第1章20節 オリバーの覚悟

夜空に雲一つなく、月の光を全身に浴びながらオリバーは考える。

魔王について、ミミについて、絶望について。

一つ一つ丁寧にラグの言葉を思い出しながら懸命に考える。

自分は魔王についてほとんど知らない。だから知りたい。

魔王に成りたいのは知りたいから?力が欲しいから?強くなって何がしたい?

魔王に成る条件が絶望を味わうことで、それにはミミが死ななければならない?

そうしてまで魔王に自分は成りたいのか。

考えても考えても、オリバーは自分の中に答えを見出せずにいた。


「爺さん・・・あんたも魔王について何か知っていたのか・・・。」

「眠れへんの?」

「ウキキか。ちょっとな。」

「魔王について何か知ったんやろ?嬉しないのん?」

「嬉しいか・・・確かに魔王に成りたいとは思っていた。ただ、条件を聞いてしまった今では少しだけ揺らいでいる。」

「そうなん?なぁ、その魔王の条件っていうんはどんなん?」

「・・・。」

「教えてくれへんの?」

「話していいのかわからない。」

「何かを知りたいんやったら多少のリスクはつきものやで。これ、商人の心得の一つやね。それに、あちしは旅の道連れやん。話しやすいと思うんよ。」

「・・・そう、だな。ウキキ聞いてくれるか?」

「ええよ。もしかしたら何かしらあちしでも考えられることがあるかもしれへんからね。話してみ?」


辺りを確認してからさっきよりも小声で話す。

一応、念のためである。


「魔王への条件、それは‟絶望を味わう”ことらしいんだ。特に近しい者の死、だそうだ。」

「絶望・・・近しい者の死・・・。」

「俺でいうところのミミの死らしいんだ。」

「なるほどやね。」

「だからちょっと思うところがあってな。」

「う~ん・・・でもそれって絶対の条件ではないんやろ?」

「・・・え?」

「近しい者の死って簡単に考えれば親や兄弟の死やろ?でも、死といっても全部最後は同じかもしれへんけど、過程はちゃうやろ?」

「過程・・・。」

「そや。例えば父親が病死するのと、人間に殺されるのでは同じ死でも過程が違うから意味も変わってくるやろ?前者はしょうがないって思うけど、後者は憎しみが生まれるかもしれへんし。」

「・・・確かにそうだな。じゃあ絶望は?」

「う~ん・・・絶望も別に近しい者の死でしか感じえへんもんちゃうやろ?嬉しい一つでもお腹いっぱいで嬉しいのと、たくさん眠れて嬉しいのとあるやろ?それに感情ってみんな違うんやないの?」

「・・・俺はラグの話を聞いて素直にそうでなければならないと思い込んでいたってことか。」

「なんかの助けになったんやら良かったわ。」

「・・・ありがとうな。」

「かまへんよ。」


翌朝、スッキリとした頭でオリバーたちはラグの商隊と合流した。


「・・・覚悟は決まったようデスネ。」

「ああ。俺はまだまだ魔王について知らなければならないようだからな。」

「その瞳は何かを知ったようデスネ。いいデショウ。貴方を我が里へとご招待しまショウ。乗ってくだサイ。」


荷車に乗る時、ラグが笑ったように見えた。



「・・・報告は以上です。」

「わかった。下がっていいぞ。」

「ハッ!」


兵士が出て行くのを見送ってからジェダイトはため息を吐く。

地図に10個目の赤いバツ印がつく。


「これで滅ぼされた村は10個目。このままではいずれこの国にも姿を見せるかもしれません。」

「そうだろうな。だが、奴を止める術がない。このまま滅ぼされるのを黙って見ているしかない。」

「過去の記録も当たってはいますが、芳しくありません。一か八かの総攻撃をするべきでしょうか。」

「いいやそれは最終手段だ。失敗したら全てが終わりだからな。」

「では、どのようにいたしましょう。このままでは民たちからの不満の声がどんどん強くなってしまいます。」

「どうすることもできん。とにかく避難民はすべて受け入れろ。今の我々はそれしか出来ん。」

「そうなりますと、問題は食料ですね。幸いこの国の備蓄はまだまだ余裕ではありますが、それもいつまでもとはいきません。」

「考えることは山積みということか。ふぅ~・・・ナーゲロックはどうした?」

「・・・酒場で飲んだっくれています。請求書でも見ますか?」

「結構だ。全く、なんであんな奴が団長なんだ!前団長と変わらないではないか!」


頭を掻き乱し、怒りをあらわにする。

ここ数日でジェダイトは自分が老けたように思える。

それも全て上の連中のせいだと考えている。


「・・・やはり勇者伝説を信じるしかないのか。」


伝説なんかを信じなければならない自分が嫌いになりそうであった。

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