第27話
一つ、候補者達どうしでは争わない。
一つ、他国の介入は出来るだけ回避し、介入が発覚した場合も教会を名乗らず、
穏便に排除する事。
一つ、偽物に倒された者は、速やか帰還し治療を受ける事。
信者への無用な情報提供はさける事。
強力な魔物・魔族の介入があった場合は適時・適切な判断で行動する。
「・・とにかく自分達は名乗らず、やる事やって帰って来いって事だな」
渡された指示書を指で挟み、ヒラヒラと風に遊ばせていたライヤーが要約する。
「魔族の介入があると教会は考えているようだな、なら魔物も倒し使命を全うするのみだ」
ライヤーの持つ指示書を奪ってふところにいれ、全ての準備を終えたヨシュアは神官の肩を掴む。
「行くぞ!」
「ハイハイ、ちょっとまってくれよ」
ライヤーも神官の肩を掴むと神官は[旅の翼]を放り投げた。
目指すは偽勇者のいる[ランガ]
翼は光りの輪を作り、男達を引っ張り上げ空に飛ばした。
───────
勇者はズッシリと重い鋼の刃を腰に差し、腹に鎖鎌を巻く。
鋼の肩当てと、背中も包む鉄の胸当て(少し重いが)
グリグリと体を捻り、足を上げてみる。
「そんで、こっちが鋼の丸盾だ。お前さんの要望通りだと思うんだが、持ってくれ」
篭手に縛り着けるような丸い鋼の盾、体を守ると言うより敵の攻撃から身を逸らす為に重さを捨て、使い易さを求めた形だ。
「そっちは鋼の軽鎧だ、薄くはしたが鉄より丈夫で軽いぞ。
中に挟んだ魔獣の皮で、衝撃も吸収出来るはずだ」
厚い鉄鎧から装備を変えたピョートルが鎧を叩き、硬い音を立てる。
スラヲは少し嬉しそうだ、そんなに重かったのか、、悪かったよ。
「それと鋼の軽盾だ、少し大きいが鉄の盾より軽くなっている筈だ。持って確かめてくれ」
鉄の盾を薄く伸ばし、同じ大きさに切りサイズを合わせて鋼の棒板を縦横に張り硬度を上げてある。
「思ったより軽いですね、鉄の盾より・・二割ほど」
更にスラヲが喜んでいる。
そんなに重かったのか?
(・・・今後これ以上の重い装備が表れないといいな)フフフ。
「まあな、だが鋼鉄の盾よりは防御が弱いぞ、忘れんなよ」
少し嬉しそうな・・多分だが。
角の生えたマスク半裸の男が親指を立てる。
「良い仕事だ、ありがとう・・これでオレ達も長生き出来るだろうし
・・武器屋のオヤジ、長生きしてこれからも良い武器を作ってくれよ?」
勇者がお礼に金貨を置こうとすると、オヤジがその手の上に手を乗せた。
・・・・
「わかったよ、生きてまた戻る。
この武器がどれだけ凄いかはその時教える、無粋な事して悪かった」
おれは言葉以上の感謝の仕方をこれくらいしか知らないんだ。
「アンタがどこでどんな生き方をしていたのは知らんが、カネだけが感謝を示す方法だけじゃねぇって事だ。
そうだな、長生きできたらそのうち酒でも奢ってくれよ。ハハハ」
(・・・おれがこの認識阻害の魔法無しでアンタに会えるような時が来たら、今度は一緒に酒でも飲もうか・・)
今は正体を隠し、名前も言わず、認識も誤魔化さないと笑い会う事すら出来ない。それが少し苦しい。
(オレが勇者って事がバレたら・・このオヤジもオレに石を投げるのだろうか?)
そんなのは見たくないな、はぁ・・
「じゃあ達者でな」
勇者は武器屋の扉を開けて、砂漠を目指す。
最初の目的地は砂漠の中心、オアシス都市イシス。
そして砂漠の向こうにある港町だ。
(海にさえ出れば、王国のヤツらも手出しが出来ないだろうから。そこまで行けばきっと・・・)
そこからは晴れて自由の身、そう信じて焼けるような砂を踏みながら魔物の屍を踏み越えてでも逃げ続ける。生きるために。
「緑ガニ!リベンジだ!」
早速出くわしたカニに新しい武器を振り上げ、緑のカニは目が合った瞬間[硬化]を唱えた。
真っ先にカニが硬質化して殻が鉄の硬度を帯びた。
(その硬さを何とかする為にコイツがあるんだよ!)
両刃の剣に合わせるように片刃の刃が組み合わさり、武器本来の形を作り出す。
[大鋏]
オオバサミと呼ばれるその形は、二つの鋼の固まりだ。
一方は形の変わった剣にしか見え無ず、もう一方も片刃の片手剣に見えるだろう。
「その二つの鋼で、こうやってお前の足を挟めば」
バチンッ!
