第3話

 実際ピョートルを捕らえた事で戦闘が楽になったと思う。

 素早い動き・・(多分スライム)で攻撃をかわし、オレの正面に立つ敵数が減る。

戦闘中も背後を気にせず戦える事で前だけを向いて戦える。それに、


「ピョートル、[回復]だ!」

 おれが叫ぶと必ず回復が掛かる、だから傷も気にせず殺し合いができた。




「・・・今日はここまでだな」

 ピョートルの疲労を感じて休ませ、スライムには魔物の死体を与える。

 緑の玉は大口を開け、ムカデとかバッタとかを丸飲み。

魔物の死体はジュワジュワと溶けている。


「・・・こいつ、なんでも食べるな・・そのうち、ご主人も喰うんじゃないか?」


「それは、ありません」横になったピョートルは顔を向けた。


「何故わかる?言葉が通じているみたいだが、心まではわからないだろ?」

 人間同士だってわからないんだ、種族が違う生き物どうしなら絶対わかる訳が無いだろ。


「・・私達スライムの騎士は、産まれた瞬間からスライムに乗る運命を背負います。

そうしないと、この小さな体では生きて行けないからです」


・・・


「成人を得ても人間・魔物、その他多くの生物より小さい私達は成人になる前からスライムと共に生活し、スライムの面倒を見て家族のように暮らします。

 そうして才ある者は野性のスライムを捕えて育て、騎乗しますが。

通常は家族同様に育ったスライムに乗ります」


(つまり、こいつらは、家族って事か・・確かに・・家族の肉は喰わんよな)


フンッ「野暮な事を言ったな、すまん。もう休んでろ・・」


 オレは結構な数のスライムを刻んできたけど、こいつがそれを知ったらどんな顔をするんだろうか?

 殺気のような感情を目の前で転がるスライムに向けてみる。


・・・スライムは魔物の肉片を取り込むのに必死で、オレの眼光にも気が付いていない。(フンッ、所詮はスライムだな)

 最低ランクの魔物に家族とか、そんな感情がある物かよ!


耳を澄ませば焚き火の弾ける音と、スライムの消化音がしゅぅしゅぅ・プチプチと小さい泡が弾ける音が聞こえる。


(寝ている間にこいつを殺したら、ピョートルは何を言って来るだろうか?)


怨むか?

寝こけていた自分を嘆くのか?

それとも絶望して頭をかきむしり涙を流すのか?・・・・


(つまらないな、本当につまらない)


 今、こいつは都合のいい薬草代わりなんだ。

 役に立つ間だけは魔物として・勇者の敵だったとしても、殺さないでいてやる。

 裏切る事は許さない。


(・・・魔物の家族の事なんか知るか・・知るかよ)



 まばたきの時間が長くなり、意識の切断が繰り返され始めた頃・・・


「おい、起きろ。静かに・ゆっくりとな」


「・・交代ですか・勇さん」ピョートルはまだ眠そうな声と緩慢な動きで起き上がる。


「静かに・・隠れるぞ」焚き火の火を消し、ゆっくりと背の高い草群に隠れた。


近づく気配は、魔物の動く音ではなく人間の足音。

草群を苅って作ったサークルの中とは言え、焚き火の明かりは夜は目立つ。

人間を狙う魔物、旅人を襲う夜盗、そして[誰か]を探しているヤツらに取っては格好の的に見えるはずだ。


 獣や魔物は炎の明かりを人間の人工物と認識しないが、人間は其所[そこ]に人間がいると判断する。

つまり焚き火の明かりを目指して来るような足音は、人間の証拠だ。


(ついに追っ手をかけたか、よその国まで殺しに来るなんてな。

余程あの王はオレに死んで欲しいって事かよ)


 まだ勝てない・まだ力が足らない、国王のヤツの通達が入っているはずだから、町にも入れない。


武器屋も宿屋も使えない、そして一度でも死ねばヤツの、ヤツの玉座の前でオレは復活するのだろう。

 

 力も戻らないうちに捕縛され、そ芋虫のように転がされたオレはきっと、本物の芋虫のような体にされ痛め続けられて死ぬ。

生きている事を後悔するほどの拷問を受け続け、復活の奇蹟が起こらなくなるまで殺し尽くされる。


(・・ふぅ・ふぅ・・考えるな、死んで捕まった後の事は考えるな・・)


(今はとにかく、この場をどうするか考えるのが先だ)


 遠くで聞こえた話声、大声と混じる陽気で騒がしい騒音。


(なんだ?刺客じゃないのか?アレは・・・)



