第16話

「勇さん!」

盾で炎を防いだピョートルがオレの崩れる姿に駆け出すのが見えた。



「来るな!コイツ、即死魔法の使い手だ!」

オレの方がまだピョートルよりレベルは高いはず、


(その証拠に即死魔法でまだオレは死んでいない、抵抗出来ている!)


 崩れる膝に合わせて体を落とし、体重を後にして転がるように距離を取って・・・逃げる。


「死音に耐える事が出来ても同じこと[大火炎]」

 悪魔神官が追撃の炎を放った! 


(クソッ!体勢が立て直せない、直撃を喰らう!)


「ソレは私が防ぎます!」

 階段を転がるオレの前に飛び出し、ピョートルが盾を構えた。


 ピョートルは体と同じサイズの火炎を受けとめ、耐えきったその身体に勇者の[回復]が掛る。


「ヤツでも魔力には底があるはず、耐えきるだけでも勝ち目が見えて来る。

 それまで生き残れ!」

「お前たちが耐えきれる事ができるならな[大氷結]」

 勇者の声を掻き消す悪魔神官の魔法!


 氷りの壁が瞬時に現れ、割れ砕け・突風が氷りの破片を吹き飛ばす。

 氷の風が襲い、落ちた破片が周囲を氷らせて行く!!


「ぴぎゃ!」スラヲの足元?に氷結が広がり、体を捕らえ始めていた。


「待ってろ[火炎]!」オレは地面に火炎を打込み、氷結の浸蝕を防ぐ。

 

「大氷結まで使うのかよ!」スラヲが凍らされ、動きが鈍ったら魔法で狙い撃ちにされるのはヤバい、どれだけ戦い慣れてるんだよ。

 ヤツとの距離が遠すぎる、魔法も・強さもレベルが違う。


 一方的に魔法を放たれて防戦一方、こっちの薬草もそろそろ尽きそうだ。


(簡単にバカスカ魔法を打ちやがって!ヤツの魔力は底なしかよ!)


「ピョートル、薬草をくれ!こっちの手持ちはゼロだ!」


「勇さん!こっちは残り2です!なんとか手は・・・

!勇さんのアノ凄い魔法は使えないんですか!」


 ピョートルは盾を構えながら薬草を放り投げ、左右に跳んで魔法の照準をかわしながら叫んだ。


「無理だ!あんなイカサマ、本物の魔法使いには通用しない!」


 魔法の遅延を使った重ね掛け、[[[]]]見た目が普通の[氷結]や[火炎]に見えるが威力だけは3倍になる。油断した相手にしか通用しない小細工魔法だ。


 集中・詠唱・発動[発現・照準・発射]の行程の内、発射の行程を遅らせる事で出来たダマシ技に過ぎない。


(何か手は無いか、何か・何か手は・・)


「勇さん!自分!どうやら火炎が効きにくい様です!

 火炎魔法はいくらでも盾になりますから、自分を盾にして距離を詰めて下さい!」


「馬鹿!そんなのは直ぐにバレて狙い撃ちされるだけだろ!

 とにかく安全策だけを考えるんだ!」


 それにヤツには即死魔法がある、氷結魔法もあるんだ。

 とくに即死魔法、体力があってもアノ呪文だけはどうしようも無いだろ。


 勇者達が防御に徹している間、一方的に責めている悪魔神官もまた焦れていた。


 生意気なザコは圧倒的な力の差を見せ付け、絶望させて殺すのが普通だ。


(だがなんだ、この人間は。

 弱者のくせにしぶとく身を固め、薬草を使っていやがる。

 それに魔物、あの魔物が人間を守っているのも不愉快だ)

 

[大火炎]火炎の塊を放ち、人間の方を狙うと素早く走り込んで鱗の盾を構えて防ぐ。魔物がなんで人間を庇うっているのだ?


「魔物が人間に使役などされおって、恥さらしが!」クソッ!


(魔法はまだ使える、ヤツらを殺しきる大魔法も十分余裕がある。

 魔法力が切れたとしても、このメイスで肉塊にする事も出来る・・・

 だがあの人間の不快な目、あの目を絶望に変えて悲鳴の内に血ヘドを吐かせて殺す為には・・)


 邪教徒の本能がざわつく。

 溢れる人間へ殺意、勇者を前にして冷静な判断が鈍る。


(・・そうだ・・)


「そこの魔物、お前の主人は誰だ、魔王様ではないのか?

