人間不信の勇者、仲魔と共に。

葵卯一

第1話

「お前・・足手まといだよ、そろそろ抜けてくれねぇか?」


 砂漠を抜け、ピラミットを守る蟹に殴られ瀕死になったボクは、戦士に引き摺られて街に戻った時そう言われた。




「魔法もいまいちで剣の腕もオレに劣る、罠も外せない・防御も弱い。

そんなお前を連れて歩くのは・・リスクでしかねぇんだ」



・・・でも最初は皆、力を貸してくれるって・・


「・・ごめんね、弱すぎる仲間を連れて行くのは結局、私達の身にも危険にさらすのよ。回復の魔法も限りがあるのですから」



 確かに、魔法は魔法使いみたいに高レベルの魔法は使えない。

 回復だって貴女のような奇跡は使えない。でも・・でも・・


「王様達の支援だってボクがいなければ・・」




あぁ?「あんな100ゴールドや200ゴールドぽっちで、お前みたいなガキのお守りしろってか?

 こっちは命張ってんだよ!

 上のヤツらがなんて言おうが、現場で痛い目をしているのはオレ達だ!」


  イラつくように襟首を掴み上げ、戦士はボクをにらみ付けた。


「大体な?あの程度の支援なんざ、この辺の魔物を倒してたら一日で貯まるだろ?」


 その程度の価値なんだよ、お前は!


「・・頑張るから、もっと頑張ってレベルを上げて」


強くなる、きっとみんなを守れるような男になる。


「レベルを上げたら、オレより強くなるってのか?

 それともジジイのような魔法を使える様になるってのか?」


 戦士は戦いのエキスパート・魔法使いは魔法に人生を捧げたような使い手。

そんな人達に並べるはずもないボクは、黙って下を向くしかなかった。


「いいかげん・うっとうしいんだよ!

 神に選ばれただあ?

 神様だって間違える事があるって証拠だろ、お前なんていなくてもオレ達だけも魔王討伐くらいやってやるさ!」


「だ・か・ら・失せろ!」オレ達の前からとっとと消えろ!


 ガツッ!

 瀕死のボクの腹を蹴り飛ばし、肺の中の空気が逃げだして息が出来なかった。


「うっ・・うぇぇぇぇ・・」


 口の中に酸っぱい体液が上がり、鼻からも液体がこぼれ出してきた。


 ただでさえカニにやられた体が、ズキズキと痛む。


「せめて回・・復・・し・・て・・」


「回復して下さい、でしょ?」


 神官は哀れな動物を見るように見下ろし、聖女のような笑顔で微笑んでいた。


「回復して・・下さい・・」


「そいつは、もうパーティじゃねぇんだ。回復に限度があるなら勝手に使うんじゃねぇ!」

 戦士がボクの腹を踏み、足裏で捻ってから宿屋から放り出した。



「ごめんねぇ、戦士が怒ると私を守ってくれる人がいなくなるから」


 手の平をヒラヒラ振って、神官は扉を閉めた。


 地面に転がされ込み上げてくる胃液を吐き出し、目から流れた悔しさの味は多分一生忘れない。


 その日なんとか帰ったボクはドロだらけのままベットにもぐり込み、誰にも聞かれないように泣いた。

 悔しさと無力感と[なんでボクが勇者なんだ!]って悲しくて泣いた。


・・・・・・・


「勇ちゃん!いいかげん起きて来て、話をしましょう・・ね・ね・?」


「うるせぇババア!金なら渡してんだろ!

 昨日だってスライムとコウモリとバッタぶっ殺してその金をやったろうが!」


 あの夜からもう5年は経った。

 オレは仲間に捨てられた勇者として馬鹿にされ、町を歩くとガキまでオレを指さして笑うような存在になっていた。


 町中のヤツらに嘲笑され、王のヤツも会うことを拒否するようになった。


 そんなオレが町中のヤツらに馬鹿にされている間にも、戦士共はやれ魔王の手先を追い払っただのどこかの塔を攻略しただのと聞こえてきていた。


 反面おれは町のヤツらに顔を見られないよう、夜中に町の外で弱い魔物を倒して鬱憤[うっぷん]を晴らす毎日だ。

「クソッ!クソッ!クソがッ!」


 母親気取りのババァもいいかげんオレに『出て行け』とは言わないが空気で解る。 


夜中にこっそりと飛び出し、怪我をすれば帰る。

 その繰り返しを5年・・もう5年続けているんだ。


 扉の外に置かれた飯をガッツいて放り出す。

「クソッ!むしゃくしゃする!」


 外ではオレを笑っているような声が常に聞こえ、オレはまた枕に頭を突っ込んだ。


(もう、ほっといてくれ!

