第31話
(それだけじゃねぇんだよ!)
武闘家は確かに早い、そして腕力も強くてすぐ避ける。
ヤツの言う[流砂功]ってのが本物なら、この砂漠で正面対決なんて阿呆のする事だ。
「ただし、おれも[爆破]を使う場合を除いてな!」
ピョートルの[爆破]を喰らいながらも突進してくる武闘家の目の前で、勇者は[爆破]を起こす。
「ざまぁ見ろ!確かにお前は強い、
だが魔法を使えない武闘家なら、お前はただ早くて目の良いだけの獣に過ぎないんだ!」
「くっ、貴様も魔法を使うのか。だが所詮そんな初歩の魔法でどうにかなると思っているのか!」
ダメージを追ったヤツは、魔法から身を守るように素早くガードの姿勢をとっていた。
[爆破]の砂煙りに包まれ飛び退いた武闘家に対し、オレは砂煙の中に突っ込んで行く。
そして片刃を逆掛けに振り上げて切りつけた。
チンッ!
小手の金属板に刃が走り火花散る。
オレの不意伐ちの追撃は更に砂を巻き上げその目を狙う。
(ヤバイ!)
剣をはじかれたオレは、直感的に身を引いて跳び下がりピョートルの護衛に戻った。
(武闘家のヤツ、きっちり防御してやがった!)マジか?!
両手を横にしたガードの隙間から見える眼光は獲物を狙う獣の目、この状況で反撃を狙ってるのか?
「砂漠で目潰しなんか当たり前の攻撃だ、私に通じるか!」
今の攻撃で突っ込んで来たら反撃でヤツの右拳が動いていた、なんてヤツだ。
武闘家は守りの構えから攻撃の構えに戻し、真っ直ぐ突っ込んでくる。
(なんだ?同じ攻撃?突っ込んで来るだけじゃ、通じ無いと解って無いのか)
ピョートルの使う魔法は[爆破]、その魔法は方向さえ合っていれば衝撃波でダメージを与えられるんだ。
砂煙の舞う中でオレは[爆破]を炸裂させる。
パァンン!!
自分の間近で破裂する魔力は振動が骨と内臓を通り抜け、身体の中に流れる血に熱が混じる。
ゲホッ、痛ぇ。
「どうだ、いいかげん負けを認めろよ。お前には勝ち目なんて無ぇんだよ」
二人で爆破魔法の波状攻撃、どれだけ強くても武道家一人に負けるかよ!
こっちも限界が近いが、鉄と皮の防具がダメージを軽減している。
対して向こうは所詮布の防具だ、ダメージは向こうの方が多いはず。
「・・フッ、知らないのか?偽者、拳聖の武具かただの武闘着なわけが無いだろ?」
何度も爆破の衝撃を受け、砂と埃で汚れ見える武闘着は・・何所も破れていない?
本人の顔と髪に負傷のあとがあったから勘違いしていた、コイツの防具は普通の武闘着じゃない?!
「この服は東の国で作られた特別な糸で編まれた布から出来ている。
軽さ丈夫さ、そして対衝撃対斬撃・対打撃、それに冷気と熱に強い特別製だ。
お前の下級魔法なんか効くか!」
ニヤリと笑う武闘家はダメージを負ったフリも止め、瞬きの間に拳の距離まで詰め渾身の拳が盾ごとオレを吹き飛ばす。
ゲボぉぉ!!おお!!?
喰らった衝撃で体が宙に浮き、一瞬意識が飛んだ。
ゴシャッ!
背中にクッションが・・ピョートル??
「大丈夫ですか!」オレを受け止めた相棒が背中で叫ぶ。
「・・大・・丈夫だ、それよりアイツ。魔法が効いてない、どうしよう」
遠距離でチクチクとやってたら、勝てるか解らなくなった、計算違いだ。
「今に拳に耐えたか偽者め、それならさらに絶望を見せてやる[大真空]!」
武闘家が魔法を唱えると風が巻き上がり、砂の竜巻が重なるように捻れ勇者に迫る。
顔・目・鼻、体中に切り裂くような砂と空気の刃。
素早く屈んで防御したピョートルは[大真空]をやり過ごし、オレの体は砂漠の中を引き摺り回されたようにスタボロになった。
「~~つ!痛~~!![中回復]!・・ハァハァハァ、」
死ぬ所だった!
[大真空]だと、コイツまさか僧侶の魔法を使うのか?