 私は魔王様にも仕える邪教徒です。

 お前が今その男の背後から襲うなら、私が魔王様にお願いして強い力を貰えるよう取り図ってあげましょう。

 それとも魔王様の直々の配下に加えてもらえるよう、お願いしてもよいのですが?」


(魔物の本能は力と破壊・暴力です。そこを刺激してやれば、こいつらのうっとおしい連携も簡単に崩せるでしょう?)


「・・本当ですか?」


 スライムに乗った騎士は迷う様子を見せながら盾を下ろした。

  男の目は騎士の方に向き、騎士が前に出る姿に驚いている。


(あと一押しか)


「ああ、その鍛えた体、私の魔法をこれほど耐え抜いたスライム騎士はお前が始めてです。

 そのスライムも素晴らしい!

 お前の部族も召し抱えてもらおうじゃないか!

 お前はスライム騎士の部隊を任され、より高みに!より強い力を与えられるだろう!」


(そうです、お前が無防備に近づいた所で即死魔法を・・それとも男の方を殺してから・・)


「そう・・ですか・・では・・[爆破]」


 前に出て来た騎士の手が私に向き・・[爆破]だと


 不意伐ちで放たれた衝撃が体を打ち抜き、私が用意していた呪文が途切れた。


?何故だ?なぜ私に?


「お前は魔王様では無い、お前は私を・・・私達の部族を知らない。

 私達魔物の全てが戦いだけを求めている訳では無い・・それに・・」


 逆らう魔物の言葉を最後まで聞く気は無い!

「なら燃え尽きろ[大火炎]」


 怒りに任せた火炎が魔物の前に燃え上がる!


「爆破?いつの間に[爆破]なんて使えるようになったんだ」


「少し前にレベルアップしまして、その時に。

 それより不意伐ちが成功したのに、勇さんが飛び込んでくれないから!」


 大火炎を左右に跳び分かれて避けながら叫ぶ。


(ちょっとだけお前が裏切るかもって、思ったんだよ。すまねぇな。。。)


 知らない間にどんどん強くなっていくピョートル、魔物の方がレベルが上がりやすいとかだろうか。


 大火炎の熱が地面を焼き、二つに分かれた勇者とピョートルは視線の合図で先行を決めた。


(ようやく[爆破]一発分か・・でも!)

 たかが魔法一つのダメージ。

 だが届かないと思っていた敵に、ダメージが通ったんだ。

 倒せる可能生はゼロじゃない!


「魔法一つ、あたった程度で!」勝てるつもりか![大氷結]


 悪魔神官の前に氷壁を作り出し、勇者の出鼻を挫く。


(届かないんだ、お前らザコの武器なんかが!)死ね!死んでしまえ!


 氷壁は砕け勇者を襲う!

 細かい氷りは針のように鋭く、ナイフのような氷塊はたとえ鉄でも傷を作った。


 [火炎]盾を構えた勇者は最小限の炎で身を守り、引き下がりながらその攻撃を軽減させる。


(クソが!左右に分かれたせいで、まとめて始末出来ん!

 これでは、せっかくの魔法も単発で打っているような物、どうにかして・・)


 悪魔神官の考えを読んだように、勇者と魔物・二つの影が重なった。


これで、ヤツらが突っ込んで来たらまとめて始末してやる!

(そのまま来いよ、雑魚共が!)


「ピョートル、[爆破]はあと何発いける?」


 多分それがオレ達の勝ち筋に繋がる、それに仲間が力を見せたんだ。

オレも限界を超えて見せないと仲間じゃない。


「・・[回復]もありますから・・すみません、あと一発が限界っぽいです」


「良し!なら少し相談だ、鉄の槍を・・・でこっちは銅の剣を・・」


 なぜか階段の上で動かない敵を前に、相談をすませたオレ達は作戦を開始した。


「ハズレが出たらやり直しだ、頼むぞ」


「・・ソコは勇さんの・・いえ、大丈夫ですよ」


 きっと・・多分・・普段の行いが・・的な空気を出したピョートルは盾を構え、祭壇の下までにじり寄る。 


 いつも使うピョートルを盾に、オレは奇襲。

 頼むぞ、即死魔法は使うなよ!


