第35話
ヒッ!「・・砂漠のマジン!
それにそっちはスライムの魔物!お前は誰だ!オレをどうするつもりだ!
殺すのか!オレを魔物の餌にするのか!こいつらにオレを喰わせるつもりか!」
口の轡[くつわ]を外したとたんに声を上げる男は元気だ。
「・・そのつもりなら、外したりしないぞ?」
餌にするつもりなら殺して血抜きするだけで、口を自由にさせる必要は無いだろ。
「!!!!!」口をぱくぱくさせて、驚く男にはオレが何に見えているんだ?
・・・・「勇さん?」
「なんだよ、オレが問題を起こした見たいな目で見るなよ」
ちょっと、攫って[さらって]来ただけなんだからね!
ゴラムが芋虫のように縛られた男を指で突くとギャーとか、ハギャーとか声を上げて芋虫のようにもがく。
スラヲも身体を伸ばしツンツン、その度に男がギャーギャーと。
「止めなさい、それはそう言う玩具じゃないんだからね」二度目。
「オイ、解っているだろうが、どれだけ声を上げても無駄だから口を自由にしたんだ。
端的に説明するとオレ達はお前の馬車が必要になった、そしてお前には冒険が必要だ。
つまりwin=win、楽しく冒険しようぜ・・・宿屋の息子?」
そう言えばオレ、彼の名前を知らなかった。
「何がwin=winだ!そんな物世の中には存在しない!
口の達者なヤツが他人を利用する為に都合良く作っただけのウソッパチだ!」
(こいつ、以外と世の中を知っていやがる)
win=winなんてバカを欺して利用するための造語なんだよな、うん。
「・・わかった、本当の所を隠さずに言う。馬車をくれ、息子はいらない」
・・「ウソだ!お前はオレを酷い目に合わせて殺すんだ!
それか奴隷として売り飛ばすんだ!」
・・なんだろう、この違和感・・う~~ん。
「そうだ、おれはお前を誘拐して馬車を要求して奪い、拷問して裸にひん剥き、殺すか奴隷に売り飛ばすつもりだ」
「なんだって!この嘘つきめ!
オレをもてなし仲間にしようって魂胆なのだな!」
「・・勇さん」
「皆まで言うな」他人を信じないってそう言う事なの?
「お前は縛ったままだ。
逃げても良いし、騒いでもいい、魔物の囮にしてやるから前に出ていろ!」
「嘘つきめ!どうせ逃がさないつもりだろ!
騒ぐ事も許さないし、魔物から守るつもりか!どう言う事だ!」
本当に、どう言う事んなんだ?
取りあえず「お前の名前なんか興味は無い、おれは勇者のユウだ。憶えておいてくれ」
ヒッ!・「お、オレの名前はホフメンだ。嘘つきめ・・そんな恐い目の勇者がいる物か」
・・・・そこは、信じるんだなお前。
[勇者は、少し傷付いた]
・・ホフメン・・どこか変な・・
取りあえず手近な洞窟を発見!ゴラム!ピョートル!スラヲ!
新しいチームワークをホフメンに見せてやるぞ!
「ハイ!」「スラ!」「ゴー」・・・本当になんかおかしくないか?
「先頭が詰ると困るからピョートルは前だ。
ゴラム、敵が強ければお前を盾にする事もあるからな。頼んだぞ。
最後尾にホフメンを連れ・・ってホフメンお前、振るえてるのか?」
え~とこの場合は・・
「この魔物達は・・常にオレの命を狙っているから・・オレはお前をいつでも見捨てられるようにオレの前に立て」
・・・う~~ん、面倒くさい。
「こいつらが、仲間だって?魔物をそこまで信用しているのか?」
「ホフメンさん、勇さんはそんな悪いヒトじゃないですから。
変な人ではありますが、私達は勇さんを信用して付いて行っているんです。
大丈夫、肩の力を抜いて冒険を楽しみましょう」
おい!コイツ・ホフメンは全部逆に伝わる・・だよな?