「ワタシはその絶望の顔が見たかったんだよ、お前みたいな偽者のせいで私達が味わった屈辱、怒り少しは理解したか」
「・・知るか、お前こそ偽者だろ。武闘家じゃ無ぇのかよ」
まさかコイツ、転職組か?僧侶を転職して武闘家になったとか。
(・・・違う、こいつの歳で僧侶も極めず武闘家になるなんて、教会が許さない・・って事はこいつ・・)
「武闘僧・・[モンク]か?お前」
教会の私兵、武器を持つ僧侶。
戦う僧侶。普通は僧侶の才能に恵まれなかった人間がなる下級兵。
「良く知ってるな偽者、だがお前の知識には間違いがあるぞ。
世の中には稀に生まれ付き武闘僧・つまり武闘家と僧侶、両方の職業を与えられ成長する[ダブル]と言う人間がいる。それが私だ!」
・・・・卑怯、卑怯だ!狡い!ズルだ!チートだ!汚い!流石教会は汚い!
(そんなヤツがオレを否定し、オレを殴り・オレを拘束し、オレを殺すとか言うのか。
・・・ガキが、お前ら能力の有るヤツが本物で、おれは出来損ないなの解ってるよ。
オレの取り得なんか死んでも蘇るだけだ。
魔王を殺すまで・精霊とか神がオレを見放すまで蘇るだけのちょっと強いだけの人間だよ・・生き返るだけの偽者勇者だよ)
その取り得すら否定し『死にたく無い!』って言って逃げ出したオレは、お前らからすれば本物の役立たずだろうさ。
(・・・寒気がする、ちょっとだけ・・最近ちょっとだけまともになった気がしてたのに・・気持ち悪い[何か]から抜け出せたと思ってたのにな・・)
「勇さん!」
・・ああ「ああ大丈夫だ、まだいける」まだヒトとして踏ん張れる。
だから心配するな、勝つさ。
こんな強いだけのヤツなんか、オレ達は何度も倒してきただろ?
それにコイツからはあの悪魔神官ほどの悪意は感じ無いんだよ!
ゴモリーやヤールほどの力の差も感じない、
(ただ、久し振りに知らない他人に否定されたのが、キツかっただけだよ)
「・・なあ、武闘僧。お前の目的はオレか?それとも魔物の殲滅か?」
多分オレが狙いだろうが、確認は必要だ。
それによって作戦を変える必要もある。
「?私が指令を受けたのはお前の捕縛、逆らえば殺して死体を持ち帰る事だ。
だから思う存分抵抗してくれて構わないぞ。存分に無駄な抵抗をしてみせろ」
ウン解った、お前の足を斬り飛ばして逃げさせてもらう。
どうせ武闘僧、僧侶の回復魔法だって使えるんだろ?直ぐに回復をかければ繋がるだろうし。
その為には殴るか切るか、魔法で弱らせる必要があるな。
今は・・ギリギリだな、まだ朝日が出て無くて助かった。
武器を腰に差し両手を空にして構える、そのスタイル・構えに反応してスライム騎士が前にでて盾を構えた。
「無駄だ、お前たちの魔法は私には通じ無い。
前の魔物を打ち倒しお前の小細工も粉砕してやる。先ずはそっちの魔物だ、覚悟しろ!」
素早い拳の連撃に盾を構えたピョートルが耐える、ヤツは一度引いてから水平蹴り、バックステップから跳び蹴り。好き勝手やってくれる。
「こんな魔物、少し丈夫なだけの壁・カカシと変わらないぞ、今すぐぶっ壊してくれる!」
拳に力を込め、腰を落とす正拳突き。
ガキィィィィンンン!!
ゴーレムの拳と引けを取らない拳は、鉄の盾を鐘楼の鐘のように響かせた。
「終りだ!」
ピョートルが攻撃をしてこない事を利用して、連続の力溜めと正拳突きを繰り出した。
「阿呆か、終りはお前だ」
「「[氷結]」」
空気中の霧と霞みから一気に温度を奪い、拡散する氷結。
直接の威力は薄いが、湿度の高い空気を冷やすと水分が砂に落ちる。
「さらに[氷結]!」
連続で[氷結]を唱え、砂に染みこむ前の水分を氷らせる。
(元々夜風で砂が冷えてたからな、それにさっきまでの霧のお陰で空気中に十分、水も有った)
「少し冷えたが、それがどうした」
ヤツが拳を突き出すのと同時に、オレが突っ込む。
?「なんだ、これは!」
足元の砂は一時的に氷り着き、ゴツゴツとしたヤスリのような地面に変わっている。
(その靴じゃあ、凍った砂の上を滑るような動きは出来ねぇだろ?)
その隙をオレが見逃すはずが無い、
(どうせ斬撃耐性もある防具だ。オオバサミの本気の一撃を食らえ!)
片刃の峰打ちではない、鋼の剣二本分の重量と遠心力、それに堅い地面で足の踏ん張りも効いた本来の威力だ。
ザクッッッ!
