第52話勇者達の旅は続く。。。いや本当に続くんですってば。
勇者がアルケニーを預け[転送]の魔法で飛んだのはホフメンの実家だ。
砂漠の端で男が小さな宿を経営してる人の少ない場所、逃亡者が逃げ込むにはちょうどいい隠れ宿。
「・・父さん!」最初に馬車から飛びだしたのはホフメンだ。
放牧された白馬を前に、彼の父親は白く塗った薄い木の板を広げ、筆を走らせている。
?「なにをしてるんです?」
「おや?お帰り・・短い間に随分精悍な顔衝きになって、元気にやっているようだbね。皆さんに迷惑を掛けてないかい」
彼の愛馬パトラッシュもホフメンを見つけて近づいて来る。
「父さんの方は・・なにをして?」
白い板には薄く引かれた線で草を食む馬が描かれている。
「ああ、宿の壁に飾る絵を書いてみようかと思ってね。
幸い家にはあの美しい白馬がいるんだ、町に買いだしに出ている時も皆が誉めてくれるし、うちの宿の看板にどうだろうかと思ってね」
看板娘・・今でいう看板馬娘としてどうだろうかとおもってね。
そう謎の単語を口にするホフメン父、砂漠の宿屋を一人で経営しているから疲れているのかもしれない。
「父さん!しっかりしてください!パトラッシュは雄ですよ!」
「ん?最近はオスとか関係なく・・そうメス化とか・・・」
いけない、それ以上はいけない。
「取り合えず宿の中に入れてくれませんか?」
親父さんには悪いが、これ以上この親子の会話を続けさせてはいけない気がする。
穏やかな表情で息子に微笑む父親と、兄弟のように育った白馬に囲まれたホフメン。
彼を連れ回しているオレは嫌な顔をされるとか、怒鳴られるとか思ってきたんですが別の心配をする羽目になるとは。。。
「今日は少し顔を出しただけなんです、これから砂漠越を超えて海の町まで行く予定なんでその用意を、それとその先は解らないけど、着いたら必ず手紙を書くから」
ホフメンはパトラッシュの首を撫で、手ブラシで鬣をといて肩を揉む。
(・・なにかパトラッシュにじっ~と見られている感じがするけれど)
「・・ホフメン、オレ達は井戸の水を樽に入れてるからしばらくは」家族と休んでてもいい、そう言おうとした。
「じゃあオレも手伝いますよ・・へんな気は使わないで下さいよ、ゆうさん」
「・・それじゃあ、井戸水をもらうお礼に宿掃除だな。慣れてるだろ?」
・・・・・
宿で出してもらった飯を食うと、すでに夜に。
「じゃあ、一晩だけ泊まらせてもらうよ・・オレは先に寝るから」
宿屋の主人は夕食の酒でほろ酔い状態、ホフメンはテキパキと食器を片付け、ゴラムは外で砂漠の星空を眺めている。
「あとヤール、お前オレの部屋に入ってきたら『契約は解除だ』からな?」
ちなみに宿で借りたお湯とたらいを使ってヤツの背中は拭いた、なんか前屈みで胸元を隠すとか、、悪魔はよくわからん。
見た目男の背中を流してやっただけで、うぅ・・精神的疲労が・・
「では、夢の中でお会いしましょう」
・・それも止めてくれ、ヤツの返事に心底そう思った。
[加速]!ヤールの魔法でゴラムが走る。
普段の動きも本人は走っているのだろうが、今は補助魔法で加速され馬のような速度で走り続けている。
朝から走り通しだというのに、速度が落ちる様子もない。
(ゴーレム?の特性か?[疲れ知らず]とか・・中々やる男だ)
「・・勇者様、[加速]が切れる度にかけ直すのは良いですが」
「ああ解ってる、その為に今その町に向かっているんだろ?」
詳しくはオアシスの町の直ぐ近くにある城、そこに移動速度の上がる魔法の装備があるらしい。
『悪魔の感です!』とか、どこの主婦だ?まぁ女の勘とか言い出さないだけマシだとは思うが。
(・・こいつ、男だよな?多分・・それとも悪魔に性別は無いとか・・)
城の宝なんか盗ってもいいのか?とは思ったが、税金で生活が成り立っている為政者の宝だ、ばれなければなにも問題は無いだろ、心情的にもな。
弓を持つ小さい魔物が高速で走るゴーレムを見て・・逃げ出した。
そのほか紫の芋虫が現れた!が移動しながら蹴り飛ばす。
カニが・・砂に潜って逃げ出した。クソッ、カニ食べたい。
コウモリ猫が飛び上がって、、、なぜか今数匹が馬車の天井にぶら下がる。
「多分暑さを避けてきたんでしょう、夜になれば襲って来るかもですが」
ホフメンの説明では、コウモリ猫は夜行性らしい事が解った。
暑さに弱いならなんでこんな所に・・・まぁ猫の顔に免じて今は許してやるけど。
喉の所を触るとゴロゴロってなった(うん、今だけは猫成分に免じて、許してやろうじゃないか)
「勇さん毒蛾が!」
[幻影]を使う人面蝶の[毒]、仲間を呼ぶし毒も使うから・・手早く倒す。
「[火炎線]!燃え残りを片付けてくれ!」
加速の掛かったゴーレムの回し蹴りが毒蛾を蹴り飛ばしていく・・・
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!・・
「まとめて全部ぶっ飛ばすとか・・」これオレの魔法いらなくないか?