「・・ホントに?こんな目付きの悪いのに?
信用できるのか?変なのは何となくわかるけど・・信用していいのか?」
おかしいこの男、ピョートルの言葉は少し信じている可能性がある感じ?
(他人=人間は信じないのに、魔物=ピョートルの言葉は少し信じている・・・謎だ)
あと変な人って所は信じるなよ、オレは普通だよ普通。
少し肩の力を抜いたホフメンを連れ、オレ達は洞窟の中に踏み入れた。
特に目的の無い探索だから、気楽に行こうぜホフメン。
「・・お前・・ここがどんな場所か・・うっ・・うう・・」
(なんだ?ホフメンまだ振るえてるのか?)
ただの洞窟だ、恐くなんか無いだろ。
「スマン、閉所恐怖性とか暗闇恐怖性だったか?
それなら最初は塔とか森の方が良かったか?」
恐い物は恐い、大人も子供も同じことだ。
克服するのに越した事は無いが、無理強いは出来ないってのを忘れてた。
「そんな物が恐い訳あるか!塔なんかに絶対連れて行かないくせに!」
・・・良し!行こう、本人の了承も取った事だ。
いざ・・裏切られた洞窟へ。
洞窟を少し入った所に石の壁・・石扉か、「ゴラム、オレと一緒に押してくれ」
押している間背後の守りはピョートルに任せた。
扉を押し開けると湿った冷たい風が吹抜けて落ち着く・・と思うんだが、ホフメンは歯をガタガタ鳴らせる程に振るえている。
寒がりなのか・・砂漠の端ですんでいるから、寒さに弱いのか。
「待て!待ってくれ!」
ホフメンが叫んだのは鉄の扉を押し開き、下に行く階段が目に写った時だった。
?「・・階段を降りるのは恐いのか?」
下の階に何かあるのか?
「・・なら階段は無視して、あっちの扉を」
勇者は先に見える扉に顔を向け、風の流れに不自然な動きを感じた。
(・・なんだ?足元から・・)
不自然か風が床から吹き出し肌に触れる。
「お前ら!待て!」
床がゴラムの重さに耐えかねて崩れ、大穴を開けた。
崩れた大穴は覗き込んでも風を吹き上げるだけで、穴の底は暗くて見えなかった。
「お前ら待ってろ!直ぐ行く!」
ホフメンを置いて行くのは無責任だろうが、今は仲間を優先する!
「大丈夫でーーすよ~~~」
オレが飛び込もうとしたその時、穴の底から声が聞こえた。
穴の向こうから反響する声は多分ピョートル。
(生きてるな!よし、今行くから待ってろ!)
「勇さ~~ん、ホフメ~~~ンさんがいるのを~~お忘れ~~無く~~」
・・・「すまぁぁんん、そっち~~に~~は~~階段で~~行く~~」
気を使わせてしまったな。
オレ一人なら穴に飛び込んでも・・多分何とか死なない程度に着地出来るだろうが、人間を抱えてとなれば・・・難しいか。
「まあ、こんな感じで頼りになるヤツ等だ。
ゴラムの方はほぼ不死身だし、スライム騎士の方は[中回復]が使える。
死ななければ回復出来るし、戦えるし動けるし頭も良い。頼りになる仲魔だ」
あとスラヲは結構雑食でなんでも食べるし、以外と弾力があるっぽい。
(ピョートルはスラヲがクッションになったのか?)
どちらにせよ仲の良いコンビだ、二人でいれば早々死ぬ事はない。
「な・・もんで、オレ達は階段から降りようか。ヤツ等も待っている事だろうし」
勇者は振るえるホフメンの腕を掴み、近くに見えた階段を降りる。
(こっちもそれ程余裕有るわけじゃないんだが・・・先導するオレがビビってたらコイツも余計に怖がらせちまうしな)
暗い階段を怯える男を引っ張って降りる、さてヤツ等は無事だろうか。
階段を降りて少し行った所でゴーレム背中が見える・・?
