第2話

(王様が・・王がオレを殺す?なんでだ・・)

思い返すとそんな雰囲気はあった、アノ戦士共もオレを嫌っていた

 ジジイはオレを馬鹿にしたような顔で見ていたし、神官の女も戦士のヤツを最初に回復していた。


 結局オレは邪魔者だったのか、だから旅の最中にオレを見捨てて・・砂漠の真ん中でオレを痛めつけ放り出したのか。

 必要だったのは、[勇者]であってオレじゃない。

 強く勇気に溢れ、皆に尊敬と憧れを持たせるかっこいい英雄が必要だったんだ。

 弱いオレ・臆病なオレなんか、みんな死んでほしかったんだ。


 それなら周りのヤツの冷たい目も、王が会おうとしなかったのも理由が付く。

[この国のヤツら全員、おれが生きているのが邪魔だったんだ]

 背筋を生ぬるい蛇が這い上がるような怖気、そんな町の中でオレは何も知らずに顔を隠しながら買い物をして、飯を食って、寝ていたのか。


 震える脚を渾身の力で握る、こうしないと膝が崩れしまいそうになっていた。

怒りと恐怖で拳を噛んだ腕は熱く、痛みすら感じ無い。


(ふぅ・・ふぅ・・)

 生きなければ、麻痺していた脳は生存本能で目覚め出す。

 昔買った鎖帷子も鉄の盾も鋼の剣も、最初の一年で全部売った。

 恐くて町も人間も魔物も恐くて、それでもお金は必要だったから叩き売ってやった。


(ハハッ、それでも最初に買ったこの[銅の剣]だけは、手放せなかったんだけどな)


 それも馬鹿馬鹿しい話だ、ベットの横に置いてあったこの剣は最初に旅立った時の気持ちがまだ残っていたんだ。ソイツがオレをベットから引き摺り出し、魔物と戦わせていたんだ。だからギリギリの所で戦えた、(魔物なんぞに負けるか!)(強くなってやる!)って。


 見返してやる・馬鹿にしやがって、クソッ!って怒りを発散する方向も、魔物に向ける事が出来た。

 それもこれも・・昔武器屋のオヤジが『がんばれよ』と言ってくれた思い出があったからだ。


 今のオレはくたびれた皮の鎧とぼろぼろ銅の剣、皮肉な話だ。

 鉄の武器は蝋燭の光りを反射させていただろう、鎖帷子は動くたびに音を出し兵士に気づかれていただろう。

 だからこのおんぼろ装備が今はありがたかった、オレに相応しいボロボロの装備がな。


 息を整えた勇者が動き出すのは早かった、柱の陰を渡り人の足音から遠ざかり、

声に耳をそばだて気配の中で気配を・そして息殺す。


(走らなければ)

 誰にも見付からず、逃げなければ。


 勇者が毎夜町を出て魔物を殺していなければ、身に付いていなかった技術。


 闇夜で魔物と遭遇し瞬時に逃げるか戦うかを判断する戦いを経験していなければ、出来無かった瞬間の判断力が体を動かしていた。


(町の出口には・・当然兵士はいるな)

 それに、多分いつも使っている町の出口もバレている。


 ひとけの無い民家の裏に積んだ木箱、だが・・足元の石がいつもと違う、

目をつむって聴覚に集中すれば複数の息が聞こえる。


(やっぱりだ)


 [本気で捕らえに来ている]

 その本気さが捕らえられた時にどうなるかを鮮明にした。

 (本気でオレを殺しに来てやがる)

 木に登って壁の上から出られる二つ目の場所にも兵士達が隠れていた。


(・・・舐めるなよ、ダテに5年も真夜中の町を歩いていたわけじゃないんだ。

こうなれば被害など知るか、5つ目の隠し通路だ。

 いままで試した事は無いが出来るだろ)


 民家の植木を登り屋根伝いに3つ、その先にある家の二階の屋根から飛び降りれば・・・・バキバキバキバキバキ!!!!


