第39話
「クッ!・・くっそ痛い!」
腹に開いた穴に薬草を塗付け、[回復]まで使っているのに中々傷が塞がらない。
(多分ヤツの特性とかそんな物が関係していんだろうが・・・痛い!)
不意打ちに一撃だけは手抜きできず、本気を出したって所か。。。
「大丈夫ですか」
おれの呻[うめき]声が聞こえたのか、ホフメンは心配そうな顔で御者席から振り向いてくる。
「ああ、問題無い」なにも心配する事は無い。
ほぼ、騙しに近い状態で連れ出したんだ、ホフメンを心配させても仕方ないだろ。
彼には安全な冒険ってヤツを保証して・・保証してやりたい。
(巻き込んだ者の責務・・か)
危なくなったら逃げろ、とは言っているが本当にヤバイ時には逃げられ無いのが普通の人間だからなぁ・・。
一番は『危ない所には近づかない』事が大事なんだ。
「身体の傷はいずれ治るさ、ただ・・傷の種類がいつもと違ってたから少し堪えただけ」ッ!・・ハハハ、ちょっと痛かった。
(うめきも我慢しないと、心配させるよな・・)
ホフメンにうめき声を聞かせて心配させても、傷が治る早さが上がる訳じゃないから。
・・・ヒマだ、怪我人ってのは身体を休ませるしかやる事が無い・・
(傷の箇所以外は全然元気なんだよ!ああヒマだ・ヒマだ!ひーまーだー!)
痛いだけで、足とかは全然動かせる。
右手を動かし、左手を動かす、ゴソゴソ・・ごそごそ・・
「・・お暇なら・・軍棋かリバースでもします?
・・長旅には必須なので一応持って来てはいるのですが・・」
「軍棋は・・いいや、駒が多すぎてなにか有った時に反応が出来ないから・・」
王・弓・騎士・兵・将・隠・重・武・魔・僧・槍・獣・塔・竜・虎・暗・諜・・・・姫・舞・詩・巫・・・盤面のサイズと駒の数、初期配置と盤上を選べる自由さ、
さらに駒を進化させたり、同じ駒の上に駒を置けたり・・・ほぼ無限に等しい戦略が特徴のゲームなんだが・・難しすぎるんだよ、アレは。
「ハハハ、そうですね。
私なんか騎士と槍兵が好きなんで、三段階目の上級重騎兵とか重長槍歩兵とかを目指しちゃって・・」
「ああ、軍棋有るあるだな。オレも暗兵を進化させて暗殺者にしたりしてな・・」
(前方の敵にダメージ3の重長槍歩兵は面倒くさいからなぁ)
「背後からの攻撃で即死効果三割の暗殺者とか・・ユウさん、性格がでますねぇ」
「オレにサイコロを振らせたら、確実に狙えるからな」
「ああ、いますねぇ・・サイコロの目に恵まれているヒトって・・ズルは駄目ですよ?」
イカサマじゃないんだけど・・456サイとか使うやつ・・いたっけなぁ・・
「じゃあリバースで、え~~と□のやつしか無いんですが・・形にこだわりあります?」
「無い、色にもこだわりは無い。最初の先手はそっちに譲るから、やろうぜ!リバース」
縦横12マスの四角い板の上に、赤と白の□の駒を並べる。
先手は白のホフメンからだ。
「・・昔は〇型の駒しか無かったらしいって話、知ってますか?」
ホフメンが白の駒を置き、俺の赤をひっくり返す。
「確か・・どこかの商人が独占販売していた、とかって話だよな」
俺も赤の駒を置いて、はさんだ白の駒を裏返す。
丸い木や石、それをコインのように薄く形を整え、裏には黒・表には白の駒。
駒を挟まれると裏返り、盤上に置く場所が無くなるまで交互に駒を置く。
最後に駒の色が多い方が勝ちと言うゲームだが・・
「どこかの・・美しい女神様が、『洒落臭い!』とおっしゃられ、□や△・五角形の駒と色も赤や緑・青や黄色を使う事で独占販売を無くされたのだと・・」
他にも駒の表面に貴族の家紋を彫り、下色を着けた後で別の・・例えば黒の下地に赤を塗れば、駒に黒い家紋が浮き上がるような工夫を着けたり・・と。
「軍棋もそうですが、美しい女神様は本当に色々な物を私達に与えて下さって・・」
「ホフメン、お前さんは女神教徒か?アレは・・」
ズキズキとこめかみに痛みが走る。
(女神がなに者かは知らないが・・女神教の事を悪く言おうとするだけで頭が痛くなる、ヤツ等は[女神様のお叱り]とか言っているが、呪いじゃないのか?イテテテ!!)
