第9話

「本来ボクじゃ使えない魔法でも、キミ達やあのジジイのお陰でレベルアップしたボクなら使えるんだ。

こんな所でも見つければ有るもんだね、生け贄ってヤツは」クククッ




・・・発明に悩み・苦しみ、持論を否定され続けた男の魂。

その懊悩[おうのう]を霧に閉じ込め、魔鉱石を与え・希望を与えから絶望させる。


 男が幾度ループし続けたのか。

 そのたびに記憶を失い、男は何度も死んで日記を残し。

 目覚めてはプロトを作り出すために・・

(もしくは、作った息子を、もう一度生み出すため・・か)


 失敗するループも成功するループも繰り返し・繰り返し・何度も何度も・・・


この小さな悪魔のレベルアップのために、絶望と希望を繰り返していたのか。


 違和感はあっただろう、それでもプロトと出会うために違和感を無視して繰り返す、そんな男の希望を・・魂を踏み躙っていたのか。


「怒った?でもそんなのおかど違いだよ、君達人間だってレベルアップのために魔物を殺すだろ?

 同じだよ、悪魔は苦しみや絶望・悲しみも栄養に出来るってだけ、

なにが違うっていうんだい?」


「そうだな」感情の無い言葉が口からこぼれる、まぁどうでもいいか。


「ピョートル、今からアイツを殺す。手を借りるからな」


「・・はい・・」


 機械の様に、感情も湧かない。ただ殺す手順だけが頭を駆け巡る。


「いいねぇ、その殺意!

 キミを核にして、何度も何度も届かない希望を見せて苦しめるのには丁度いい殺意だよ!精々頑張って抵抗してよ?」


 吹雪・目を塞ぎ音を掻き消す、冷たく強い息が勇者を襲う。


オレはピョートルに鱗の盾を渡し、仲間を盾にした。


「ほら、次ぎは[大火炎線]だよ!」

 吹雪と火炎を繰り返し、オレ達が守りを固めている姿に飽きたのか、それとも焦れたのか[爆裂]を放った。


 [爆破]の中級魔法[爆裂]その威力は二人を吹き飛ばし、前衛のピョートルの意識を奪う。


「[回復]をしながら防御するピョートルを一撃で吹き飛ばす・・か凄いな」


(あの魔法使いのジジイも確か使ってたな、自分がくらう方になるとこんなに痛い魔法だったのか)


「爆裂に耐えるなんてね、よっぽど上手く盾にしたのかな?

でも、もうその盾も倒れたよ?

次ぎはどうするんだい?」


[[[氷結]]]手の平に収まるほどの氷りが宙に浮き、ゆっくりと小さなサタンの方に動き出す。


ぷっ、クククククッッ。。アハハアハハ!!

「それがキミの切り札かい?そんな遅いただの[氷結]が?

アハアアハ・・笑える!笑わせてくれるね、吹雪を吐き出すこの僕に

この後に及んで初級の[氷結]だって?

しかも魔力も限界かい?そんなに遅くて、ボクに当たると思ってるのかい?」


 頭が痛い、耳障りな声が頭に響く。

も う限界が近い、早く・次ぎの行動に移らないと・・手足が冷たい、体力が・・


 体の感覚を置き去りに、意思で肉体を操るように走らせオレは銅の剣を振る。


「おっと!そんなの当らないよ!あははは」


 簡単にかわす小さな悪魔の動きを読んで、その尻尾を掴む。


(最初っから狙いはお前自身だ)

今のオレは体力も魔力も限界で本当にフラフラだ。

そんなオレを見ているお前は、どうせ小馬鹿にするようにギリギリで躱[かわす]すだろうからな。


(弱った相手をからかうのが好きなんだろ?お前は)