 少し離れている立木の枝がオレの体を刺し叩く、死ぬよりマシとはいえ2度とやる事はない、っていうかしたくない。


 ピーピー・・ピーーーー


 枝の折れる音で兵士に気付かれた、警笛が鳴り響きすぐに兵士達が集まって来るだろう。畜生!オレは傷だらけの体を押さえながら暗闇を走った。

 兵士達より早くアノ地下道に行かないと、オレの動きを読まれるまえに早く逃げないと。


・・・・・


 隣国の境界線にある大河、その下をくぐる為に作られた地下道には多少の魔物が湧く、地上の魔物とは違うグロテスクでおかしな術を使うヤツもいるから普通は入り口に兵士が2~3人出入りを見張っているだけの場所だ。




(・・馬・・か)

 3人くらいなら不意伐ちで勝てる、そう考えていたオレは篝火の数とソレを守る兵士の数に身を隠す。


(8人だと?)

 それに装備も鉄の槍と盾、鎧も鋼鉄の光りが見えた。


・・あのジジイ!おれには服と少しの金しか出さなかったくせに!

オレを殺す時は完全武装の兵隊を送り込んで来やがるのか!


怒りで沸騰しそうな頭は、目の前に光る槍の前に鎮静された。


(ドロをかぶって不意伐ちしても、駄目か・・敵が多すぎる)


 闇夜は篝火と松明で照らされ一撃離脱も兵馬が許さないだろう。

それに時間を無駄にすれば、日は上がって隠れる場所も減る。

今夜中にオレが見つからなければ犬も使うだろ、何か理由を着けて大捜索になるかもしれない。


オレは唇を噛んで血の味を思い出す、あの時の涙の味とは違う鉄の味。

(・・今は泥と鉄の味か、冷静になれ・・旅人の翼は・・無理か)


 隣町の道具屋には通達が入っているはず、のこのこ出て行ったら兵士に囲まれ捕まるだろう。

糞野郎!オレは犯罪者かよ!


(そっちがその気なら、俺も犯罪者らしい方法をとるまでだ)


 泥に塗れ汚れた体は熱く、頭と魂が氷るように冷えていた。

 かがり火の赤い光りが完全に途絶えるまで、勇者は這いって逃げる。

そして暗闇に体が染まる頃、大きく欠伸をして体を伸ばしたその顔はまるで、これから楽しみにしていたピクニックに行く子供のように笑っていたのだ。



(まぁしょうがないよな・・フフッ、おれが、臆病で弱いオレが悪いんだし・・)


 そんなヤツを勇者に選んだヤツ・・見てやがれ、オレの命を狙うなら、そいつもオレの敵だ。


 国王を気取った偽善者めオレを蔑む周りの偽善者共々殺してやる、オレを殺そうとするヤツは全て敵だ伐ち倒し殺すべき魔物と同じ敵。


フフッ、(魔物なら勇者のオレが殺したって、なにも問題ないよな)


さて、最初に死ぬのは誰かな?どいつを殺そうか。

 アイツか?それともアイツにしようか。


勇者は必要な物を手に入れるべく町に戻る、氷り付くような血液の流れは感情すら冷たく氷らせ、おれの足はその場所へ向いて歩ていく。


 勇者が派手に出ていた事で侵入する為の方法は逆に簡単だった、捜索は外に向けられ町に入るための穴はガバガバだった。


(3つ目を使うまでもなかったな)


 本来外敵を防ぐ為の壁も中の者からすれば邪魔になることがある、だから子供や馬鹿が抜け道を作ってしまうのだ。


 その一つ、子供達しか知らない通称(ウサギ穴)

 子供がギリギリ通れる程度の細く低い穴だ。

 鎧を着けた兵士は絶対通る事の出来ない小さい穴が、実はこの町にもいくつか掘られていたのだ。


 革鎧は脱いで畳み麻紐で括る、そして体を捻るように穴に体を刺しこみ出口に置かれた岩をオレはどかす。

 子供達のルールだ、出る時は外の穴を木と小枝で塞ぎ見えない様にして帰る時には穴を岩で塞ぐ、それだけで町の兵士も衛兵も気づかないふりをしてくれていた。


(子供の力なら、穴の中から押しても動かないだろうが・・!)