「親分!上手く行きましたね!」「ホントッスよ!一度ならず二度までも、ザルす!」

「うるせぇ!とにかく走れ、捕まったらシャレになんねぇんだからな!」


大柄の男と鎧の男達だ。

月明かりの暗闇では輪郭しかわからないが、結構素早くだが、時折スキップとか飛び跳ねたりとか・・


「まさか王冠を二度も盗られるなんてのは、普通は考え無いもんだ。

そこをオレ様が油断を突いて盗んでやったって訳よ、まぁオレの知略ってやつの勝利だぜ!」


・・油断は突かない、隙を突くんだ。

それに、アノ声どこかで・・


「さっすがカン田のおやびん!天才てき!世界1の怪盗!」


「・・・・」


「そうそう、あのくそ堅い扉を斧で叩き割るなんて!だれも考え無い発想ですよ!」


 一人だけわかっている感じはする、カン田だと?・・


「早くアジトに帰って、お前らにもこの王冠を装備して見せてやるぜ!

この王冠に相応しい男がだれか、『それはオレだ!』って事をお前らにも証明してやるからな!」


「親分!頭の装備は良いですが、そろそろ体の装備も・・」


「「「「ダマレ!」」」」「・・・」の男の言葉を他の者が否定した。


「まだわかってないのか?新入り、男の装備は筋肉だ!

この最高の筋肉を装備したオレに、体の装備は不要!」


 筋肉を見せ付けるように斧を振り上げ、走りながらも胸筋を!

腹筋を見せ付けていた。


「どうだ?熱いだろ?

 あの敗北より鍛え上げた筋肉!敗北を経験した事で、より成長した筋肉!

もはやパンツすら邪魔に感じているぐらいだ!」


「「「それは駄目です!」」」

 周囲の鎧は声を揃えて、ぱんつを脱ごうとする男を止めた。



「おおっとそうだったな、今はパンツを脱いでいる場合じゃなかった。

急ぎアジトへ戻るぞ、お前達!」


 顔からマントをかぶった筋肉の大男、カン田はその体に相応しく無いほどの早さと駆け足で去っていった。


(あいつらか、フッ・・)


「勇さん?あいつらなんなんです?人間?魔物?

 敵です・・か?、なんで笑っているんです?」


ピョートルは警戒しつつ、顔をむけて驚いたような声で聞いて来た。


だからオレは、こう答えたんだ

「いいや・・ただの変態だ」よ、と。


・・・・・・・・・・・・・

「大変です!!夜分お休み中、申しわけございません陛下!」


 王が水差しの水をグラスに移している最中に部屋の扉が叩かれた。


「ああうん、良いぞ、入れ。報告を許す」


(我が国の衛兵は流石に動きが早い、誇らしいことよな)


「御就寝の所・・お休み前でおございましたか、失礼しました。」


「なにがあった?」

(大方の事はわかっているが、詳しく聞こうじゃないか)


「その、まことに申しわけなく、不甲斐ない事ではありますが・・・陛下。

陛下の王冠が・・・盗まれ・・ました・・」


(やはりあの音と震度は、そうだったか・・・)


「それで・・犯人は見付かっているのか?

犯罪者は犯行現場に証拠を残すというからな」

・・・多分ヤツだろう。


「・・それが・・その・・カン田のヤツです!ヤツめ舞い戻ってきたようで・・

あの特徴的な影を兵士達が見ております。」


で・・あるか。

「わかった、今日はもう遅い。

 片付けと報告が終りしだい通常の守備に戻れと伝えなさい、

 だれの責任かなども、別に責めるつもりは無いとも」


走り、汗をかき、困惑している兵士にグラスを差し出す。


「飲んでおきなさい、キミのように働き者で忠実な兵をもって私は果報者だ。

ヤツ・・カン田の隠れ家は、この国の皆が知っている。

慌てる事は無い、今日はワシもキミも、お互い不運だったと言うだけの事。

気にする必要は無いよ」


 王様が肩を軽くポンッと叩くと、兵士は立ち上がり「ありがとうございます!」そう一礼して走って行った。


(さて、どうした物か・・)

 国王が微笑みを絶やさずベットに腰をかけ、・・少しだけ昔の事を思い出し、目をつむり横になった。


(そうか・・ヤツが帰ってこれるくらいには、時が過ぎていたのか・・・)

 そうだな今度私の前に立つ者達は、どんな男達だろう。


 将来有望な者達が現れる事を期待するなどと、この今の世界では不謹慎ではあるが・・・・・

王としては喜ばしことだと夢うつつになるのである。


 翌朝、王の玉座の前に膝を付く数人の兵士達の前で王は笑っていた。


「そう恐縮するものでは無い、まさかあのような方法で扉を開ける者がいるとは誰も思わんよ。失われたのは僅かな金と冠一つだけで皆に怪我も無く、良かった良かった」ワハハハハッ!!