 そしてその小さな体、掴めば簡単に引っ張れる。


「そして、引っ張れたら・投げ飛ばせる!」


 投げる先は、当然[氷結]が飛んでいる場所だ。


「だから!馬鹿じゃ無いの?って言ってるんだよ。

こんな氷結でボクがなんとかなるって本当に思って・・!る!!の!?」


 バチバチと弾けるように[氷結]がリトルサタンを蝕み、その左半身を氷らせた。


「馬鹿な!ボクには氷結と寒さに抵抗があるのに!何をした!お前は何をした!」


 そんな事教える訳が無い、教えてやる義理も無い。

ただ凍結した今のお前、

「動きが止っているぞ?」


「まさか?真逆真逆まさかまさか!そんな!」


 拳に込めたのはプロトの時と同じ[火炎線]、動く的には自信が無い技だが、


「止っているヤツなら」


「壊せる!」


バスッ!

 炎の衝撃が貫通し、悪魔の体に穴が開く。

 と同時に開いた穴を掴んで地面に引き倒し、まだ拳に灯った残り火でその顔面が焼け崩れるまで殴り続けた。


 ハァハァハァ・・拳が痛ぇ・・


そうだよ、動いているヤツにはこの技は使えないんだよ、今のおれは。


「堅すぎるだろ・・プロト・・ガウスの爺さんも・・堅く作りすぎだ・・クソ・・手が痛ぇ・・」


 あの瞬間、プロトはオレを確認して動きを止めた、「U」聞こえた声が耳に響く。


おれはそれを知っていながら、それを利用して・・プロトを殺した・・


「プロトに魂があるなら、おれは・・爺さんの子供を殺した事になるな・・ごめんよ」

 手が痛すぎて、涙が出る。


 霧が晴れ、森に空が見える頃『レベルが上がった』といつもの呪いが聞こえる。


゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・


 傷む拳を地面に打ち付けても、プロトを殺した時のような痛みは与えてくれない。


何度も・何度も・何度も・・


「勇さん!勇さん!駄目です!それ以上は駄目です!」


地面を打つ拳を後から掴まれ、[回復]の光りが拳を包む。


「止めろ・・止めてくれ、この拳の痛みだけは。[回復]させないくれ」


 おれは拳の痛みを守るように抱き寄せ、拳を握る。


「・・いいんだ、もうしない。だから[回復]はもういい自然に直したいんだ」


 痛みが残る間は絶対忘れないだろう。


 あの偏屈な博士と、あのプロトの作る不味いスープの味は。

 最後にあと一周くらいはしても良かったかな、そう思うのはオレのエゴなのだろう。


もう博士の声を聞く事も無いと思うと、ああなんだろうか、


これは・・寂しさか。


 魔力の限界を超えたのに倒れ無いのは『レベルが上がった』からだろう、魔力切れで起こる虚無感・頭痛も無くなっていた。


「勇さん?」


「ああ、もう大丈夫だ。それより・・」


 霧が晴れた事に気が付いたリリパットやノッカー達が、木の向こうから遠巻きにして見ていた。


「悪魔を倒したのか・人間?・・傷薬は使わないか?」


 ポケットに入れていた傷薬に気が付く、


(・・・ああうん、確かにコレはひどいな)


拳が・手の甲が赤く黒く染まり、状態を自覚した途端に激痛が上がってきた。


「水は無いか?」


おれが手を見せると一人のリリパットが革袋を差し出した。


「こ、これを!使って・・くだ・・さい」


 怯えるように袋を持ち上げたので、

「手がこれなもんで、かけてくれないか?洗いたいんだ」と。


 熱い拳に水が冷たい、うっ血して指も脱臼もしているような感じで、手の甲の皮膚もめくれて痛い。


「ああ、もういいよ。ありがとう」


 傷薬を塗り包帯で拳を固めるてみた、まだジンジンと痛いが(これでいい)と思ってしまう。


「この先に悪魔の家があるんだよな?」


「勇さん?」ピョートルの不思議そうな声と、他の住人の驚く表情。


「少し気になるってだけだ、住み着きゃしないよ」


 そうだよな。

 お前たちからすれば、せっかく悪魔を倒したらそれより強い人間が住み着いたら嫌だろう。


解るよ。


 カンカン!カンカン!