大人になった勇者なら難しい体勢からでも動かせた。


(はぁ・・こんなに簡単に侵入させるなよ王様、敵が入って来たらどうするんだ)

 例えばオレのような役に立たない勇者とかさ。

 土で隠されたにやけた顔がゆっくりと無表情を作る。


 死ぬか・殺すか・逃げ延びるか・・やってみないと解らない、だが勇者にはもう選択肢は残っていなかった。



・・・・・・・


 それは道具屋のオヤジが町の騒動に扉を閉じ、今日の売り上げを数え終えた後の事だった。

 ゆっくりと重い腰を上げ、金は金庫と隠し場所へ。


 税金対策ではあるが老後の蓄えは多いに越したことは無いからだ。


「さて・・飯にするか。

 きょうは・・ジャガイモのスープだったか?たまには贅沢したいものだが・・」


 道具屋のオヤジが奥の扉を開け、自宅となったダイニングに足を置く。


「・・一体どうなって入るんだ?」

 本来は暖炉の明かりと頼りないランプの明かりが着いてそれなりに明るいダイニングのはずが、薄暗い部屋にはランプは消され暖炉も消えそうに赤い熱を灯しているだけ。


「・・おまえさん」その部屋の隅で妻のか細い声がした。そして、

「・・なにをしているんだ?」その背後の黒い影に目が写る。


「こんな夜更けに悪いな、頼みがあってどうしても聞いてもらわないと駄目な頼みなんだ」


 その声は老眼と暗闇の中でも影の正体を浮き上がらせる、勇者と言われた少年の声だった。


「なんてザマだ、一体どうした」


 妻の首に銅の剣を押し付け、腕を後手に掴んでいる影の正体は勇者だった。

暗闇に潜む獣のような眼光、表情の無い顔に無理矢理付けたような笑い顔。


「ちょっとな、営業時間の延長を頼みに来たんだよ。買いたい商品は[旅人の翼]だ」


 ああそう言う事か、ならあの噂も本当だったのだろう。


「うちの店には[旅人の翼]は置いてないのは知っているだろう?それに・・・」


「なら買ってこい、道具屋仲間なら時間外でも売ってくれるだろ。

無理ならこの女は死ぬ。オレも死ぬが、お前の伴侶も死ぬだけだ」


(ああ、やっぱりな)

 そうなったか、悪い噂・嫌な予想は当たるものだ。

 あの時の集会で笑い話と、笑い飛ばした下らない話が現実になったか・・・


(なんて目をしてやがる・・)