揺らぐ空気、蜃気楼の向こうに見えるのがピラミット。
[加速]の無いゴラムなら3日は掛かった距離が、1日で砂漠の真ん中まで到達している、疲れ知らずのゴーレムはガシガシと砂漠を走り、馬車の車輪を回して進んでいく。
敵の姿が消え車輪が砂を掻くシャラララ・・って音と、馬車の壁を風に乗った砂が打つパララ、って音だけが響いている。
(・・なんか、変だ)
風で砂丘が変化する音、そしてどこまでも続く砂の風景。
「少し停止だ、静かに」
(・・獣の動く音も無い・・ここはどこか変だ)
次ぎの瞬間コウモリ猫は馬車から飛び去り、地響きと共に砂の下から巨大な・・巨大な、なんだ?アレ?
ザバァァァァ!!!!
「砂食い、若しくは[モンゴリアン=デス=ワーム」と呼ばれる魔物ですね。
砂漠に死体が少ないのはアレが処理しているからでしょうか」
砂岩の外殻を持つ巨大ミミズ、そいつはオレ達の馬車の前に飛び出し砂に潜る。
(アイツ、、、地面の下からオレ達の進む進路を予想して飛び出したのか?)
「ピョートル[爆破]の準備だ、アレの口に魔法を叩き込んでやる。
ヤールは休憩しておけ、オレ達だけでやる!」
ゴラムに投砂の準備をさせオレも[爆破]の準備を始める。
正し、発動を遅らせ3重にかさねた遅滞魔法。
「ヨシ、砂を投げろ」
ゴラムの大きな手が砂を掴み、目の前に砂を飛ばす。
・・・地面が揺れ・・・来るぞ!
馬車を飲み込む巨大な口、中にはナイフのような歯が尖り、砂悔いはオレ達を丸呑みにしようと大口を開けて飛びだした。
[爆破]・[[[爆破]]]
二人の魔法が体内で起爆し、爆破の魔法が衝撃と震動を繰り返す。
衝撃と爆破の音は砂食いの身体を進み・・・
そして悪臭を放つ体液を撒き散らし破裂した。
・・・「臭い」・・「ああ、臭いな」
タダ臭い、すごく臭い、途轍もなく臭い!
「砂漠の死体処理をしているからでしょう。
それより勇者様、この場は逃げた方が」
[爆破]の震動と砂食いの体液が放つ悪臭、それは・・・新たな砂食いを呼ぶ導きの鐘となる。
ズゴゴゴゴ・・・
解る範囲で3匹、それぞれサイズが違う砂食いの背中が砂を走ってくる。
「ああ解ってる、ヤールは加速をたのむ!
撤退転身、ゴラム!全速力でこの場を駆け抜けろ!」
オレが最後に見えた砂食いは、小さい山くらいの背中があった。
どれだけの時間を生きればそのサイズになるのか、多分砂食いの大将だ。
ボスがマザーってやつだろう。
少し戦って見たかっただけの好奇心で、とんでもない魔物を呼んでしまった。
それにだれも砂食いを退治しない理由もわかった。
臭いし汚いしデカイし、得る物が無いからだ。
「イエイエ!アレはアレで人間には利用価値のある魔物なんですよ?」
「・・・ホントかよ、ただ臭いだけの魔物じゃねぇの?」
「砂食いは確かに砂漠の掃除屋ですけどね、それはつまり砂漠で死んだ人間の装備も持ち物も全てを腹の中に溜め込んでいることも・・・ある、と言う事です。」
ああ・そうか、魔物は人間を殺すが装備や金は奪わないのが普通だ。
なら砂食いの腹には食った人間の死体も・・特に消化できない金属、錆びない丈夫な金属であるほど消化されず腹の中に残りやすいってわけか。
「砂漠の中の砂の深い場所で糞として排出される事も有りますが、とくに大きな個体ほど、身体の中に食べた物を長く溜め込む習性があると聞きます・・つまり」
「あの馬鹿でかい砂食いの中にはお宝が・・・」
有るとは限らないが、可能生は高いってことで。
「人間が討伐する場合、準備を整えて1匹ずつ静かに倒しているようですよ。
体液の匂いは我慢しているのでしょうか?」
もしそうなら、希少金属目当てに地道に狩るのも悪くない話しか。
「そんな事より!今は後を見てくださいよ!」
[加速]の切れたゴラムを追う巨大な砂食いが身体を起こし、口を開けて飛び掛かろうと狙いを付けている。
別の事に集中して忘れてた!
う~~んと・・・[爆破]は止めておくとして・・ヨシ!
(なら[氷結]の魔法はどうだ?)
高い気温のせいで威力は落ちるが、熱い砂に生きる魔物なら少しはビビるだろ!