 オレの事なんか忘れてくれよ!あいつらの話なんか聞かせないでくれ!)


 歯ぎしりと手の震え・恐れと悔しさがあの時の戦士の顔と共に浮かび上がり、涙がかってに流れ出す。

 もう5年も経っているのに・・


 さらに一年経った頃、オレは道具屋の扉を叩いていた。


「・・あんたか、いいかげん昼に来てくれねぇかな」


 夕食時間だったらしく、道具屋のオヤジは不満そうに口をもごもごさせてオレを見上げた。


毒のスライムに襲われ、どうしようも無くなったオレが真夜中に扉を叩いた時からの付き合いだ。


「じゃあ明日からは、早朝か真夜中だな。寝ていても叩き起こす事になるけど、どうする?」


「・・チッ、まぁ客は客だ。今日は何が欲しい、薬草か毒消しか?」


「薬草と毒消しだ、それぞれ3つずつ」

 おれは金を突きだし、道具屋は手の平で受け取って数え出す。


「・・松明は、いらねぇのか・・」


 今度はこっちが舌打ちする番だった。

 「うるせぇよ」それだけ言うと、背中を向ける。

 誰が好き好んで向こうに行くかよ、向こうにはヤツらがいる。

 偉そうに戦果を上げてにやけているヤツらが。




「オラよ、受け取れ」袋の中を確かめず、オヤジの出したソレを受け取り、


『じゃあな』がいつもの流れだった。


「これは・・一人ごとなんだが、聞け。

 戦士・・元お前さんのパーティの消息が途絶えたらしい。

 道具屋連中のうわさなんだが、魔王の側近かなんかにやられたって噂だ。

お前さん・・・気を付けろよ」


「あいつら死んだのか!?」

 ざまあみろ!力も無いくせに、魔王なんかと戦うからだ!

 これであいつらも弱者の気持ちってヤツが解るだろうよ!


 ?、それがオレになんの危険があるって話になるんだ?

 そう言う前に道具屋の木戸は閉り、なんだかモヤモヤする。


(今日はいいか、あのクソどもがくたばった記念だ。

 魔物共に感謝して今日は魔物を殺すのは止めてやる!)

 ・・ああ今日は、良い夢が見られそうだ。



(なにかおかしい・・)静か過ぎる気配と朝日で目が覚めた。


「・・ババァの足音も、近所のガキの声も聞こえねぇ」

 久し振りに熟睡したお陰か、感覚が澄んで・・これはまるで・・


 [敵襲]?!

 飛び起きたオレは木窓の隙間から外を覗く。

(なんだ?兵隊、衛兵か)

 鉄槍を構えた鎧姿の男達が数人、二人は入り口に・二人は裏口に。


(一番遠い所にいるヤツは・・多分現場指揮官か)


 合計で5人、兵隊共の顔はまるで実戦のような真剣な表情。


ドン!ドン!

「早朝に失礼する!勇者殿が在宅なのは存知上げている。

国王様がお呼びだ!出頭願う!」


背筋に乗っかる重い石のような感覚。

暗闇で魔物に襲われるような、敵意だけが体に覆い被さるような嫌な気配。


オレは一階のババァの部屋に飛び込み、そのまま窓を蹴破って飛び出した!


兵隊共はオレの部屋を知っていたのか、部屋の真下で待ち構えていた。

だから1階にあるババアの部屋が意識の外だったんだ。


「お!おま!」

 一人が声を上げようとした瞬間、銅の剣で顔面をぶん殴る。


「な・・に!」

 二人目の男の槍を掴み引く、そのついでにオレの脚は無防備な股間を蹴り上げた。


「おれは勇者だ、お前らの些事になんかかまってられるか!忙しいんだよ!」


 オレは大声で叫び、隊長らしい男をにらみ着けて走り逃げ出す。


 背後で警笛のような高い音が響く、兵隊が集まって来るのも時間の内だろう。


(ひとまず町を抜け、身を隠すしかない)