「買ってくる必要は無いな、そっちの引き出しの下だ」


 オレ達商人は戦争が起こった時や、魔物に襲われた時の為に旅人の翼を常に用意している。それは武器屋も酒屋も同じだ、みんな一つや二つ逃走用に旅の翼を隠し持っている。


「いくらだ?」勇者がポケットに手を入れた時妻が逃げだそうと暴れ出す。


「待て!動くな!」私は妻の口を押さえ勇者の腕を掴んだ。


「いいな、セチール。動くな・・」妻の名前をひさしぶりに呼んだ気がする。

ゆっくりを勇者の腕を放し1歩下がった。


「どう言う事だ?」勇者は驚きながらも金を出し、オレは首を振った。


「後・・そっちのたんすの奥に500ほど金がある、それも持っていけ」


・・「おまえさん、どうして・・なんで?」


 暗い部屋で見えないが、妻も不思議な顔をしていることだろうな、もしかして私のことも疑って・・は無いか。


「商人は誰よりも情報に聡く[さとく]無ければならない、どんな職業の人間よりも。

だから大体の事は理解している・・つもりだ」


「なら、なんで金の在処まで言うんだよ?なんのつもりだ」


「・・勇者はたんすや引き出しを開けて中の物を持って行くのだろ?ならそうすれ」ば良い、と言う前に銅の剣が私の足元に突き刺さった。


「冗談も聞けないか、少しは笑えよ・・ああ、すまない。

そいつは大事な武器なんだろ、簡単に手放すんじゃない。

それと、ソレを持ったら私を殴って欲しい。

 無理矢理盗られたようにしなければ、この町では商売出来なくなるからな」


多分私は笑っていたのだろう、驚いた少年と妻の顔が闇の中から浮かぶようだ。


「なんでそこまで、してやる必要があるのおまえさん」

 開放された妻が私の腕を掴んで来た。


「すまないな老後の蓄えだったか、でもまぁ体は動くし、カネは働いて明日から貯めればいいはなしだろ?・・・なぁ、聞いてくれお前」

 抱き寄せた妻がまだ振るえてた。


「勇者は・・お前はこの国の王に追われているんだ、そうだろ?」


「ああそうだ」勇者の声が氷りのように突き刺さる。


「それも、勇者だからだな?」うなずきを確認しないまま私は話しを続けた。


「良いかセチール、この子は勇者は私がまだ・・と言ってもジジイだが若い頃から知っている勇ちゃんなんだよ。

 皆の期待を背負い一所懸命訓練して、魔法なんかも頑張っていつもニコニコしながら、走り回っていた勇ちゃんなんだ」


・・「勇者に選ばれたから、ただそれだけで他の子供とは違う人生を歩まされ、必死になって戦って、それでも足りなくて・・泣いて帰って来た子供なんだ・・」


「うるせぇよ」勇者の声がするが私は止めなかった。

 多分この子と会えるのは最後だから。


「最初の一年は、気の毒だと思ったさ、そして・・いつだったか?

薬草を買いに来たのは?オレは、また勇者が立上がったって嬉しかったさ。

・・そして、毒消し草だ。

 瀕死の勇者を・・この子を見てなんで一人にさせているって思ったよ、なにもできない、しなかったワシも同罪だがな。

 町のヤツがなんて言おうとたった一人で戦っている姿をオレは馬鹿になんか出来るものか!」


「その子が!昔っから隣に住んでいた勇ちゃんが、なんで大人の都合で殺されなきゃならないんだ!

 違うか?セチール?この子は勇ちゃんなんだ、腰を痛めたお前の体を支えて歩いた勇ちゃんだ!」


「子供が独立した今ワシらの孫みたいな子供が困っているのに、年寄りのワシが何もせず、王の命令で差し出すのか?そんなに商人ってのは醜い職業なのか?」


 わかってくれ、そう言うとワシは目をつぶる。

 殴られるのは・痛いのは恐いからな。


「まって・・そう言う事なら勇ちゃん、あんた、ご飯も食べていきなさい。

 ソレとアンタは私を縛っておくれ、口の方も。そうしないとおかしいじゃない」


・・妻は鍋を火にくべたあと、自ら後手になった。


「・・・馬鹿が!」

 少年は勢いよく立ち上がり、引き出しから旅の翼を盗ると大声を上げた。


「下らない抵抗をするなと言っただろ!」


大声で叫び窓を蹴破り、飛び出したのだ。


「クソッ、面倒な抵抗を!クソ商人のくせに!こんな店潰れちまえ!」


 少年が大声で叫ぶと真夜中と言うのに住人が窓を開けた、兵隊達も走って来るのが見える。


「バーカ!ばーか!ジジイが!

