第25話
「あの時は、、、あの地下の祭壇じゃぁ、自分の置かれた環境を理由に他人を不幸にするなって言ったけどさ。
自分達が生きる為に、仕方なくさせられた事に罪を感じなくても・・いいのかも知れない・・・と思う。
それでも・・それでも他人をキズ着けて、なにも感じない人間にはなって欲しく無いって・・・二つになっちまったな、ごめん」
恥ずかしくて顔が上げられない、どうせ彼女も呆れてるんだろな。
「ピョートル!行くぞ!走れ!」
「ぴぇ!」スラヲの声が後で聞こえる、すまないオレの羞恥心の為に走らせてしまって。あとで骨付き肉をやるからな。
最後まで締まらない、やはり女性慣れしてないから格好悪ぃなぁオレは。
(ハァハァハァ・・十分離れたか?)
走り続けて10分くらいか、本気で走ったからアバラ・・脇腹が痛い。
「ストップだ!止まれ!もう十分だろ」
ぴょぇ・・ぴょぇぇ・・スライムの息継ぎ?・・謎の呼吸音が・・
「いいですか?勇・ジョンさん?あの人間、じっと見てましたよ?」
上に乗るピョートルは息が切れてない、ごめんなスラヲくん、無理させちまって。
「ハァハァハァ・・あれは呆れてるか馬鹿だなと見ているだけだ、ああ恥ずかしい!」
心に傷が、ううぅぅ・・
「そんな感じはしませんでしたが・・・人間は難しいですね」
仲間がフォローをしてくれるのはありがたいな、恥ずかしい事は早く忘れる事にしような相棒。
ふぅ・・「よし、息が戻ってきた。それでは早速、次ぎ旅の翼を使わせてもらうか」
道具屋でいくつか買っても不審がられ無かったからな、認識阻害の効果は絶大って事だろう。
それに次ぎの町こそ本番、国王にバレたらまた野宿暮らしが待っているんだからな。
その翼が向かう先は勇者が最後に訪れた町、かつてのパーティーに捨てられ泣きながら帰った心傷の場所だ。
「さあ運んでくれ[旅の翼]!」
そらに舞上げた翼は魔力のサークルを作り、オレ達を引っ張り上げる。
そして体は空を飛んだ。
・・・風が痛いほど熱い。
乾いた風が真夜中の砂漠の熱を吹き上げてきて、ちょうどいま、日が落ちた事を示していた。
「・・あの時と・・あの日と時間も同じか、、、くそ」
ボロボロになって一人遅れて歩いた記憶、ヤツらの背中から聞こえる馬鹿にする声と言葉。その先に待つ追放された記憶。
「どうしたんですか?」
足が震えて立ち止っていたオレの背中に声がした。
「・・いや、なんでもない・・少し嫌な事を思い出していただけだ。
少し町の外で戦ってみてから宿をとるぞ、朝までは武器屋も開いてないだろうからな」
そうだ、おれの背中には仲間がいる。
コイツの前で、おれは格好悪い所なんてみせられない。
(あの頃とは・・違うんだ・・おれは)
「クソッ、堅い!この馬鹿ガニが!」
砂に足を取られ、緑のカニの堅さに鎌が弾かれる。
「勇さん!カニが[硬化]を使いましたよ!なんですかアレは!」
サルの拳は痛い・亀の体は硬い・包帯ミイラとゾンビが仲間を呼びやがる。
空っぽの鎧がさまよい歩き、レンガの像がこっちを見ている。
「夜中だからな!魔法コウモリに気を付けろ[火炎線」を使ってくるぞ!」
魔法を温存したいが出来ない。
[氷結]をカニの頭に叩き付け、ピョートルの槍が甲羅の隙間に刺さる。
「押さえます!」ピョートルが槍で突き押さえ、その横をオレが走る。
「頼んだ![氷結]!」
内側まで冷気が浸透してカニが止る、これでようやく一匹か・・残りあと3匹もいて、それぞれが[硬化]を連呼し身を固め始めた。
・・・「よし解った、次ぎからはカニは無視だ」
魔法の連続使用、ピョートルの[火炎線]と合わせてカニを焼いたが、魔法職でも無いオレ達には向いていない。
「・・回り込まれないようにしないと、ですね」
「・・ああ、ソンビがこっちを見てるな・・?どこかへ去っていったならいいか」
空の鎧を蹴りで倒し・・回復スライム・・(どうするんだ?)
触手で叩いて来たので倒す。
亀は堅いが、甲羅以外の場所を[火炎]で焼けば顔を出す。
・・来た!レンガ像!
「デカイ!気を付けろ、動きは遅いが」拳は重い!