[氷結]!
揺れる馬車の中で勇者は集中し、氷りの矢を飛ばす・・・
ん?
氷りは砂食いの口に入り込み、魔物が身震いして一瞬動きが止った。
ほとんど効いてない感じだが・・・
(大氷結とか・極凍結の魔法を使える魔法使いなら、あのバカデカイ砂食いの内側から氷らせれば殺せるだろうが)
その時の魔法使いは、1度食われる必要があるけどな・・へっ。
ヤツの背中、砂漠の日光に当てられている部分を内側から氷らせれば・・
砂食いの動きが止った瞬間に[加速]が掛けられ、ヤツを振り切る。
(全くこんな炎天下でバカ熱い場所でマラソンとか、バカしかしないぞ!)
こんな暑さで運動会なんてさせるんじゃない、殺す気か!
馬車を引いているのがゴーレムだから良かったものの、並の馬だったら心臓とか肺を壊している所だぞ。
お陰でオアシスの町に行くつもりが・・ピラミットに来てしまったじゃないか!
乾燥煉瓦の階段を登ると、さすがに追って来れないようだ。
飛び上がった砂食いの1匹を全員で倒し、それ以降は砂食いの動きは消え、砂漠に動きが無くなった。
「うう、ボクの槍が」
「ホフメン、武器は戦う為にある物だ、体液で多少臭くなっても手入れしてやればまた使える。
敵が臭いからって武器を使わないなんて本末転倒だぞ?」
「勇さんはいいですよ!魔法で戦ってたんですから」
だって、オレのオオバサミが臭くなったら嫌じゃん?
涙目のホフメンに睨まれた、ゴラムなんか拳で戦っていたのに不満も見せないんだよ?そんなに気にするなよ。
ゴラムは身体に着いた臭汁を砂で擦って落とす。
(そういえばヤツは砂漠で戦ってたんだよな、なら対処の仕方だって・・)
「ヤツらはオレの身体が栄養にならない事を知っている、殴れば戻っていく」
と言う事らしい・・つまり今回は車輪の音に釣られて来たのか・・
しゃーない、ヤツ等の縄張りは迂回して・・・縄張りってどこからどこまでなんだ?
「魔物の死体が無い所は要注意、と言う事で良いのでは?」
「そうするか・・あとな、スラヲが臭くなったら困るからつまみ食いは程々にな」
スライムの消化力がどの程度かは知らないが、相棒が臭くなると困るからな?
ピョートルの足元で動きの止った砂食いの身体を取り込んで・・おかしい?
スライムの体積より明らかに大きい砂食いを食ってやがる!
とか思ったら半分ほど取り込んでからペッ!と吐き出した。
(消化出来る分だけ消化したのか?)
スライム、謎の生物の生体。
ほのぼのとした空気を浸蝕するピラミットからの空気、カビ臭く埃っぽい中に死体の匂いが混じって侵入者を拒絶している。
(うん、ヨシ!さっさと立ち去ろう!)
・・・?
スラヲが吐いた砂食いの身体に金属の光りが・・・
方針変更!
「スラヲくん、もう少し頑張って食って見ないか?」あと金属は吐き出すように。
「勇さん?スラヲのあまり変な物を・・」
ピョートルも途中で気が付いたのか、家族の貪食[たんしょく]を眺めて口を閉じた。
そうだよな、スラヲが食べてくれないとオレ達で解体することになるからな。
金は大事だぞ、ピョートル。
まずはオレが見張り、スラヲの食事を邪魔する魔物が来ないように追い払う。
(と言っても、砂食いの悪臭で他の魔物は近づいて来ない)
で、仲間はピラミットの入り口の影で休憩、砂漠の死体処理蟲を食っている仲間・・実はスライムってすごい種族なのではないだろうか?
「はぁ・・暑い。
ホフメン、ゴラムの影で見ているだけでいいからな。あと水を」
「ハイ、それでは」「ゆう、おれが解体しても、いいぞ」
「ゴラムの提案はありがたいが・・臭い仲間とクソ暑い砂漠を進むのはな。
・・それに町にも入れ無くなるから」
認識阻害の魔法でもこの悪臭はどうにもならない気がする。
そうだろ?
「・・視覚と脳の認識を鈍らせる魔法ですから、強力な刺激を受けると流石に違和感に気が付きますね。
人間は少しの違和感からでも警戒する事もありますから」
人間を1度警戒させてしまったら、あとは疑い・観察して仲間を呼ぶ。
いくら認識阻害が完璧でも、追われる者としては同時に複数の目にさらされる事は避けたい。
「捨ててもいい金属棒でもあれば頼むんだけどな、今はいい。
スラヲは大事な仲間だからな、喉?を詰らせないかどうかだけ気を付けて見ていてくれ」
緑色の身体が青く染まったら要注意だ。
あと絶賛活躍中の騎スライムを三角座りで眺めているピョートル、弟が急に活躍して注目を受けてショックをうけた兄のような気持ちは解るけど!
そんなに暗い顔をするなよ。いや解るけどさぁ!
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