 金属を打つ音に顔を向けると、ノッカーがプロトの体を叩いている。


・・・確かにプロトは魔物が近づくと、殺してスープにする奴だけどさ。


「その死骸は、倒したヤツの物だろ?」


 その機械、プロトの死体蹴りを見たままにするには、オレは知りすぎている。


(くそ・・重い・・な)プロトの体を背負い、悪魔の家・・博士の家まで歩く。


 途中ピョートルとその仲間達も手伝い、みんなでワッショイ・ワッショイとかけ声がかかる。彼等にも死者を弔う習慣があるのかも知れない。


「敗者といえど・我らの敵であり、家族を殺した相手といえど・・・です」


 魔物の騎士たちは、兜の奥の表情は解らない、が、

敗者を・仇の死体を貶める行為は自分達の殺された家族をないがしろにする行為、そう言う気持ちなのだろうか。


 朽ち果てた、家というには柱と僅かな壁しかない草で覆われた場所。

その中にただ一つ、毎日歩き続けたように残る道が続く。


(こっちか)


一つはかまどのある台所に続き、もう一つの場所は知っている。


・・・そこには体の骨もなく、ただ一つの骸骨が置かれていた。


 周囲の草は刈り取り・または抜かれ、墓標のように石の上に置かれた骸骨。


「よお、久し振りだな・・博士、相変わらず不味いスープを飲んでいるかい?」


・・骸骨はなにも答えない。


 日記の置かれた引き出しも無く、太陽の光を浴びた骸骨は

『これが、慣れたら癖になるもんじゃよ』と笑っているようだった。


 骸骨の横にプロトを寝かせた・・


(一宿一飯・・って事になるから・・手を合わせるぐらいは、な)

 しばらくの間手を合わせて立上がる、気が付けばオレの横や後でも手を合わせていた。

「敵の死体に手を合わせるのか?」


「・・恩人が手を合わせて弔う相手であるなら、敬意を払うべきではないでしょうか」


・・・そうかもな。


 疲労が限界に近い、頭がくらくらする。


「すまんピョートル、少し休む」


 廃屋に残った一本の柱を背に座り、目を閉じる。


(一応、悪魔は倒したんだ・・夜までは約束通り休ませて・・もらう・・ぞ・・)


身も心も疲れ切った男が、完全に眠りに落ちた頃。

森の中に小さな焚火の明かりが灯り、小さな魔物たちがわすかに取れた木の実・キノコ、獣の肉を出し合って久しぶりの宴を始めていた。


彼等の住む森に発生した徐々に広がってくる白い霧。

入り込めば機械の魔物に襲われ、自分達が逃げ出せる場所は人間住処にどんどんに近づきつつ有った。


 自分達は弱い、少し強い人間が現れただけで簡単にやられてしまうほどの小さい物だ。だから集まって生きるしかない自分達。


 その住処も霧に奪われたなら、知らない土地に移動するか、それとも戦って自分達の住処を奪い取るしか選択肢はなかった。


 たとえその選択のどちらかを選んだとしても、半数以上が死ぬ・・全滅もあり得ると解っていても。


 そんな時に現れた同胞と怖い人間・・じゃないかもしれない男、その男は狂暴な目つきと乱暴な声で自分達を殺すかも知れない恐い人間?だ。

 