鎌の刃がすべり、強い力が鎖ごとオレを引っ張る。
「槍が通りません!削れますが!コイツも魔法で倒すしか・・」
ピョートルに向かった拳を鎖で絡め、軌道を変えてかわす。
「作戦は命を大事に!一発でぺしゃんこにされるぞ、油断はするな![火炎]」
炎がレンガの体を焦し、少しだけ黒く跡が残る。
(これは・・無理だな)
?!「逃げるぞ!周りにも集まってきた!」
夜の砂漠の魔物は飢えているらしかった。
一箇所で戦っていると戦闘の音に釣られて集まってくる、狙いは当然、[人肉]だろう。
・・・・
「結局勝てそうなのは、あの腐った犬と鎧と・・」
「亀と包帯のミイラ、それとゾンビでしょうか?」
物理が効かない相手はシンドイ、素早い魔法コウモリも数がそろうと面倒だ。
「魔法を温存するのは無理か、でも帰りの事まで考えるとなぁ・・」
限界まで戦い、[旅の翼]で町まで帰る事もできるだろうが・・
(指名手配が掛かっているから、いつでも気軽にお買い物っ、てわけにはいかないんだよ)
「そっちはどうだ?あと少しくらいは戦えるか?」
「・・そう・・ですね、[爆破]なら2・・3くらいは」
「[回復]もあるからなギリギリか、よし、次ぎのヤツらを倒したら宿に行くぞ」
そう思いながら大ざると戦い、瀕死になって町まで歩ことになった。
クソッ!あのサル、本気で殴り過ぎだ!一発で意識が飛びかけたぞ!
(宿のオヤジには気付かれ無かったか・・それともオレの事はもう忘れているのか)
後は・・こっちだな。
勇者の手には1枚の金属板がある。
勇者・僧侶・魔法使い・戦士・盗賊・商人、彼等が魔物を倒す時、そこに魔物にかけられた懸賞金が記憶され入金される金属板。
(職業神だっけか?魔物を倒す度にカネが手に入るとか・・ほんとは悪魔なんじゃないか?)
勇者を指名した神、僧侶が祈る神・戦士が祈る神、
人々が神殿で登録したり、神殿の方から渡される金属板には魔物の種類や数に応じて入金がされる。
信者や王家・貴族からむしり取った[寄付金]が財源とか噂で聞くけど・・
(一度神殿を通すから教会なんぞが権威を振りかざすんだ)
しょせん他人から集めた金を分配するだけの、銀行業のくせに!あいつら嫌いだ。
(身分証としても使える・・ていうか、それがネックなんだよ)
教会に行けば現金を引き出せる、店で使えばそのまま現金を持つ必要もない。
ただし・・使った場所、人物が特定される・・可能生がある。
と言うより、神殿・教会は絶対に個人を把握してるだろう。
(特に、勇者のオレとか一流の冒険者とかがどこに居るかとか。
カネを使えば一発で居場所を知られるから)オレのは使えないかも知れない。
だが普通の冒険者や職業持ちが大量のカネを持たずに戦えるのは、この金属板のお陰だ。
それ以外にカネを手に入れる方法は魔物や獣から部位を剥ぎ取るか、ヤツらの落としたアイテムを売ったり、ダンジョンでカネになりそうな物を回収してカネに変えるくらいしか無いからな。
(レベルアップの声が聞こえるから、入金はされているはず。そのカネさえ使えれば)
新しい武器も防具も道具も買える。
[変化]は店の人間は誤魔化せるだろうが、この板は無理だろう・・が、認識阻害なら・・
城の近くでバッタ・カラス・ウサギ・スライム・アリクイ・お化け・芋虫・ムカデ・コウモリ、その他諸々を何年も狩り続けたんだ。
多少は入っていると思う。
スゥ─────
よし、覚悟を決めたオレ達は金貨で買った[旅の翼]をふところに武器屋の扉を開く。
中に並べられているのは、最初の町には置かれていない強そうな武器と防具の数々だ。
「いらしゃい!夜更けですが、今日は何をお求めですか戦士のだんな」
勢い良くオヤジの声が招き入れる・・・なんでこの男、上半身裸で角の生えたマスクをかぶっているんだろうか?
「・・大丈夫でしょうか?・・あの男、魔物じゃぁ」
ピョートルが小さく耳打ちする。
「魔物が町で武器屋をやってるようなら、この町はすでに魔王の手に落ちているはずだろ」
だから多分大丈夫だ、・・・・と信じたい。
「武器を見たい、それと防具も・・軽くて動きやすい物は有るか」
店の中に置かれた鋼の剣や鉄の槍、刃のブーメラン茨のムチ、それと大金槌・・
(これなら、鋼の剣1択なんだが)
なにか違う気がする。
「この辺の魔物は堅いのが多いでしょう?だから大金槌が売れるんですよ。
でもその分重量がありますからね」
威力は有る、が反面動きが鈍る上に動く敵に命中させるのは至難って事か。
「それを仲間で補う為にブーメランを使うのか」
「へぇ、後はムチで牽制[けんせい]とかですね・・だんな、どれも今ひとつって顔ですか・・う~ん」
オレの表情を見てオヤジが腕を組む、客によって勧める武器を変えるのか。
「後は防具か・・鋼の鎧と鋼の盾、鉄兜か・・それと・・みかわしのローブ?