(馬鹿め!

 私がまごつけば、魔法切れと勘違いするだろうとは思っていたが、本当に突っ込んで来るとはな。

 じりじり遅いのは慎重なのか、それとも臆病なのかは解らんが・・まとめて葬ってやる!)


 火炎・爆裂・氷結・即死、悪魔神官が少し考えた後、放った魔法は火炎。


 敵をまとめて焼き尽くす[大火炎線]

 それも本気の魔力を込めた、悪魔神官が放つ最高の業火が階段に吹き上がる。


 その威力は火炎系最強の魔法に届いたと、悪魔神官が思うほどだった。


「コイツで焼け死ね!虫けらが!」


 大木・石柱・炎の竜巻・その中のどれとも例えられる程の、炎の塊が目の前に立つ敵を薙倒し焼き尽くす。


(燃えろ!焼きつけ!

 悶え苦しむ姿が見えないのは残念だが、これほどの炎を生み出せた事を今は邪神様に感謝しようか・・)ハハハ・・ハハハハ・・ハハハアハハ!!!


 炎の中に飛び出した影も無残に崩れ落ち、亀のように盾を構えた魔物も耐えるだけで、動く事すら出来ないでいる。


「そのまま亀のように小さくなって焼け死ね!」


(攻撃してくる人間がいなければ、守るだけの魔物などただの雑魚だ!)


 更に火力を上げる為に魔法に集中し、炎の柱で押し潰し・押し殺す!


 足元の石ころのように固まる影を圧倒する炎塊、もう少し・あと少しだ!


 悪魔神官が身を乗り出す程に魔力を高めた瞬間、その脇から飛び出す光りを見た。


 細く・鋭く・早く・正確に真っ直ぐ飛ぶ、銀の光りが炎を反射する。


「チィ、気付かれたか!」


 勇者は敏感に視線を感じたが、そのまま走り込み、そして槍を突き出す。


(この距離なら魔法は関係ない!

 唱える前に突く・発動する前に突くだけだ!)


 鉄の柄を握り、突く!

 無心で、息が続くかぎり、届く届かないは関係無い。


 ただ進みただ突き続けるだけだ!


「糞ガキがぁ!」


 敵が体を突く槍は死ぬ程では無い、手を擦る槍の穂先は貫く程では無い、

ただ快心の・自己最高の魔法を邪魔された上、次ぎの魔法も集中出来ない、さらに、


「お前如きが!

 お前ごとき雑魚が!オレの体に傷を・・・傷を付けやがって!」


 虫・虫けらに思わぬ所を噛まれたような不快感。

 姿を見たら潰さずにはいられなくなる害虫に体を刺されるような不愉快、そして沸き上がる怒り。


「うるさい馬鹿!

 ギャーギャー騒がしいんだよ!黙って槍の的になってろよ!」


(くっそ堅い、なんで出来ているんだよコイツのローブは!)


 肉の手応えじゃない!

 大木か土壁のような固さの男は、何度突いても深いダメージを与えたような感覚が無い。


(それでも突き続ける!)それしか無い。


 オレが槍で突いていれば魔法は使えない、その為に盾に隠れ[大火炎]の瞬間に[ヒノキの棒]と[棍棒]を投げ付けてやった。


 炎の向こうからは[何か]が飛び出して燃えたように見えただろう、その感にオレは反対側に逃げだして回り込んだんだ。


(くそ、槍の練度が足らない。少しは練習しておくべきだったか!)

 あたらない、槍の攻撃範囲・距離の感覚が掴めてこない。


 焦る勇者の反対では魔物神官が魔法をあきらめ、その怒りを鉄鎚・・鉄の杖に向ける。杖を強く握りしめ、渾身の力で目の前を邪魔する枝先を振り払った!


 ガキン!


 鉄は弾け、穂先が・槍が持っていかれる。

 金属の鈍器は横殴りからとって返すようにオレの顔に走って来た。


(なんて力だ!魔法使いの癖に筋力も戦士並かよ!)