肉を切り堅い毛皮を裂く手応え、そのまま振り抜き・円を描くように体を回転させ二度目の円撃を・・・?
「ちょ!ちょまて、お前・・女か!?」
白い肌が目に写る。
薄い胸元を守るようにしてあったサラシが切れ、腹筋の薄い白肌と少しの膨らみに腕が止る。
・・・?・・「キッ!貴様!」
左の拳・・だったと思う、何かがチカッとしてゴンッ!となった。
すまない、おれはなにを言っているか解らないが、実際なにが起こったのか理解できなかった。
オレは気が付けば馬乗りにされ、ヤツは右手は胸を隠し、左拳を何度も打下ろされ殴られていた。
痛ぇ!マジ痛ェ!殴り殺される!
素早く左回りに体をうつ伏せにして体を丸め、暴れ馬のように背中のヤツを弾き飛ばして逃げた。
軽い体重のヤツは簡単に転がり落ち、座ったままのヤツは立上がったオレを見上げていたそして。
とても怒っていた。
・・・・沈黙、にらみ合うヤツとオレ、どうしよう・・
「いつまで見ているんだ、早くあっちを向け」
「・・お、おう」
「勇さん、どうなっているんです?向こうは人間の女なのですか?」
「・・どうも、そうらしい・・今の内に逃げるべきだとは思うが・・」
服を破り、胸を覗いて逃げ出す偽勇者・・駄目だな、ただでさえ世間の目が厳しいのに別ベクトルで悪評が高まってしまう。
サラサラと絹ズレる音と、ゴソゴソと着替える音と気配。
耳を集中してしまうのは仕方ないだろ、男なんだから。
「よし、取りあえずこっちを向け偽勇者」
「・・スマン、服を破くつもりは無かったんだ・・」
破れるとは思ったけど、それは覗くためとかじゃ無かったんだ。
「その話はするな、忘れろ。お前もどうせ、つまらない物を見たと思っているんだろ」
胸の所を何とか括り、オレの目がそっちに動くと手で隠してくる。
「正直に言う、綺麗だった」
白くて女の子らしい腹と胸元、多くの女性を見た事は無いがむさ苦しい野郎共の腹筋と胸筋とは比べようも無い。
「・・・・」
何故か顔を赤くして拳を構える武闘僧の女、力を溜めて攻撃力が上がったのか?
「ホントお前は何なんだ、弱いくせに小細工ばかり、そのくせ・・嘘付きでひとを惑わせる。
死にたく無いからって嘘ばかり、・・・・そうか!これがお前の手なんだな?」
なにか悟ったような顔で目を開き、やる気をみなぎらせた武闘僧が拳にさらに力を溜めていた。
困った。
オレはガキの頃から『大人の言う事を聞け』『年寄りは大事にしろ』『女子供に手を上げるヤツはクズだ』その他、ヒトとして良い事をするように育てられている。
男同士の喧嘩ならいざ知らず、年下の女の子と本気で殴り合う?
それも腕にズッシリと重い、この鋼の刃を使って?・・・無理だ。
「待てっ!少しまってくれ・・お前はオレが捕まったらどうなるか知っているのか」
拷問を受けて死ぬ、死ぬ程いたぶられ、神も世界も呪うほど拷問を受けて殺され続け、勇者を交代させるつもりなんだ、やつらは。
「知らん!神官長様は、お前をもう一度神託の間に連れて行くと仰られたのだ。お前が勇者に相応しくないと、神様の神託を得た後の事なんか知るわけがない」
・・・その時のオレは、どんな肉塊になっているんだろうな。
「・・おれは、拷問されて、自分から勇者に相応しく無いと、心から思うまでいたぶられ、何度も殺され・生き返らせて殺すらしい。
それでも・・それを知ってもオレを捕まえるっているのか・・」
その時、おれはどう答えて欲しかったんだろう。
味方してほしい、敵対するのを止めてほしい、無視してほしい・・多分そんな所だろうか。
「また嘘か!嘘ウソうそ・・ばかりだなお前は。教会がそんな事をするはずが無いだろう!」
教会の光り・表の部分しか知らない少女はオレの言葉を鼻で笑い、もう十分だとばかりに足先で地面の様子をはかり腰を落とす。
そうだな、おれは嘘つきで臆病者だ。
どうせ何を言っても聞いてくれないし、解ってくれるヤツなんていない。
再認識したよ、ありがとう。
オレはハサミを下ろし、鎌を外した。
女子供を本気で殴るには枷になる、敵を殺す為の武器は[重すぎる]。
殺せない武器・呪われた[胴の剣]お前なら、・・・本気でやってもヒトを殺す事はない、そのこれは程度の武器だろう?。
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