テコの原理と挟む力、二つの圧で堅い物が切れる。
武器屋のオヤジは堅い魔物を倒す為の武器を考え、工夫を凝らし考えついた形がこの武器だ。
だから予想通り、硬化したカニの足が飛んだんだ。
(ハサミは突いたり叩いたりする物じゃない。
が武器として使うなら、コレは挟むだけじゃ駄目なんだ)
今度はオオバサミを分解し、二本の剣として隙間に突き刺し殻をこじ開ける。
「フハハハハ!!カニ共!
ハサミはお前らだけの専売特許じゃないって事を教えてやるよ!」
泡を吹いて威嚇するカニのハサミの根元に[オオバサミ]が食い込み、バチンッと足を飛ばす。
[硬化][硬化]怯えるようにカニ共が硬化を始めるが、「間接を硬化したら動けないよなぁ?」つまり関節は無防備なんだよ、お前らは!
次々にカニを足を飛ばし、殻の隙間に刃を差し込む。
(まさに蟹料理だ!緑色してなきゃきっちり喰ってやる所だよ!)ははは!
ハサミ無双だ!
カニも亀も斬り飛ばし、ゾンビは二刀流で斬り飛ばし、鎧は挟んで斬り飛ばす。
(片手剣にしては少し重い?
違うね、この重さが・重量が必要なんだよ)
片手剣は軽く作られているが、その分威力が落ちる。だがこもオオバサミは少し重くする事で、振り回す時に威力が上がるように作られているんだよ!
更に一方を防がれても、もう片一方の刃を差し込める。
組み合わせて使えば頭上を守らせて、その股からザクッと敵を両断出来る。それがオオバサミなんだ。
「・・・勇さん、凄く嬉しそう」
「解んないかなぁ、、、一人の武器職人が作りあげた傑作をその限界まで使いたいって男の・・漢の気持ちが」
オオハサミ、これは良い物だ。
さまよっていた鎧は起き上がり、仲間にしてほしそうな顔でこちらを見ている!
「・・・いや、いいから」
さまよっていた鎧は寂しそうに去って行った・・・
「・・なんだかなぁ・・
数秒前まで殺し合いをしていたのに、なんで仲間になろうととするんだ?」
・・確か昔、どこかの軍棋名人と軍人の話で軍人が『オイ!軍棋ってのは野蛮なゲームだな、倒した敵の駒を自分の駒として使うなんて!』
って言った時に軍棋の名人が『・・じゃあ、捕らえた敵の駒を二度と戦え無ぇようにするって事が人道的なんですかね。
・・・それにオレなら捕らえた駒を誰より、敵さんの誰より上手く駒を使ってやれる。そんな気がするんですがねぇ』て答えたとか何とか・・・
オレの顔は、魔物を上手く使う人間に見えるのかも知れないな。。。良く解らないが。
ゾンビ・鎧・回復スライム・・
彼等を仲間にしたとして・・オレは世間にどう見られると思っているんだ。
これ以上目立つのはダメだ、国王とかに暗殺者とか送り込まれたら逃げられ無くなる。
(それに手足を斬り飛ばしたのに・・なんで立上がる時には治ってるんだ?
