第40話
「ああ、人生って不思議だ・・」
ホフメンがなにか悟りそうな感じの顔で、一息付いて休んでいた。
「そうです・・ねぇ・・」
馬車の中で隣に座るピョートルも悟りそうな顔で、水を口に含む。
全く気にしてないのはスラヲだけだよ、今も蟹ガラを溶かして良い感じに転がっているだろ?ほかのヤツ等は気にしすぎだ。
「なに黄昏てんだよ!美味かっただろ!」
楽しく美味い飯を腹いっぱい食って何が不満なんだよ!
「おれ・・けが・・された」
ゴラム!言い方!何もしてないだろ!一緒に飯食っただけだろ!大丈夫だ!お前はまだ健全なゴーレムだよ!
「どれだけショッキングだったんだよ!お前ら!
これから砂漠を出るまで、毎日の昼飯はゴーレム焼きにするぞ!
・・ってのは後だな、なにか近づいて来る。
気を付けろ・・・・多分敵だ!」
沙漠に沈む夕日の中、砂煙を上げ真っ直ぐこちらに向かって走るソレ。
ソイツからは、オレの身体が粟立つくらいの敵意と攻撃性を感じる。
(真っ直ぐこっち・・オレを見ているのか、なんだ?)
後続の姿は見えない、単騎でオレを狙うヤツって言ったら・・
狂ったように走る馬は口から赤い泡を吹き、勇者を踏み付けるように直進する狂馬は素早くかわす勇者に反応出来ず転倒!
それでも狂ったように足を動かし続けている。
「砂漠で馬を走らせるなよ!このクソ馬鹿が!」
転倒するウマの姿と同じくして垣間見えた白い男、そいつは馬が倒れる前に跳び降り槍を構えた。
「ゆ・・勇・しゃぁぁぁぁ!!!」
目の焦点はオレを捕らえ歯を剥き出す獣のように叫ぶソレは、怒りに染まった目を開く。
そして真っ直ぐに跳び出し、砂を蹴った。
(早い!)
足場が砂地である事など関係無いように疾走し、低く突き上げるように槍が光る。
ヤバイ!
本能が槍を受ける選択指を否定した!
真横に跳んだ瞬間、オレの居た場所に三本の槍が見えた。
獣が口をあけて襲う様に、牙のように光る上下からの槍。
そして真っ直ぐ心臓を狙う槍の残像。
(なんだ!あの槍は!)
一瞬で同時に三回突いたのか?阿呆か!
「ウガァァ!」
槍の残像がまだ中に残る状態で、男はオレの跳び避けた方に槍を振る!
(脱力・・無理!)
筋肉を締め、渾身の槍を身体で受ける。
鈍器で打たれたようにオレの身体が悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
「「勇さん!」」
馬車から飛びだしたピョートルとホフメンが武器を構え、ゴラムが立上がり戦いの構え。
(どうする?アレはどう見ても普通じゃ無い。
攻撃を加えたらホフメンにも襲いかかるか?)
アバラを押さえて砂に転がり、低く構えて様子を覗う。
その時、コマ落ちのように男が動いた。
狙い・構え・移動・攻撃、の順序が消え、構えた瞬間に槍が伸びる!
意識の隙間、判断し・動くまでの僅かな時間に槍が目に写った。
[火炎線]!
魔法の炎が目の前に光り、槍の穂先が耳を切る!
「助かった!」
ヤツの身体が少し動いたお陰で死ななかった!
オレの背中から汗が噴き出し、呼吸が深く荒れる。
「勇しゃぁあぁぁ!」
男は[火炎線]の炎で身体が焦げ、怒り狂ったように怒号を上げると槍を振り上げ、頭上に叩き落とす!
クソッ!
勇者の頭を割る勢いの槍をなんとか飛び退いて躱し、体勢と立て直す為に着地しようと身体を縮める。
地面を打ったヤツの槍は、地面の反動で立上がり着地の瞬間を狙う!
鎌首を上げる蛇のような槍!
そいつが空中で動けない勇者に襲い掛かる!
「クソッ垂れ!」
勇者は足で槍を蹴飛ばすと、今度は蛇が絡み付くように槍が足を捉え、掴まれた足を捻るように槍がうなり打っ飛ばされた。
[中回復]!ピョートルの回復で何とか立ち上がり、ようやくオレはハサミを構える。
「・・なんだアイツ!」
異常な腕の太さと、無理な体勢でオレを投げたせいで外れた手首。
・・その手首を片手で掴むとバキバキと握り、手首の関節を繋げた。
(化物か?)痛みは無いのか?