・・・一体何があったんだ。


 ソレを知る為には夜を待つしか無いだろう。


 

 数々の蝋燭[ろうそく]に照らされた男がいた。

 豪華なローブと金の王冠、その顔は城の壁に巨大な肖像が描かれ、国民の誰もが知る男、国王その人だった。

王は憤り[いきどおり]、息を整えるように琥珀の酒を流し込んで顔を歪め、グラスを机に叩き付けた。


「クソッ!あのガキ、まだ見付からんのか!」


 国民には見せた事の無い怒りで歪んだ顔、高価で分厚いローブと指を飾る黄金の指環が光る。


「ハッ!なにぶん兵に詳しい事情を話す事も出来ず、信用出来る少数の者に行わせるしか・・」


 老いた男が王の怒りに震え、その表情を言葉を選びながら見上げていた。


「ガキの・・・勇者のくせに逃げ足だけは一人前か!

こんな事ならもっと早くに捕らえておくべきだった!」


「しかし・・そうなると、万が一にも彼等の耳に入るとその・・」


「助けに来るのか?

 1度追放したガキを?馬鹿をいうな!

 ヤツらもヤツらだ、使えないとは言え勇者を連れていれば全滅などしなかったというのに!」


ふぅ・・

「悪かったな。全ては事情を話さなかったワシにも落ち度がある、許せ」


 王は疲れたように椅子に座り肩を落とす。


 この男も6年前には温和な顔をたたえ、たとえ魔族や魔物が国内で暴れようと国民の上に立ち、兵を動かし・彼等を救ってきた。

 間違い無く正しく善の男であった。


「最初は喜び、次ぎに驚き、そして苦悩・落胆・・神と精霊はどれだけ私を苦しめればいいのだ」


 魔王が世界に宣戦布告し、世界中で戦火が上がり始めた頃、彼の治める国に神託が下りた。


『勇者の誕生』それは誇らしく、神に選ばれたような心地だった。


 勇者が1人前になるまで守り通す、それは王の使命であり誇りとも思えた。


 神託を受けた子供達を城下で守り、彼らを助け導く為の戦士達の育成にも力を入れた。

そう、全ては勇者の為に。


 そして、その少年が王の前に立ったのは、少年が15の時だ。線の細く怯えたような目の子供。

(こんな、子供が・・)

自分の娘より幼く、小さい子供。だが神に仕える巫女はその子供が勇者だと言った。なら、この子は私が支えてやらないと、


と・・その時は思った。


 彼が旅立つ時、もっと良い武器を・もっと丈夫な武具を与えれば良かったと思った。


しかし、それも神託と神官の持つ伝承の書がさせなかった。


 結果、子供は戦士達に無用とされ、泣き・怯えて帰って来たと聞いた。


(あの時、王の力で戦士達の頭を殴り付ける事も出来たのだ)

 だがそうはしなかった。

 少年が自ら鍛え、彼等に追い付く事を願ったからだ。


 そして1年が経ち、町から・他国から・勇者の事を聞かれる度に、冷たい汗をかいた。

 そして2年目になると、[臆病な勇者]・[臆病者の国]と揶揄[やゆ]されるようになっていた。


 王が無脳なら王を蔑めばいい、だが勇者はどうだ。

 なにも知らない他国の人間は、引き籠もっている子供を・臆病な少年勇者を国の代表と・そんな勇者しか現れない臆病者の国、そう見るのだろう。


 戦士の質・兵の質が、その国の内情を現わすと言う。

 兵に規律を求めるのは、なにも集団戦闘の為だけではない。

 敵も見ているのだ、やる気の無い兵の姿を。


「それも、耐えた。我が国民は、すべて我が子だ・・」そう先王に教えられ、

自身もそう考えていたからだ。


 それから5年、勇者はひとけの無い夜中に町を出て、近くの魔物を狩っていると聞く。


「そんな物は、兵士にやらせればいい!勇者の使命じゃ無いだろ!」


 他国から見下げられ、時折聞く戦士達の活躍を他国の使者から聞く。

 戦士達はしょせん傭兵、国で雇った者だ。

 神官も教会から派遣された者。我が国の勇者とは違う。


(魔王の手下を追い払った話を何故、他国の人間が笑顔で話しているんだ?)