「お父様!そんな事を、国王の王冠は国の象徴ですよ!急ぎ兵を集め悪漢のアジトに攻め込み取り替えすのです!」


 娘が大声を上げたから兵士達が体を固めてしまったではないか、誰に似たのか優しい娘だったのに・・・・


「無論、我らこの命と名誉をかけ今日中にでも!」


 隊長が顔を上げ、同じように目をギラギラさせた兵達は熱く燃えるような気迫が見えるようだ。


「良い良い、冠はホレ。今も私の頭の上にある、お前達は私の冠より、

国を守る為にこの国にいるのだ。そのやる気は民を守るために使ってくれ」


「そ!それでは!・・我らでは力不足と・・」


「そうでは無い、これも王の命だ。

お前達は精鋭だ・強靱で頼りになる男達だ、だからこの様な些事[さじ]に手をわずらわせる必要はないのだ」


 私は彼等の前に立ち、皆の肩に手を置いて行く。

 熱く分厚い筋肉、よほど鍛えているのだろう。


「ふれを出す、我が王冠を取り返した者には褒美を出すと」


 そうだなぁ・・我が国最高の職人による武具・数の少ない最高の古酒・・・やはり金貨が良いか?どうだろうか?


「褒美を出す事で、旅の冒険者や流れの武人が集まるだろう?

町の男達も[我こそは]と立上がる者も出るだろう。

兵をキズ着けず強者が集まり、町の男達が精強になるなら安い物だ」


 そして褒美を受け取った者が、我が国の職人の腕を隣国に伝えてくれたなら。

冠一つ損のうちにもならない・・は欲深過ぎるか。


「お前達は恥じる必要は無い!王命だ。言いたい者には言わせて置け、

そ奴等も声も私の思惑のうちだ」はっはっはっはっはっ!


 さぁふれを出せ、町中に・国中にこの事を知らせるのだ。


・・・・

「お父様!なぜあのような事を!

 この様な不祥事を国中にふれ回るなど、王家の恥です!

 遅くはありません、今すぐ撤回を!」


 その夜、鼻息荒く怒る娘が私の出したふれにいまだ憤り私をにらむ。

娘よ、王様なんだよ・・私は。


我が娘ながら・・身を守らせる為とは言え、武芸を積ませ過ぎたか?

こんなに元気・・を超えて気丈になってしまって・・これでは嫁のもらい手が・・


「なにをそんな哀れみの目で娘を見ているのです?

 今はそれよりも王冠を取り返す事を考える時です!

 王が冠を奪われるなど他国だけでなく、国中の笑いものなってしまいます!」


「笑いたい者には笑わせて置けば良い、事実なのだから」

「だから!それを偽りとするために、誰にも知られる前に!」


 この子は、本当に良い子なのだが・・


「いいかい?我が娘よ・・人の口に戸は立てられぬ。

 それにな、王家への不満・怒りなど、いつの世でもある物だ」


 魔王が現われ・・もう40年近くなるのか、森にも平野にも町の空にも魔物は現れ民は安心して畑も耕す事も・狩りをする事も出来なくなった。

 そしてそんな不満は、当然自分達の生活を守れぬ為政者に向かう。


『なぜ税を納めているのに、我々を守ってくれないだ』と、そして無能だと噂するのだ。

 だが、国王・一つの王家だけで魔王には勝てぬ。


「王の・・王族の出来る事と言えば、時に被害を押さえるために兵を出し民を避難させ、時間を稼ぐ事。

 民衆の混乱を大きくしないために、民を押さえる事くらいな物だ・・

どうしたって不満は収まらぬ」


・・・・・

「なら王を笑える口実を与えてやればいい、公然と笑えるような事件を。」


「それでは、長きに渡る王家の誇りも伝統も威厳も笑いものになってしまいます!」


「・・王家の誇り・・か?威厳?伝統?・・では聞くぞ?娘よ、王家の誇りとはなんだと思う?」


「王家の誇りとは・・王族である事を恥じない事、だと・・思います・・」


「間違いでは無いが・・王の誇りとは、民が笑い・安心して暮らしを送れる国を支えているという自負だ。多くの民の喜びを支えているという喜びだ」


 それ以外には無い、どのような軍事国家も・侵略国家も・独裁国家も、最初は少なくとも国の建国時の国王は皆そうやって理想を描いたのだ。


 結果として飢える自国の民を救うために他国を侵略し・他国に攻められないように軍事化してしまう事になったとしてもだ。


「魔物に怯える民を笑わせるためなら、王が道化を演じることのどこに恥じる所があると言うのだ」 

 しょせん威厳や伝統・格式なぞは、自国を守るため自国民を守る為の道具に過ぎんのだ。


「・・いいかい?お前には昔、童話を聞かせた事があっただろう?