そのままヤツは口から赤いヨダレを垂らし、槍を構えている。
「狂人め!お前、お前も勇者候補ってヤツだろ!名前くらい名乗ったらどうなんだ!それでも勇者を目指しているっていうのかよ!」
呪いの武具か、それとも特性ってやつか?
狂勇者なんてのがあるのかよ。
「ぐがぁ!」
オレの言葉に反応して槍を構え、真っ直ぐ突っ込んできた!?
(遅い!これなら)
かわせる、そう思った瞬間突進する槍は消え真横から殴られた!
(逆手持ち?!)
槍の届く瞬間に身体で隠し、反対の手に持ち替えて殴っただと!
(なんなんだ?
技は完全に修練された物、なのに肉体と精神が暴走している・・させているのか?)
[洗練された狂戦士]そんな事が有り得るのか?それが勇者候補ってヤツなのか?
奥歯は折れて口の中は血の味、多分魔法を使わないのは[混乱]の副作用。
(それも・・ダメージを受けたら魔法を使い出すはず、化物ばかり集めやがって!)
それとも[勇者]ってのが、化物なのだろうか?
だとすれば、オレは化物になんかなりたくない!
こいつら以上の化物になれないと本当の勇者じゃないって言うなら、オレは勇者なんて糞食らえだ!
(ほかの仲間は完全に無視しかよ!オレだけを狙って来やがって!)
なら!
「ゴラム!投砂だ!
煙幕を張ってくれ、ピョートルはホフメンを守ってくれ!」
(目潰しされたらヤツはどうする?どう動くんだ?誰を狙う?)
ゴラムの投砂で砂煙りが上がった瞬間、勇者が煙の中に立つ影に向かって走る。
(先ずは一撃だ)当てて見て、反応を見る!
下から斬り上げる様に影を裂き、その軽い手応えに飛び退く!
(避けた?視界は奪っているはずなのに?)
このまま突っ込めばこっちがヤバイ、本能が体を引かせ即座に魔法に切り替えて[火炎]を叩き込む。
[火炎]を避ける事が出来るならそれは砂煙の中でも、ヤツは見えていると考えてもいいだろうと考えたからだ。
(?躱した?)
一発目の[火炎]はかわされ、合図を送ってピョートルと同時に放つ[火炎]の炎。
(二つの炎だ、隙くらいは見せてくれよ!)
オレがヤツを止める、そうすれば仲間が攻撃してくれる。
チームってのはそう言うもんだろ?
[火炎]が砂煙に飲み込まれ、瞬間・光りを無くす。
(当った?)まさか、火炎が当ったのか?
ダッ!
避けると思っていた事による疑問と驚き、それを振り払うように勇者は走り出し敵の影に迫った。
砂煙りごと両断する左右のハサミは大きく開かれ、両腕をクロスさせる事で完成するはずだった。
[火炎]?
両腕を広げていた勇者の身体を、砂の中から飛びだした[火炎]が焼いた。
無防備な状態で受けた火炎は勇者の身体を痛みで硬直させ、敵の放つ次ぎの攻撃をよける隙を与えない。
自分の頭に下ろされる槍は砂を切り裂き、風をまとって勇者の額を斬り頭蓋で止る。
おぇ?
オレは斬られた熱さより、脳震盪が頭に衝撃を与え意識が飛んでしまった。
・・クソッ・・ああ・・・・意識が暗闇に落ちる・・
(死んだのか・・ああ、コレが・・死か・・)
ヒトは死ぬ間際に生きて来た事を思い出すって聞いたけど・・なんだよ、なんでピョートル達がやられているだよ・・そいつら、関係無いだろ・・
道具屋のオヤジの困った顔も、訓練場の教官の顔も・・ガキの頃多分何も知らない頃にいた友達の顔も。
・・出てこないのに・・・ホフメン・何を耳元で大声を上げて・・もう、無理なんだよ・・オレは、死んだんだから・・
ゴラムの腕が砕かれ、ピョートルが盾を構えながら必死に[回復]をかけている。
(おまえら・・もういいんだ、逃げろよ・・お前ら・・)
ザーザーと耳の中で音がする、どこかで叫ぶ声がする。
真っ赤な視界の中、足元がフワフワする。誰の足だ?