 その怒りは当然、元勇者に向かった。

『なぜお前は、まだここにいるんだ?』と。

 その時、早馬の一報が城に届いた。

 [戦士・神官・魔法使い、消息不明]と。


「勇者の仲間ならたとえ深い傷を負っても死ぬ事は無い、そしてそれが魔物に負わされた傷なら死んでも生き返る事ができる。

 それが神と精霊の加護だったはず。

 死体になっても司祭の祈りで魂は蘇生され傷は癒える、そのはずだ!」


「ハイ、それゆえの勇者です。

 たとえ数回・数十回殺されても生き返り魔王を殺す。

 何十も死の経験を重ね、魔王を殺すまで止らぬ[放たれた矢]

 それが勇者であります」 

 そう古い老神官は言った。


「なら、ヤツらは何故死んだのだ。勇者を追放したからか、ならなぜアイツがここでこの城下町でのうのうと生きている!!」

 おかしいだろ!仲間が死んで自分は部屋で高いびきをしている男が勇者などと。


「・・戦士達は、死んでいないのでは?」

 集められた重鎮の一人、老将軍が口にする。

 この男が選んだ傭兵だ、その腕も資質もこの将軍が保証していた。

 だから戦士の死を否定するのも解る、だが。


「死んでない・・と言うのも問題なのですよ、将軍」

 そうだ、この男はよく解っている。


「何故だ?」深く重い老将軍の声が周囲を黙らせた。


「構わん、話せ」

 王が声をかける事で、男がようやく口を開いた。


では「・・もし戦士達が生きていたなら、なぜ報告が上がらないのでしょう。

 なぜ生存を知らせないのでしょうか、たとえ深い傷を負って立てない・動けな状態だとしてもです」


「なにが言いたいのだ」


「つまり、『戦士達も逃げた』『勇者のように』と他国の者も、当然世界中の人間も

思うでしょうね生きていた、と言うのであれば」


将軍の言葉にそのまま男が正しく、世界中の人間がどう思うかを説明した。


(ああ・・そうだ。

 これで我が国の人間は、敵が強いと・魔物が恐いと逃げ出す人間ばかりだと蔑まれるのだ・・)たとえ我が国で雇っただけの人間だとしても。


 死んでいたなら盛大な国葬をして弔う事も、教会の大司教を呼んで国民を団結させ

魔王に立ち向かう姿勢も世界に知らしめられる。

 だが生きているか、死んでいるか解らない以上その手段も使えない。


「生きていると考えた場合、捜索しないと言うのはどうなんだ?」

 王の考えは二つだった、このまま事態の収拾を見守るかそれとも・・


「我らは、戦士達が生きて今も戦っていると信じている。

 そう周辺国に見せる必要があります。周辺がどのように考えるかは難しい所ではありますが」


 国家も人間も、しょせんは他者がどのように見るかで評価される。

 無脳と判断された場合も同じだ。

 人間であるなら無視され、危機・貧困にあったとしてもいない者として扱われる。

 

 では国家なら、いま魔物達と戦争状態である今の世界なら、今はなぜか大人しくしているが、たとえば魔族が攻め込まれたとして救援も援軍も期待できるだろうか。

 

 戦争になれば弱者は切り捨てられるだろう、戦わない・戦えないは他国から見れば同義だ。魔物と戦わない国を支援するより自国を強化する方を普通の王なら選ぶ、当然自分もそうするだろう。


「では彼等が生きている、が戦えない状態とした場合わしの出来る事は・・」


「彼等の捜索及び救出でしょうか、現実的ではありませんが」


 そう現実的ではないのだ、魔王の側近がどれ程の強さかは不明だが、少なくともあの精鋭達がかなわないレベルの敵がいる。

 なおかつ魔物の領地であり魔王の支配地、全ての魔物を敵にして救い出せる可能性は低い。

 二つの理由で兵を進める事は出来ないのだ。


「ではどうすればいい、彼等の生存・死亡を判断でき国の威信を回復出来る方法は」

 どうすればいいと言うのだ。


全員が黙り沈黙が続くなか、だれも・何も案を出せない時間が過ぎ、重い空気をさらに重くするように老神官が口を開いた。


「進言をお許し下さい、殿下」

 常に難しい顔をしている老人がさらに難しい顔を増して暗い表情を出していた。


「ああ忌憚[きたん]無く聞かせてくれ、ある意味国の存亡とも言える状況なのだ」


「勇者の仲間であれば死ぬ事・全滅する事で、教会・王前で復活の奇跡が起こります。そのことは王様はご存じでしょうか」


「ああ、英霊・精霊・神の祝福というヤツだな」

 勇者は死ぬ事すら許され無い全滅すれは・・・!まさか!?