 体を反らして避けては槍を手放すハメになる、だからといって避けなければ頭が潰れる。その判断を誤れば一瞬で勝負は付いていた。


(南無三!)

 槍を持つ手首を返しながら引き、足を開きながら体勢を下げた。


チッ!

 オレの頭の上を暴力が通過し、槍先は男の仮面を切り削った。


?・・?!

 「きっ!貴様!・・オレの・・オレの仮面を!

 司祭様から授かった大事な仮面を!

 ・・よくも・・ヨクモ・よくも・・絶対許さん!絶対殺す!


 苦しめ抜いて地獄の苦痛をあああ・・与えて!殺し尽くしてやる!

 拷問し・家族・親族・友人・恋人、その全てを苦痛に染めて殺してやるからな!」


「そいつは結構な話だ!次いでに王族も・教会も皆殺しにしてくれよ!」


 オレを勝手に[勇者]なんぞに選んでくれたヤツらに、邪神の天罰を喰らわせろよ!

 鉄の杖が嵐のように吹き荒れ、鉄の槍が歪む。


(クソッ、距離が悪い!近すぎる!)


 槍の攻撃範囲は中距離だ、ミドルレンジであり対して棍棒・杖は近距離・ショートレンジで戦う武器である。


 相手の手が届かない場所から攻撃出来る槍でも、その内側に入られたら長いだけの棒と代わらない。

 避けるのに邪魔になるだけだ。


 ガキッ!シ!ギリギリギリギリ!!!


 鉄の杖と鉄槍の柄が衝突し、受けるオレの手から背中に衝撃が貫通して走る。


「糞雑魚が!このまま押しつぶしやる!!!!

 安心しろ!死ぬ寸前で治療してやる、そこからは『殺してくれ』と懇願するまで拷問地獄だ!」


 ちっとも安心出来ないな、それに「いいのか?本命がお前の後まで来てるんだが」


「なに!」

 オレが足止めし、階段を上ってきたピョートルが手の平を向けて叫ぶ!


「[爆破]!」眼前に発生した衝撃破に悪魔神官が体を硬直させた。


(どこを向いているんだ、お前の敵はオレだろ!)


 槍を引いて鉄の杖を避ける。

 そして当然、引いた槍は突き出される!


 グチッ!

 槍は悪魔神官の腕を貫き、その穂先が天を向く。


スゥ・!

 「[雷撃!]」


 本来勇者しか使えない電撃呪文、この呪文を使うと自分が勇者だと喧伝するような物だ。

 それもこの遺跡でレベルが上がったから使えるようになった未熟な魔法。


雷撃というより、ただの電撃[デイン]程度の威力しか出ていない。


(でもな、生物ってのは、電気を流されると痺れるんだよ!)


 鉄槍を狙った[電撃]は体の中まで暴れ走り、その肉体を痺れさせた。


「な゛!ばが・な゛!」雷撃だと?!


 仮面の内の表情は解らない、ただそんな隙を逃がす勇者では無い。


「じゃぁな!」


 背後に回ったオレは腰に吊した鎌を掴み、仮面の魔物の首を狩る。


 堅く太い首に刺さる鎌の刃。

 鎌の柄を掴み・鎖を首に巻き付け、片手に鎖・片手に鎌の柄を持ち両手で引いた。


 腕を上げ、暴れのた打つ悪魔神官の喉に深く沈む鉄の刃。

 転がるように背中の男を地面に叩き付けても剥がれず益々深く喉を切る。


(この・・私が・・こんなガキなんかに・・邪神・・邪神さま!邪神さ・・ま・・)


鎌が完全に命を刈り取った時、ようやくその苦しみが無くなる事になった。


・・はぁハァ・ハァハァ・・


 今度こそ限界だった、死ぬ所だった。

 殺さなきゃ、殺されていた。


 槍が通らなければ、爆破で気を逸らすことが出来なければ、力だけのゴリ押しでこられていたら・安全策で一人ずつ狙われていたら・・・


 魔力も筋力も体力も限界、今なら階段から落ちただけで死ぬ。


・・ああ、生きてる・・生き残って、よかった。

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