・・魔物は不思議だ)
「この辺の魔物にはもう負けなくなりましたね・・どうしました?」
確かに。
オオザルのやつはどこで覚えてきたのか、手の平サイズの白旗を振って降参のアピールをしてくるようになってるし。
「・・ああ、悪いピョートル。少し考え事をしてた」
魔法無しでも十分戦える、それは魔法力の全てを回復に回せるって事。
それはつまり、、、これなら砂漠越えも何とかなる、って事じゃないか?。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・結論、砂漠の敵と戦えるって事と砂漠を踏破できる事は違った。
全身が焦げるような日光と足を焼く砂、肌に着く砂は服の間に入り込み肌を擦る。
喉を焼くような空気で、立ち止っていても体力を消耗する。
そして目を指すように光る砂と太陽、熱さだけでも普通に死ぬ。
背負ってきた水は予想以上に早く消費するし、、、砂漠ではヒトは生きているだけで奇跡に等しかった。
「砂漠を舐めてた・・」
こんな所で[旅の翼]を使うハメになるとは・・まだ砂漠に入って1日目だよ。
「すいません、スラヲが」
一番水を消費する仲間、それはスライムのスラヲだった。
彼?は砂漠の砂に触れると飛び上がり、ジュウジュウと水分を蒸発させて体が縮む・・見た目通り水分が多いからだ。
スラヲの体は現在、常時50℃くらいの温水みたいになって縮んでいた。
「気にするな、仲間の特性も考えずに動いた結果だ」オレが悪い。
それにようやく日が傾いてきたんだ、砂漠の夜を経験してから町に帰って反省会しようじゃないか。
そんで準備の見直をして再出発だ、砂漠の恐ろしさを肌で感じて経験できたって事で良い方に考えようぜ。
「砂を掘るから周りを見ていてくれ」
盾を外し砂を掘る。
遮蔽物[しゃへいぶつ]の無い砂漠で火を起こすと炎の光りが遠くの場所まで届く。少しでも、周囲にもれる光りを減らす為の工夫をしないと。
「それならオレが、勇さんは休んで下さい」
ピョートルは手に持っていた盾を掴んだが、オレはそれを止めた。
「ピョートル、お前の盾はオレ達の生命線だ。
おれはお前の守りで何度も命を拾ったんだ、それにこういう穴掘りとかはオレの方が上手い」
自分の丸盾をスコップ代わりに突き刺し、砂を掻く。
サクッと軽く細かい砂は簡単に掘れる・・だが簡単に埋る。
「大丈夫だ、お前は十分役に立っているしオレは頼りにしている。
お前の盾がオレ達を支えている
・・って言ってもいい・・スラヲもな、これからも・・頼むぞ・」
よいしょ・よいしょと砂を掘り、周囲も含めて太股の辺りまで掘り進み汗がでる。
(・・こっぱずかしい事を言う時は作業しながらがいいな、会話が止っても体だけ動かせば良いから)・・恥ずかしい。
もくもくと身体を動かしていると日は完全に落ちて星空が広がって、周囲は光がないと姿が見えないほどに真っ暗になっていた。
「よし、木炭を出して、手加減して[火炎]!」
星明かりしかない不安な闇が炎の光りで照らされ、暗い砂漠にヒトの領域が作り出される。
「・・砂漠てのは、熱いだけじゃないんですね」
急激に風が冷え、スラヲが小刻みに振るえている。
(・・寒いのか?)
「昼は鉄が手で掴めない程熱くなり、夜は凍えるほど冷たい風が吹く・・らしい。
革手袋越しで無ければ武器も掴めないって話だ」
お陰で皮手袋越しでも熱のせいで、親指の付け根が少し焦げて指の水膨れが痛い。
「なんで人間はそんな所に住んでいるですか?魔物でも住みにくいと思いますよ」
そうだなぁ・・おれも同感だ。
だからこそ、あの国王から逃げるには最適なんだ。
「たとえば・・昔、それもすごい昔は緑の土地だったとか?
人族は土地を簡単に捨てられない生き物だから」
少しずつ・少しずつ砂漠化して、そこに住む人間は徐々に順応して・・今に至るとか?
先祖代々の土地は例え砂漠でも、捨てて他の土地で暮らすわけにはいかなかったんだろう。
ん?木炭の赤い火で手を温め、スラヲの体が丸から滴のような形に垂れ始めた頃、夜の闇に金属のぶつかり合う音が聞こえる。
(夜盗か?それともどこかの冒険者が戦闘してるのか)
感覚的に、砂漠を行く時は夜の方が良いのだろうと思ってたから、少し戦って見て魔物の強さを見る事も必要だと思い始めていた。
(そうか・・砂漠に慣れた冒険者はきっと夜中歩き、昼間動き回るのは阿呆なんだろうなぁ)はぁ・・
・・・てオレは阿呆じゃないぞ!知らなかっただけだからな!
(魔物の強さを知るにはいい機会だな、、少し様子を見るか)
装備や隊列、魔物の種類や使う技・弱点がわかるかも。
「ピョートル、休んでいる所悪いな」
「イエ、私も気になっていたので」
となると・・完全に油断しているスラヲが気の毒なのか。
なにか訴えるような目で勇者を見るスラヲの視線を背に、音の方角に行ってみる。
・・・・おっと、火は消さないと。
魔法コウモリと・・・鎧サソリか?アイツの一撃は痛いんだよなぁ。
(戦っているのは・・商隊か?
護衛のヤツらは・・それなりに強そうだが、魔物の数が多いな。
時間をかければかける程、魔物が集まって来てやがる。。手伝うつもりはないから頑張れよな)
護衛の冒険者が空振りを繰り返すなか、泥の手が足を掴んで倒しその身体に群がるように魔物が集まっていた。
夜のていおう、だったか?アレの魔法か?
[幻惑]魔法を使われると敵の位置が掴み辛く、攻撃が外れる。
物理だけで戦う戦士職の弱点の一つだ。
(後は[硬化]と[鈍足]と・・戦士職には弱点が多いから・・)
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