「まさか!わしに勇者を殺せとでも言い出すつもりか」


「だがあの少年を一度でも殺した場合、私への敵意で戦わないと言い出すだろう。

少なくとも自分を殺すような人間を守る為に、魔物と戦うなどありえん」


「はい勇者は魔王を倒すまで死ぬ事は無く、病や事故でも無い限り他の場所の勇者が誕生、選別されることはありません。が・・」


が?「なんだ、なにかあるのか。教会しか知らないなにか秘密が」


 神殿の歴史は古い。

 王国が誕生するはるか前、神と精霊と人がこの世界で契約を結んだ時から存在したと言われている。

 当然王家が知らない情報・歴史・技術・を秘匿しているのだろう。


「長い歴史の中には勇者に相応しく無い者が、神託を受ける場合もありました」


「まさにそんな馬鹿な、って話だな」

 だからこんな苦境に経たされているのだ。


「神の御心は人には理解を超える場合がありますので」これも人類への試練かと。

と老神官は言う。

「話を続けてくれ、なにが言いたい」


「はい、勇者に相応しく無い者は往々にして災いを招きます、その時・・・」

「続けろ」だまり込んだ老神官に王は命じた。


「・・・陛下以外の方々には・・・」


「席を外せと?それ程か・・・解った、だが将軍一人は傍に置く。いいな?」

 深く頭を下げた神官を横目に、「お前達、しばらく下がれ・・将軍は残ってもらうぞ」

 古い付い合いの老将軍を残し、老神官は他の者が退出する姿を確認する。


「では、続きを述べよ」王の言葉で神官が重い口を開く。


「災いを運ぶ勇者をこちらで交代させ、次ぎの神託を待つ。

そんな方法があると言いましたら、陛下は・・どういたしますか」


 明らかに普通では無い声色と雰囲気、こちらで交代させるだと?

 死んでも蘇るヤツをこちらで交代させ、神託を待つ・・?・・・!?


「貴様!まさか!」


「陛下、お静かに・・誰かに聞かれますので・・」


「勇者を・・捕らえて殺す、それ以上の事をしろというのか・・」

 拷問・薬物・洗脳・政治の裏側・・さらにその闇にある技術を使えと。


「勇者自身が神と精霊と勇者を否定し、神につば吐き・精霊を呪う。

殺し・苦しめ・絶望させ・狂わせ・発狂させ、自身を否定させ、殺す。

 そうすれば神は勇者を復活させず、次ぎの勇者を選択した・・と記録があります・・」


「それしかないのであれば、その罪は私が負いましょう。

 陛下、陛下は何も聞かなかった、知らなかったと・・」

 老将軍が顔を下げ、王の顔を見上げる事もなく声だけが響く。


「お前の忠義ありがたく思う、だがこれは王の役目だ。

 私の役目なのだ・・・」

 王の目尻に熱い物が浮き上がる。

 罪は・王の罪は王のモノだ。


 あの子供・・元勇者を殺し、戦士達がここで復活すれば良し。

そうでなければ苦しめ・壊し・肉体も精神も壊し尽くし磨り潰すしかないのだろう。


 勇者が交代すれば、次ぎの子供には今度こそ全力でサポートする事を誓おう。

王は苦しみながらも意思を固め、涙を流した。



・・・・・・

「まだか!まだ見付からんのか!

 殺しても構わん!どうせここに復活するのだ!」

そうここで復活し、戦士達がいなければ・・元勇者はもう外の空気を吸う事は無い。

城の地下でもがき苦しみ、私と世界と神と精霊を憎み私に殺されるのだ。

王であるこの私に。


「地下道を塞がねば、逃げられる可能生が有ります。

あとは旅人の翼を使う事で、可能生は低くありますが戦士達と拠った町に行ける可能生があります。ゆえに兵を動かし検問のご命令を・・」


老将軍の言葉に、王は無言でうなずく。


その柱の後で気配を殺し、吐き気を押さえる為に拳を噛んでいる男の嗚咽に気付かずに。

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