だに誰も座っていない。
「ここはボクチンたちが話し合うために用意された場所ネン。ここ以外に今回の話しをするのに適した場所をボクチンは知らないネン。トリトン教皇は何処かいい場所がおありなのネン?」
「チッ!」
「ねぇ~、そんなどうでもいい事よりも話し合うべきことがあるんじゃないの~。」
うっとおしいぐらいに語尾が伸びたじゃべりをする宝石に身を包んだ中年の女、教皇ジュエル。中年とわかっていても20代と見間違うほどの美貌は健在であり、教皇らしからぬ派手な服装はメラにとっては目に毒である。
「ん~要請書だっけ~?そんなもの、こっちには来てないわよ~。貴方も知らないんでしょ?ガスパーさん。」
「ヌァーッハッハッハ!」
豪快な笑いは両腕の筋肉を隆起させ、初老とは思えないこの男の鍛え方が違うことを表している。
教皇ガスパー、元は最強の聖騎士である。
「確かにワシは知らんな。もっとも、部下が知っておるかもしれんがな?ヌァーッハッハッハ!」
「ならアタシたちは関係ない話よね~。海神教の皆さんで頑張ってね~・・・帰ってもいいかしら~?」
「ダメなのネン。ガスパー教皇が知らなくても部下が知っている可能性があるのならば、それは要請を受けたことになるネン。付け足すならば海神教で済む話なら貴方がたをボクチンは呼ばないのネン。そこのところご理解いただきたいのネン。」
棘のある言い方をしたが、ジュエルたちに届いていないことはメラでもわかる。
だが、メラの言葉で立ち上がっていたジュエルが座り、武神教の二人を留めることに成功したことは、メラの思惑通りである。
「まず最初っから気に入らないのでおじゃる!なんでメラ殿に要請書を送るのじゃ!吾輩に送ればいいでおじゃる!」
「それに関してはボクチンに言われても困るのネン。答えるとするならば、可能性の問題ではないのかネン。トリトン教皇では動いてもらえないと思われているのではないのかネン?」
「な、なんじゃと!!?」
「ねぇ~その話は今必要なの~?必要ないなら早く本題を話してよ~。アタシって暇じゃないのよ~?」
「なんじゃと!!」
「おじゃるちゃんもお口チャックね~。それとも~まだフラれたこと根に持ってるのかしら~?ごめんね~タイプじゃなくって~キャハハハ~!」
「ぐぬぬぬ!!!」
トリトンがジュエルにプロポーズしたという噂が事実であったことをメラはこの時点で初めて知る。
何かに使えるかもしれないと、頭の中にメモしておく。
「なんだ?トリトンは女一人も手にれられぬのか?つまらん男じゃのぉ。」
「キャハハハ~。ほんとよね~。」
「き、貴様ぁ!!言わせておけばッッ!!!」
「話を!!」
メラの大きな声が審議場を包み、一瞬で静寂が訪れる。
軽い咳払いをしてからメラは続ける。
「話を続けるのネン。今回、王国からの要請は聖騎士の派遣と神聖武器の譲渡ネン。神聖武器の譲渡には三人の教皇の認可が必要ネン。これについて話し合いたいのネン。」
「ふ~ん。神聖武器、ね~。てことは魔獣が出現したのかしら~?」
「断定は出来ないのネン。ただ、魔獣以上が出現したと王国は判断したから要請してきたのネン。確認は取れてはいませんが何度も要請する辺り、本当かもしれないのネン。」
既にメラは確認済みだが、そのことを他の教皇らには明かさない。
彼らを信用していないからだ。
何もしなかったことを理由に何をされるかわかったものではないのも事実だ。
「うぬ。聖騎士の派遣は既に決定事項かね?メラ君。」
「仮、ではあるネン。聖騎士についても話し合いは必要ネン。今は希望者のみ集めてる状況ネン。」
「ヌァーッハッハッハ!で、あるか!ならワシは聖騎士派遣には賛同しようぞ!」
予想していなかった返答にメラは驚きを隠せない。
「ガスパーさんがそうするならアタシも賛成よ~。」
「吾輩はッ!!」
「三名の教皇の賛同により、聖騎士派遣は決定ネン。各々、選抜を願うネン。」
トリトンの言葉を遮り、聖騎士派遣を決定する。
恨めしそうな目を向けるトリトンをメラは無視する。
とりあえずの目的達成にメラは安堵したのだった。
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