魔法のローブか」
薄いが軽く、敵の攻撃さえ見えているなら躱せると言われているローブ。
「兄さん、良い目しているねぇ。
ローブもいいけどよ、どうだい?鋼の防具は。
良い鉄を使って叩き上げているから堅さは自慢出来るぞ、どうだい?」
どうだ・どうだと鉄製の防具を進めてくる。
厚い鉄鎧よりは軽くなる鋼の鎧、鉄の盾は・・オレが身に付けるか。
「・・ああ、それでなんだが・・この中にいくらほど残っている・・見てくれないか」
金属板を出したオレは、心臓の鼓動が高まるのが解る。
(あのクソ神殿、クソ神のヤツが使用を停止していたり、犯罪登録していたり・・登録抹消していたら・・即座に店をでて逃げるしかないな)
「・・?・・だんな、これは本人さんの物でしょうね?
・・まぁ持ち主が死亡してたら神様の目ってヤツで、板の情報は消されますけど・・」
油汗をかき始めたオレを見て、武器屋のオヤジは怪訝[けげん]な声でオレを見てくる。
「間違い無くオレの物だ、現金仕事が多かったから少し使って無かったんだ」
そう言って金貨の入った袋をカウンターに置いた。
少し口を開き中に金貨が見える感じで、これならどうだ?
「この辺の魔物を狩って稼いだはずなんだが、よく解らなくてね」
その土地に居着かない探検家や冒険者なら、魔物1匹を倒すとどのくらい入金されるのか知らないのは当然。
怪しまれた時の言い訳も十分考えてある。
「なるほど、そうでしたか。確かにお連れさんはあんまり見ない感じですしね」
少しお待ち下さい、そういって武器屋のオヤジは裏に入って行く。
(落ち着け、顔に出すな・表情を変えるな・心拍・心音をコントールしろ・・・・)
あちこち武器を見るフリをしながら、冷静を演じる・・?コレは・・
「お待ちどう、あんた・・・一体何者だい?」
金属板を持つ男がマスクの向こうから目を光らせる。
(マズイ!バレた!)
「・・・」
「ああ、言いたく無いのは解った、凄腕の戦士さんなら名前を聞いて置こうと思ったんだよ。114730Gもあったぜ、すげぇなあんた」
「あ・ああ・ははは、見ての通り・・貧乏性でな、装備はケチるなってのは・・解っているんだが・・・つい・・な」
革鎧や鱗の盾、皮の兜がボロボロになっていたのでソレを見せる。
「駄目だぜ戦士さん、防具をケチって死んでもカネは教会に寄付されるだけ。
墓が大きくなる訳じゃねぇんだから・・ハハハッ」
武器屋ジョークと言う所だろう、少し場が和む。
「それで・・オヤジ、コレなんだけど・・売り物か?」
武器屋の片隅で蜘蛛が糸を張っている錆びた金属の刃。
鋼の剣のように重く、片刃と両刃の対になった巨大な武器。
「・・ああ、まぁそうなんだが・・そいつは・・止めといた方がいい、使いこなせるような武器じゃねぇよ・・」
「それで、打ち直しと磨きを入れて調整したらいくらになる」
多分オレが思っている物だ、そしてコイツは使い方しだいで強力な武器になる。
「・・本気か?・・そいつは確かに攻撃力は高いが・・それにソレは出戻りだ、それも二度も。意味解るだろ?」
持ち主が使うのを諦めた。もしくは、使用者が死んで仲間が売りに来た。
そう言う武器は曰く付きと呼ばれて、冒険者ならまず買ったりはしない。
「死者は死者を呼ぶって言うだろ、いくらケチで貧乏性でも、そいつは止めときなよ」
「それでもここに置かれているって事は、それだけ造ったヤツが自信が有ったって事だろ?」
だから溶かれず置かれ眠っている、そうだろ?
「・・・オレのオヤジの力作だよ。
良い鉄・強い火、それを何日も叩いて作りあげたもんだ。
お陰で[いわく]が付いた時、オヤジは引退しちまったけどな・・捨てられずにおいて有るんだよ・・」
「じゃあ決りだ、その力作をオレが使いこなしてやるよ。あと鋼の鎧と鋼の盾と・・」
「待ってくれ!本気か?最初の客もそう言ったんだよ、ガキの頃にソレを買ったヤツを憶えている!
でも返って来たときは店に投げ捨てるように言ったんだぞ?
『こんな物、使えるか!』てな。
形が珍しいから使って見たいってのは解るがよ、止めて置いたほうがいい」
「・・形が珍しいから?・・そいつは違う、これは機能的なんだよ、凄くな。
作った人間の頭にあった使い方を、そいつは出来なかった。
わからなかっただけだ」
オレには解る、コイツは普通じゃない使い方をして、始めて本来の使い方なんだ。
「・・アンタはオヤジの事を理解できるって言うのか?オレでも出来なかった事を」
武器屋のおやじは、マスクの中から覗き込むように勇者を見つめる。
「だったら証明してやるよ、オレがソレを使いこなし戦ってやる。
口じゃ無く結果でな」
武器は使ってこそ真価がわかる、戦いの中でしか価値を示せない、そうだろ?
・・・オヤジにソレを渡すと、『一日待ってくれ』と焼き直し・磨き・研いで置くと。
鎧の調整もその時にしてくれるらしい。
後一日か、あまり長居はしたくないんだが。
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