「駄目ですよ、美しくも清らかな女神様を悪しきざまに言っては。
まぁ少しだけ変わった事もなさいますが・・多分・良い神様だと・・信じておくべきですよ」
「・・大体だ、トランポだってそうだ。
十三枚×四組+二枚の絵札、コレを重ねて千切る漢試しとか・手に重ねてナイフを突き刺す漢試しとか・・空中に放り投げて、宣言した絵札を投げナイフで狙うとか・・ううっ」ズキズキする。
何を考えて、そんな物が流行るとおもったのか。
(たしかトランポも女神発だった気がするんだがな)
「ま・・まぁトランポは、置いて行きまして。
他にも色々な発明や珍しい物を私達に教えて下さる・・すばらしい、聡明な女神さまですよ」
一々褒め言葉を言わないと、駄目な神とか・・まぁ恩恵もあるらしいけど。
「この間なんて・・タルタルソース、でしたか?
不思議な白いソースを広めて戴きまして・・とても美味しいと評判だと聞きますよ?」あとは、からしマヨネーズとか胡椒マヨネーズとか・・
ホフメンの言葉に、疑問符が多いのはわかる。
「・・ハズレも多いって・・イテテッ」聞く。
虫の入った辛い酒、虫の入った飴、ただただ辛い飴とか、無駄に酸っぱい飴とか。
(口の中でハジケる飴と、混ぜると色の変わる・・お菓子っぽいナニカは好評だったきがするが・・)・・・そう、
とにかく話に聞く・その女神。
なぜか[とても臭い魚の塩漬け・半腐り]とか、虫の入った固形乳製品とか・・何かがおかしい物を流行らそうとする。どこかおかしいのだ。
(なんだよ、[海鳥の海獣詰め発酵]とか、おかしいだろ!
なんで中身をチューチューするとか言い出すんだ!)
だから皆、少し言い淀む形で、褒め言葉を探しながら口にするんだよ!
信者も微妙な顔で『美味しいですよ』としか言わないから、始めて食うヤツは自分の舌を試されるんだよ。本当になんなんだ?
「ああ!そうですね、私の食べた物では・・獣肉で[甘い豆の潰した物]を挟んで揚げた・・アン・・なんとかでしたか?不思議な味でしたよ」
・・ああ砕き肉[ミンチ肉]で固形乳製品[チーズ]を挟み、さらに固形乳製品[チーズ]で包んで揚げたやつ、とかな。
『なんでも揚げたらカロリーゼロ!』とか言って揚げようとするのは止めてほしい。
痛いイタイ、頭が痛い、女神様!コレは文句とかじゃないんで!
「・・団子・・甘い団子を揚げたやつ・・うう」
甘い・油・軽く振った塩と赤くて辛い粉・・うう思い出してしまった。
[お叱り]で頭痛が痛いし、思い出して吐き気がする。
本当に邪神の・・うう
「駄目です!可愛らしい女神様に叛意のような事を考えては!
頭が『ボン!』ってなりますよ!」
そう、その女神様ってのは天に唾する事を許さない。
天誅・天罰、きっちりと殺しにかかる・・本当に恐ろしい女神様なんだ。
(ふー・・恐れ・恐縮し・怯える事は許されているからな・・)
頭痛は警告、酔っ払いでも頭痛が始まれば口を閉ざす。
阿呆だけだ、頭が吹っ飛んだヤツは・・
別に死なないが、記憶とか味覚とか嗅覚とかの感覚がおかしくなるってのも聞く。
「お陰であの・・不思議食料が『めちゃ美味い!良い匂いだ!』とか言い出すんだが」
そして本物の信者に[生まれ変わって]しまうとか、、なんて恐ろしい話なんだ!