 阿呆ーあほー、精々余生を長く生きるんだな!もう二度と顔も見ないがな!」

バイバイ、子供の時にしていたような顔が月明かりに浮かぶ。


 兵士達に囲まれた少年が旅の翼で天に消えた。

 (ああ、元気でな・・勇者)


 引き出しの中にはきっちりと金が入っていた、私を殴る事の出来ない優しい少年は、私の気付かない内に勇者になっていたのだろうそう。




 あ゛あ゛あ゛あ゛・・・なんでだよ、なんで・・なんでだ!

 馬鹿にしてたんじゃ無いのかよ!見下していたんじゃ無いのかよ!

 邪魔だと!不愉快だと!死んでしまえと!思ってたんじゃ無いのかよ!



 涙が出た・訳が解らない、オレはみんなに殺したいほど疎まれていたんじゃないのかよ!

ヴヴヴヴヴヴ・・声を上げる訳にはいかなかった。

あの国から逃げる事は出来たけど、夜の帷はまだ開けてはいない。

魔物がオレの声に反応するかもしれないから。

口を閉じて頭を地面で押さえるように、オレは小さく丸くなって声を殺す。

クソっ、なんだよ!なんなんだよ!なんで優しくするんだよ!


解らない解らない解らない・・・訳がわからない、迷惑そうな顔をしていただろ?

オレの顔も見たくないような顔で薬草を・毒消しを売っていただろ!


「オレは、オレは!

いらない人間じゃないのかよ!」・・・・わからない、


あの王も本当はオレの事を殺そうとはしていないのだろうか・・解らない・・わからないよ・・

 ガサッ、暗闇からオレを囲むような動きが聞こえる。

ガサガサガサと・・五月蠅ぇんだよ!この虫けらが!


大ムカデが無数の脚を動かし、鎌首を上げてアゴ牙を開いていた。

アゴがこいつの武器じゃないのは知っている、こいつはアゴで捕らえた獲物に毒を刺して殺す虫だ。

 だからそのアゴを砕き、首のうしろ間接に銅の剣を突き刺して振り切った。


仲間の瀕死も気にせず次々と虫ケラが集まり・沸き上がり・体に集ってくる。

こっちが訳わからなくて、こんなに苦しんでいるって時に!


[火炎線]!手の平に集めた魔力を力ある言葉で魔法に換える。

群に炎の熱が広がり、脚や触覚を焦してムカデもバッタも動きを止めた。


ハァハァハァ・・「火力は足らねぇようだが、十分通用しているよな?」


動きの鈍くなった虫ケラを殺し尽くすなんて、そう難しい物では無かった。


(とくに・・今は、無茶苦茶にしたい気分なんだ・・)


 殺す・殺す・殺す・殺す!

 [火炎線!]虫もコウモリも、[真空!]野菜も案山子も[炎!]ウサギも、集まってくるヤツは全部殺す、殺し尽くす!


『勇者はレベルが上がった』「うるせぇ!」

 この不愉快な天の声は益々オレの神経を逆撫でしてくる、ガタガタウルセェんだよ!


 頭の中でゴチャゴチャ言う声を、ブチブチと魔物の死体を叩き潰す音で掻き消す。

っぅ・・頭に靄がかかり、ガックンと力が抜けた。

 怒りと混乱で掛かっていた肉体のブーストが切れたのか体が重い。


(クソッ、テンション下げやがって!)頭が重い。

 宿屋に泊まるのはしばらく無理だろう、まだあの国からそう遠くには来ていない。


フラフラの頭と重い身体を引き摺って、魔物がいない・人間も来ない場所を探して林の中に入って行く。

 木陰さえあれば、多少は・・休める・・だろう・・。


 っ!頭がまだ少しキリキリする、それでも立てない程では無いな。

(魔法は・・回復にしか使わない方がよさそうか。

毒は・・毒消しは・・3つか・・)


 今はできる限り城から逃げないと、、、そうは思うがこの辺りの魔物は城下の魔物より少しだけ強い。


(勝てないほどでは無いが・・)