憶えているかい?」


「・・お父様は・・はい、たしか[裸の王様]をよく読んで下さいました」


「そうだ、私の好きな話だよ。そして私の父も好きだった話だよ」


「私はね、裸の王様になりたかったんだ。

 どこかの商人に欺され、馬鹿には見えない服を着て城下を歩く。

そして子供達に笑われ『王様は裸だよ』と言われて真っ赤になる王に・・

何故かわかるかい?」


「・・・・」


「その国は旅の商人が大もうけ出来ると思うほど裕福で、

そして王は大らかで賢明な臣下に支えられ、王が裸で歩いても危険は無く・公然と王を笑い、王もまた国民の笑顔で笑い出す。

たとえひととき、恥じを掻いたとしても、それがなんだと言うのだ。

それだけ国が平和である証拠ではないか?」


「王族は戦争に負けた時、責任を取る事が最後の勤めだ。

理不尽に攻められ・負けたとしても、民のために首を差し出し、自分の子供の命運すら敵に預け、投獄され斬首される事だ。

その事を先王から聞いた時、私は逃げだしたかったよ。でもね。


王が死ぬ事で民の命が救われるなら、それが使命なのだと。

自分一人の命で国民の多くの命が救う事が出来るなら・・それは感謝でしかないよ。

神様が私にお与えになった、私にしか出来ない御役目なのだとね」


 だから死ぬことより笑われる方が、自分も民も幸せだろう?と王は玉座に座って笑った。

「そう・・かも知れません、お父様」

そして、また。父の言葉を・心を理解した賢明な姫も美しく笑うのであった。


・・・・・・・・・・・・・

 時は少し戻り、カン田の走って行った方を見つめる勇者とピョートルの二人は、

カン田が走って来た方向を見つめていた。


(城からの追っ手が何故来ない?・・まさかな?)


 斧で扉を開けたと言っていたからバレて無いはずがない、だとすると・・・

思い出す事を拒絶する過去。


クソッ、吐き気がする!


(本来なら面倒事は避けるべきだが・・)


 ピョートルもオレも町に入れないからボロボロだ、数日とは言え、まともに寝ていないから魔力の回復も出来ていない。


 装備も、これからの敵の強さを考えると限界が近い・・現状を考えれば塔の宝箱[カン田の私物]をあさっても武器・防具を更新するべきだろう。


(ついでに休む場所が確保できたら、こいつも休ませられる・・か)


「ピョートル、アレのアジトに付いて行くぞ。泥棒の宝を泥棒してやる」


「人間の王の冠を取り戻すのではないのですか?」


 王族とか貴族がどれだけ困ろうと、知った事じゃない。


「アレと戦うには戦力が足らない。

 負けて死ぬくらいなら、戦わない事の方がいいだろ?

 戦う理由だって自分のためじゃない。どこかの誰かのためとか、しかも頭を下げて頼まれたわけでもないし、な」


半分は本当で・半分は建前・理由だ、戦わない理由を重ねて逃げている。

どこかでジワリと体と心が染みる気がする。

(なんだか・・な)


 奴等のアジトの場所は知っているから、夜明け前にはたどり着く事ができた。

 道中の虫やお化けの魔物は悉[ことごと]くブッ殺して少し疲れた。

 塔の見える岩陰で1休みしながら周囲を、とくに城の方を注意して。、


(やはり城からは兵は出ていないのか・・・)

あの国王、、、やっぱりヤツとは違うのか?