(少し小さい・・かな?)
「オーイ、無事かー。待たせたな、もう安心しろ・・オレが来た!」
・・んだけど・・な。
「ああ、良かった。私達を探しに来てくれたのですね」
・・・・
「私達、貴方がきっと探してくれるだろうと思って、待ってた・・」
・・だれだ?こいつら。
「・・・敵だな」
身体の縮んだゴーレムと彷徨[さまよ]っている鎧はオレの言葉にマゴマゴと・・
マゴマゴ?・・面倒なので彷徨っている鎧を壁に蹴飛ばし、開いたオオバサミで鎧の兜を挟んで、壁に縫い付けた。
「なぁお前ら?こっちはお客さん連れていて、余裕が有るわけじゃないんだ。
ふざけてるなら後にしてくれないか?」
・・・ブルブル震える鎧はぐらりと姿を変え、ベロベロした妖怪ような・・・魔物?の姿に戻ったのか?
「じょ・・冗談なんだ、入ってきた人間を脅かして、オレ達の住処から追い出したかっただけなんだよ
・・お・・オレッチ達は人間なんか食わないよぉ~」
(・・ホフメンが生きて洞窟から出られてるから・・)
それ程凶悪な魔物でも無いのだう。
信じるべきか、疑うべきか・・それが問題だ。
(普段なら、怪しいヤツは殺してから考えるんだが・・・今は・・なぁ~)
う~~ん、会話で解決できるか?
「それはそうとして、お前らオレの仲間の格好をしてただろ?アイツらはどこだ?
お前等に殺られるようなヤツ等じゃないと思うが」
穴に落ちた時に怪我したとか、不意伐ち・騙[だま]し打ちとかで不覚を取らないとも限らないが。
「言わないならそれでもいい、二匹いるからな。
お前は頭の上から挟みで圧断して六等分にして見せしめにする、その次ぎは後のヤツだ。
アイツは足から六等分にしてにしてやる、二匹分の肉塊を組み合わせて三匹になりたくなければ・・・・知っている事は今喋れ」
頭を挟む鋼刃がギリギリと壁を削り、ベロベロしたヤツの頭皮に密着・紫の血液っぽい物が頬を伝う。
「わ!解った!全部言う!酷い事は止めてくれ!そんな死に方はイヤだ!」
ベロベロしたヤツの一人が足元を指さし、挟まれたヤツも下に指を指して振るえている。つまりは「・・下・・か」
「どうやって下に降りるんだ?」
ハサミから魔物を開放し、ホフメンと一緒に壁とか床を調べて・・
「べろべろ、下に行く方法は・・」こうだ!
二人の魔物が床を強く蹴り・・床が割れた。
(・・落とし穴かよ!)
重力が消え暗闇に包まれたのは一瞬だった。
床を調べていたオレは四肢に力を込め衝撃に耐える。
ガツン!という堅い衝撃、背後では壁を調べていたホフメンがジリジリと壁からずり落ちて来ていた。
「手を・・放せ!受け止めてやる」
信じないかも知れないが、手が疲れたらいい加減、落ちてこい!
両手を広げ待ち構えるオレの背後で、暗闇の中をドタドタと・・秋の運動会でもしているのだろうか?
「元気な魔物達だな」
「・・つっ!クソッ!」
落ちて来たホフメンを受け止め・・睨まれた。
感謝をする必要は無いが、睨まれるってなんだ。
ハァハァハァ・・・「いつまで走らせるんだ、話・・かけて・・来いよ・・ハァハァハァ・・!