 このままでは、じり貧だ特に毒を使うヤツに会ったら危険。

手配が回っているかもしれないから、この辺りの道具屋が扉を開けてくれるとは思わない方がいいだろう。


 休みながら北を目指しサソリや幽霊を叩いて殺す、魔物が持っていた薬草を噛み、肉を焼いて喰う。殺して焼いて喰って寝て、二晩が過ぎた。

さすがにオレの体の限界が近い。


「ウゼェ!チョロチョロとこのチビが!」

 鎧を着た魔物が魔物に乗って立ち塞がる、殴っても殴っても、

([回復]を使うチビの魔物、・・・回復、回復だと?こいつ・・)

よし!兜を着けた頭を殴り、体を殴り飛ばした。



・・・・「オイ、気が付いたか」


 ようやく起き上がった魔物を見下ろしオレは剣を突き付けた。

?![回復]魔物がすばやく体を回復させると、オレはそれを狙って殴り倒す。


「いいか、よく聞けよ?

 お前が回復する度におれは回復した分のダメージを与える。

何度でも・・・何度でもだ」


[回復]魔物が回復した瞬間、乗り物の魔物に飛び乗った。

逃げるつもりか!

「魔物が!」回り込むまでも無い、背中に剣を叩き付け下の魔物ごと潰す。


ハァハァハァ、「いいか?この状態で、おれが、逃がす訳ないだろ?」


「・・殺せ・・」魔物が兜の中で声を上げた。


「そうか・・・死にたいのか、でもお前は殺さない。

 その下のやつ、お前が起きるまで守っていたスライムを先ず殺す・・その後ジワジワ回復するより少し多めに痛め付けて殺す・・・そうだ、それがいい・そうしよう」


「ぴぎぃ」スライムを狙うと、小動物の悲鳴のような鳴き声がした。


「待て!何故そんな事をする!殺すならオレから殺せ!」


「・・お前は死にたいのだろ?

 なんでオレが死にたがり魔物の言う事を聞いてやらないといけない?

 お前達は人族の敵なんだろ?

 ならされたく無い事をするのが戦術って物だよな」


「・・貴様、、なにが目的だ・・こいつを、相棒と殺さないためには、どうすればいい・・」


「ようやく話を聞く気になったって所だな、なに簡単な事だ。オレに従え、オレの手下として働きオレの言う通りに[回復]を使え」


・・「魔物を、魔王様を裏切れというのか?」


「そんな事は言ってはいない。オレに従え・従って回復を使えと言っている。

どこにいるかもわからん魔王の命令に従って死ぬより、いまはオレに従って生きろと言ったんだ」どうせ今だけだ、オレが自由になったらお前も相棒も自由にさせてやる。その後は逃げるも戦うも自由だ。

「お前は人間か?本当に人間なのか?なにか、人とは異なる物を感じるが」


「人間なら従わず、ここで死ぬのか?魔物ってのは変な奴だな。おれの質問の選択は2つだ。

 ここで苦しんで死ぬか、オレに従って生きるかだ」

それ以外の選択肢なんて与えていない。


逃げようとすれば殺す、魔物相手なら遠慮無く殺せるから楽だよな。

「・・お前は・・オレ達を扱き使い、利用して殺すのか?ならここで・・」


「死にたいのか、なら早く言えよ。

 良し!殺す、スライムの断末魔を聞きながらあの世へ行くための鎮魂歌と思って、苦しみながら死ね!」


「待て!待ってくれ!待って下さい!・・せめて、このスラムの食事と休憩は約束してく・・下さい・・・」


「・・裏切れば殺す。隙を見て逃げたとしても、逃げた辺りの同族を全滅させるつもりで殺し尽くす・・いいな?」

・・スライムの騎士、ペョートルが仲間になった。

本当にヒドイ話だよ。

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