(体力8割・魔力半分ってとこか・・慎重に行かないとな)


「まず最初に注意事項だ。

オレ達には毒の回復手段が無い、当然麻痺にもな。

 だから毒と麻痺を使う魔物は真っ先に殺す、二匹以上なら逃げる、わかったか?」


「・・あの・・自分、[解毒]使えます・・よ?」


どう言う事だ?ピョートルが[解毒]を使う所を・・たしかに今までそんな機会は無かったが・・


「おまえ・・優秀なヤツだったんだな」

オレには使えない魔法の奇跡を使う魔物とはな、神ってやつはどうしてもオレを強くしたくないわけだ。


「それが・・その、勇さんと戦っていたら謎の声がしまして。レベルがどうとか・・それで[解毒]を憶えたとかなんとか」


 魔物もレベルの恩恵があるらしいかった。

(あれだけ殺しまくれば、そんな事もあるか)


「なぜ言わなかった?」レベル上昇の事を。


「・・それは・・人間の勇さんは、魔物が強くなると困るでしょう?・・嫌かな、と」

「・・嫌ではあるが、パーティー・・・チッ!ピョートルが出来る事は知っておく必要があるからな、変った事があれば報告しろ。別に獲って喰おうとは言わないからな」


 ヤツは薬草箱から薬箱に昇格だ、今後はオレの生命線になるのか・・・


「ピョートル、これからは後衛として自分の身を守れ。

 後はいつも通り回復と言ったら[回復]だ、危なくなったら真っ先に逃げろ。いいな」


なにか不満そうな空気を感じるが、回復役が倒れたらオレ達は終りなんだよ。

その事を説明し、胸に息を深く吸う。


「さあ、慎重にいこうか」


 五年も経てば世界は変る、塔の罠も敵も変りオレの知らない魔物も増えていた。

変なつぼの魔物や舌を伸ばす魔物、それと・・「なんで笑い袋が!」


 [幻惑]を使う袋がくにくにと地面を跳び、声を上げて笑っては仲間を呼ぶ。

それはスライムだったり、死体だったり、くそ鬱陶[うっとう]しい。


 [爆破!]勇者の魔法が空気を振動させ、破壊の衝撃が幻惑を打ち破る。

「貴重な魔力を使わせやがって!」


 クッタリと伸びた袋にとどめを刺し、爆音で魔物が集まらないうちに素早く移動。


 目玉っぽいヤツとか、コウモリの羽根の生えた小さい悪魔に似たヤツを伐ち倒し、

ようやくお宝、宝箱発見した。


「ピョートルこれは運試しだ、運が悪ければ即死の魔物[人食い箱]が化けている事もあるからな。

オレが開けるから、開けた瞬間には逃げられるよう準備しろ」


・・・宝箱の中身は鱗の盾だった、

(冷や冷やさせやがって・・全く)


 つぼを壊すと魔物が出たり・・種が出たり薬草と毒消しが出た。

(この形と・・色は・・守りの種か)


「喰っとけ、丈夫になる」

 ピョートルに渡すと不思議そうな感じでマスクの下に入れた。


(わかる、なんで種で丈夫になったり腕力が上がるのか不思議だよなぁ)


 他にあった物は鎖鎌と皮帽子だった。

(せめて手下が着けているような鎧は入れておけよな)


それでも多少マシになった防具と・・武器?


 宝箱を開ける時の感覚・罠を回避し塔を登る階段の感覚、嫌になるくらいワクワクするのは何故だ・・クソッ!


 嫌な事を思い出した、あの時言った戦士の『どうだ?勇者、これが冒険ってやつだ』だと?クソッ!

 不愉快だ!アイツの笑い顔もジジイの声も・思い出すだけで不愉快だ!


(こんなもん、面白くも無い!必要だからやっているだけだ)

ガンッ!クソッ!

 拳を壁に叩き付けたせいでピョートルが止っていた。

「気にすんな、発作見たいなもんだ」

 そうこんな不快感は、くだらない発作みたいなもんなんだ。


 しまった!

 イライラしたまま歩いていたから気が付かなかった!


 大きな扉と見覚えのある柱、この先はヤツらの部屋だ・・

「静かに下がるぞ・・」気付かれたら面倒だ。


「・・?お前ら・・ドコから来た?」


 ギィと扉を開けた鎧の男が、体をフラフラゆらしながらこっちを見ている。


「・・?夢か?・・酔いすぎたかな?・・」

 男はトイレトイレとそのまま階段を下りて行く、助かった・・。

今の内に・・柱の陰に・・


「オーイ、その辺に吐くなよ・・・・て!お前誰だ?!」

開いた扉の向こうから声を上げた男がオレと目が合って叫んだ!


「怪しい者じゃ無い、ただの・・泥棒です」と言っても通じないだろう。

 酔っ払った鎧姿の男達が立ち上がり、何人も男たちが集まって来た。


(酔っているヤツだけなら、、勝機はあるか)


「ピョートル!お前は全力で身を守れ!オレが数を減らす!」

 先ずは、一番足取りのしっかりしたヤツからだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る