オレの肩を担いでいるヤツは誰だ?
・・「待て・・駄目だ」駄目だ、
「ホフメン、ヤツ等を置いて逃げるのは、駄目だ」
「!意識が戻ったんですか!」
まだ耳がキンキンする、けど。
仲間を置いて逃げるのは駄目だ、それはオレが死んでからでも出来る。
生きているなら、仲間は守らないと・・
足元はふらつくし、視界は赤い。。。それでも仲間が戦っているなら、立たないと。
声を上げ、あそこに行かないと。
「ユウさん!駄目だ、今は逃げるんだ!彼等の気持ちを無駄にするな!」
ホフメンの手が肩を掴み、オレを逃がす為に引っ張った。
「・・うるさい、、、ヤツらの気持ちなんか、知らん」
ヤツらも、オレの・・仲間を残して逃がされるオレの気持ちなんて解らないだろ!!
嫌なんだよ、仲間に死なれるのは。
「ホフメン、頼みがある。
鉄板を持って来てくれ・・あとな、オレを止めるなら・・殺す気で来い」
おれは、仲間を見捨てない。それは・・駄目だろ・・
オレの目に命が戻りホフメンは走って行った、彼の目にはオレがどう映ったのか。
(すまないな・・こんな事に巻き込んで)
[中回復] 額の傷に回復の光りを宿らせ、服の袖を切って額を縛る。
(もう油断はしない、オレの判断ミスで仲間が死ぬ、そんな事はさせない)
「お前ら!良く踏ん張った!待たせたな!勝つぞ!」
一瞬振り向いたピョートルは、なぜか驚いているように見えるんだが。
(なに驚いているんだよ!オレの生き意地の汚さを知らない仲じゃないだろ?お前ら)
「ゴラム!身を守れ!回復をかける。
ピョートルは距離を取れ!ヤツの狙いはオレだけだ!
オレが盾・お前らは砲台!秘密兵器が来たら合図する!」
「秘密兵器ってコレの事ですか」ホフメンの持つ鉄板を受け取り、正面に構えた。
「鋼鉄の板だぞ?それに油も十分引いてぬるぬるだ、鉄槍で貫けるものか!」
鉄板の厚さも親指の一関節くらいある、斜めに構えるだけで槍の貫通力なんか簡単に殺せる!
勇者が鉄板を鳴らして挑発し、男の攻撃に備える。
「掛って来いや!コラァ!」大声で叫び、敵の注意を引く。
「ゆうぅぅぅぅ!!!」
獣のような咆哮を上げ、真っ直ぐ投げられた槍のように男が走り、その慣性と速度をそのまま槍に加えて槍を突き出した。
ガキッ!ンッ!!!
鉄と鉄のぶつかりは火花を上げ、男が目の前を走り去る。
(鉄板を斜めにしてなかったら貫通してたんじゃないかアレ!)
それにこちらは防御で精一杯、届く武器も無い。っっっと!
慣性を無視した反転と振り返りざまに突き出す槍、一時でも目を離せば先程の二の舞になる!
頼むピョートル、魔法で削ってくれよ!
[火炎線]!ようやく回復が済んだピョートルが魔法を放つ。
「ゴラム!アレだ!面積をしぼった投砂だ!
コイツはオレにしか興味が無い!良く狙え!」
ゴーレムの目が光り、強く握った砂を男に投げつけ敵の体勢が崩れた!
「囲め囲め!オレがコイツの攻撃を全て受ける!
お前達は囲んで狙い撃て!」
オレが声を上げ、左右に移動する仲間達。
(これだけ声を上げて指示してるのに反応しないって事は・・やはりコイツ)
ガキンッ!チンッ!
槍がぶつかる度に火花が飛び、勇者は必死に鉄板の傾斜を維持していた。
その間も仲間達は魔法を唱え・砂を投げる。
「ホフメン!薬草を頼む!投げてくれ!」
馬車から持って来てくれた薬草を勇者に投げ渡し、背後で身を固めた。
(クソッ!防御してるだけでも槍の衝撃がジンジン響いて来やがる!でもこれで)
削りきれる。敵の体力を仲間が削り、オレが立っていれば勝ちだ!
「・・まぁ・・そうなるわなぁ・・」
[禁]!強い言葉と共に空気が振るえた。
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