パチッ・パチッ・・・
「お互いカドの取り合いですね・・」
「ああ、ホフメン。そっちもかなりやりこんでいるなぁ・・」
痛みを忘れる雑談とリバース。
頭を使い、口で会話を楽しむ・・何だか久し振りにゆったりした時間だ。
勇者が二敗した所で仰向けになる、降参の合図で腹を見せると(何やっているんですか?)見たいな顔でピョートルが覗きこんできた。
「・・寝る」
「では、ピョートルさん。私とリバースしませんか?」
「・・少しだけなら」
ピョートルがホフメンとリバースを始め、スラヲが勇者の腹に乗る・・少しだけ冷たく感じる。
(スライムの身体って・・水枕みたいだ・・)ちょっと気持ち良い。。。
・・寒い、腹が冷える・・
体温を奪い続けていた液体生物をどかし、馬車の外に目を向けた。
暑さは最大、空気もカラッカラ。
馬車を写す影だけが伸び始め、あとしばらくの我慢だと言っている。
「・・あと数刻で日暮れか・・」
眩しく照り返す砂の上をドスッ・ドスッと歩むゴラムは疲れを知らないように歩き続けていた。
「大丈夫か~~」頼りになる仲間の背中に声をかける。
「問題無い」短く返すゴラムは本当に問題の無いように、ペースを落とさない。
「二度ほど戦闘になりましたが、ゴラムさんの投砂と私の槍で何とかなりましたよ」
と言う事は、ピョートル・・スラヲは出られなかったか。
(だからひとの腹の上で寝てやがったんだな、まあいいけど)
「砂が焼けているんだ、無理は必要ない」
少し落ち込んでいるようなピョートルと、全く気にしてない感じのスラヲに声をかけ・・まだ寝ているスラヲをピョートルの横に置く。
「その代わり、日が落ちたらしっかり戦えばいい」
昼の戦闘はホフメン・夜の戦闘はピョートル。
交代で戦い、休めば体力的にも安全に戦えるだろ?
それより・・やってみたい事があったんだ。
「気分を変えるぞ!」・・・・
『゛オ゛オ゛オ゛オ!!!!掛って来い!ヤァァァァ!!!』
勇者が叫び、[なに?!]見たいな顔で仲間に見られる。
声に驚き、砂から飛び出したのはミドリガニとサソリ鎧と巨大ミミズ。
「良し!カニとミミズ、お前達は逃がさん!」
ホフメン・ゴラム!殺るぞ!
カニの腕を両断し、巨大ミミズを輪切り、サソリ鎧を斬り飛ばして・・・
「カニは回収だ、ミミズも、鎧は・・いらないや捨て置こうか」
・・・・
「さて、ここに取り出したる鉄の板。
そこに種油を塗りまして・・ゴラム君、手を出してくれ・・」
ゴラムの手の平に鉄の板を置いてしばらく待つ・・塩の用意は十分か?
では!
砂漠の熱と太陽で、十分に温まったゴラムの身体は近づくだけで熱い。
ならば、そこに黒い鉄の板を置けば・・
じゅ~~~~、蟹が!緑の蟹が赤く焼ける。
「熱い熱い熱い!勇・熱い・止めてくれ」
ゴラムが声を上げ、鉄板を落とそうと暴れる!
「熱いのはゴラムの身体だ!落とすんじゃ無い!」
「・・・・・」
「あ・・本当・・だ・・?」
ゴラムが不思議な・・今までに無い顔をして軽く混乱しているようだった。
いやホント、熱いのはゴーレムの身体だからね。
一度焼けたゴーレムの身体で蟹を焼いて見たかったんだ。
ほら・・美味しそうに焼けてるよ?
仲間達が変な目で見てくるぞ?おかしいな。
空気を変えるつもりが、おかしな空気が入ってきたようだね。
「蟹の身は身体を冷やすって言うだろ?
それに・・ミミズ肉は珍味だって、味は良いはずだ」
小さいミミズは良い出汁がでる、良く泥を抜き・料理すれば味の詰ったジャーキーのような風味ある・・らしい。
「・・ゴラムさん、すいません。こんな勇さんで・・」
そう言いながらピョートルが蟹を掴み・・口に入れた。
「スラヲも食べなさい、蟹は美味しい・・カニは・・美味しいですよ」
相棒の言葉でスラヲが手?を伸ばし、蟹を取り込んだ。そして跳ねた!
ほら!やっぱり美味いんじゃん!
塩もかけて食べろよ!あと酒も少しくらいなら飲め!
蟹も肉?も[呼べば、向こうからやって来るんだ]うーばーってやつだ!
手の熱が落ちた所でゴラムには寝転んでもらい、腹に鉄板を置く。
(なんだよ、『もう・・好きにして下さい』みたいな顔は、お前も蟹を食え!)
「以外と・・ミミズは・・アレだな」
堅い、良く洗った方がいいんだが、水が勿体ないから・・少し臭かったな。
味は良いんだけど・・本当に味だけは良いんだ。
最後に丸芋を輪切りにして鉄板に乗せ焼き、果実酒をかけて香りを加えた。
「・・なんでしょうね・・ユウさんは、変なのか・・料理が上手いのか・・私の目に疑問ばかりが・・」
とか言いながら、ちゃっかり食ってるホフメン。
良いじゃ無いか、砂漠の今しか出来ない料理なんだ。
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