『ケケケ!・・ゲホッあいつらを食ったらなぁ・・スーハー・・次ぎはお前だからな・・ゲホッ・・』」
息が苦しそうな魔物は走りながら・・もう二人の魔物を追って走っていた。
ハーハーハー・・スゥ、『ケケケ!人間の生き血は・・ゲホッ!・・スゥーハー我ら魔物の・・息・・生き血・・ハー』
苦しいなら休めよ、悪いのは直ぐに降りて来ないホフメンが悪いんだからな!
(そして、何故また走る?こいつらは走るのが好きな魔物なのか?)
ゴホッ!げほ!・・ウェ!「吐きそう・・やっと・・助けに・・早く声をかけて下さいよ・・息が・・足が・・」
ヒーヒー・ハー・・「あいつらに・・一滴残らす・・血を・・ウッ」
一体の魔物が口から嘔吐[おうと]する、それに続くように二体目が・・
おう吐は続くよどこまでも・・
「うっ・・ユウ、オレも限界・・」ホフメンも貰いゲロを始めた・・・
「・・・アタシらだけ吐いて、アンタだけ吐かないなんてね!」
酸欠で顔色の悪い小僧と、さっきまで走っていたのに急に天井にぶら下がるコウモリ・・コウモリの方は限界のようだ。
(しかたない、しばくか)
振り上げた拳を下ろす・下ろさせる為にも勝敗を付ける必要がある。
そんな時も人生にはあるみたい。
顔色の悪い小僧の腹をワンパン!
コウモリは[火炎線]でバタバタと落ちた、多分酸欠。
「まぁ、もう無理するなよ?・・オレの仲間は・・」
怒る気分も無くなった勇者の言葉に、泡を吹いて倒れている小僧とは別の小僧が階段を指さす。
多分後ろに見える、アノ階段を上れって事だな。
階段を上がって曲がりくねった通路を抜け進んだ先に、巨大な壁とその足元にいるスライムの騎士・・多分ピョートル達だろ思うが・・・
(目線は合っているよな?)
「ああ、勇さん。助けに来てくれたのですね・・と言いたい所ですが、偽者かも知れないので・・・勝負です!」
[火炎]ピョートルが炎の魔法を打ってきた、その背後ではゴラムが拳を構えている。コイツ等!
(・・そうだな、取りあえず。殴ってから考えるのがお前らだものな!)
魔物は実力主義の塊、口や頭より結果を出して見せないと意味が無いヤツらだからな。
「ユウ!あいつら仲間じゃないのか!」ホフメンが叫ぶ。
解るよ、仲間同士は戦わないってのが人間だろ?
でもな、あいつらはどこまで行っても魔物なんだ、文化が違えば思想も違う。
(でもな、文化とか思想とか言葉が違っても解り合える物がある。
それが『腕力・武力と言う生物共通言語だ!!』)
勇者は素早く片刃を抜き、ピョートルの[火炎]を切り落とす。
[爆破]!反す刀で爆発呪文を唱え、空気を振るわせた。
「ちょっと待ってろホフメン、今こいつらを黙らせる。
行くぞお前ら!」
鎖分銅を振り回し、洞窟の通路を削る度に不規則に跳ね返り、
ギン!ガン!
壁を削って分銅は暴れ回る。
「狭い場所ではゴラムは動き難いだろ?」
その動けるスペースをさらに鎖分銅で奪ってやった。
ゴラムの渾身の拳は鎖で絡み取り、ふところにもぐり込んで手を触れ。
[氷結]の魔法がレンガの体を凍らせる。
「はは!どうだ?熱い砂漠で生きて来たお前にはちょとキツいか?」
オラァ!二発目だ!
「させません!」
飛び上がったピョートルはスラヲを掴み、叩きつけた。
『べちゃっ!』
重いんだか粘着質なのか、単純な質量に運動エネルギーがかかり痛重い。
オレの身体を叩き付けたピョートルが[回復]を仲間に唱える。
その為にスラヲを犠牲にするとは・・誰に似たんだ?
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