 人間は眉間にしわを作り、霧の中に入って行った。

 そして機械を倒し霧を晴らした。

 廃墟とも言えない場所に機械のお墓を作り、今は眠っている。


「・・今なら逃げらえるぞ」

 彼と同じ種族の戦士である私は、余所の土地で捉えられ・捕まった戦士ピョートルに尋ねた。


 倒され・脅され・無理矢理従わされている戦士は、いま我らと共に水で薄めた薄い果実酒を飲み、焚火を見ながら力を抜いているのだ。


「どうせ人間には我らの区別などつかない。皆で逃げ出し、しばらく立てば忘れてしまうだろう?」

 多少男は暴れるかも知れない、森を荒らし魔物を狩るかもしれない。

 それでも同胞が奴隷のように扱われ、盾として・道具として死ぬ姿は見たくなかったのだ。

 森を開放した恩人といえど仲間を道具として使うなら、、、逃げ出した方がマシだ。


「大丈夫ですよ、、、あの人はあんな怖い事を言う人ですが多分、大丈夫な人なんです」

 ピョートルが今逃げ出したとしても、多分追っては来ない。


 『ああそうか・・』程度で許してしまうだろう。

 近くで見ていたピョートルにはそう思えた。


 酷く悲しい顔をされるだろう、あの機械を殺した時に一瞬見せた悲しい顔をして

『そうか』と言って、そんな顔で旅を続けるだろう。


 それに自分は彼に酷く心配させた記憶がある、死かけた自分に[回復]してくれた記憶が。


 それほど悪い人ではないんじゃないか、そう思ったり。

 実は悪い人なんじゃないかと思ったり。良くわからない人だと思う。


「ですからしばらく着いて行こうと思うんです、逃げるならちゃんとお願いして逃げますから。そうしたらあの人は怒らないと思うんですよ」


「・・そうか」

 確かに、あの人間を気に入ってるノッカーやリリパットもいる。

自分には解らないが良い所があるのかも知れない。


「じゃ、いじめられたりひどい目にあったらちゃんと逃げるんだぞ」

 オレ達は弱い、魔王様が存在を忘れてしまうほど小さい存在だ。

 だから仲間同士守り合い、助け合う必要があるんだ。

「いつでも逃げて来いよ」もう一度念押しするようにオレは言う。


「その時は土産話を沢山持ってきますから」ピョートルと言う戦士は少し笑ったのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 薄く意識が戻る頃、まぶたの隙間から見える暗闇で夜が来ていたのだと感じる。


(辺りに動く物の音は・・しないな)


・・逃げたか、それとも仲間の本に帰ったか・・まぁいいか。


 背中を伸ばすとバキバキと音がする。

 魔物の森でこんなに深く寝るなんてな、油断し過ぎだ。。


?・・足元に置かれた葉、その上に木の実と茸?


(礼のつもりか・・)

 その時は、毒があるなんて事は思っても見なかった。空腹と途切れた緊張の中で手を伸ばし、木の実をかじり、茸を食う。


(あのスープよりはマシだが、こっちは人間だぜ?生の茸とか・・まあいいか)


 コリコリと芳ばしい木の実とジューシーを超えた生の茸。

 木の実は食える、茸は今度からは火を通そうと思った。


 『死者は立ち止まり、生者は立上がる』確かそんな言葉を聞いた事がある。

(なんだっけか・・)良く憶えていない、何かの戯曲かそれとも戦士の戯言か。


 まあいいか。

「じゃあおれは行くよ、ゲンキでな・・てのはおかしいと思うが」


 暗闇の中、プロトの胸から赤い光りがもれていた。

昼間は解らなかったが、暗闇の中でほんの少し、ロウソクの火より小さく弱い光。


(?鉱石は砕いたはず)

 もし砕けていなければ、また起き上がりこの森のヤツらを殺すよな。。。

 光りに手を伸ばし、鉱石をしまってあった場所のふたを開けた。


 1/3ほどが砕けた赤い鉱石。

 それはか弱く・脈拍つように光りを明滅させ、小さく熱も放つようだった。


(・・すまないな)

お前にこれ以上の殺しをさせるわけにはいかないんだ。

そしてその体も破壊したくない。オレはそっと手を伸ばし鉱石を取り去った。


 手の中に徐々に熱が溶けるような鉱石、おれはそれをふところにいれ、完全に停止したプロトの胸の蓋を閉じた。


 さて、今度は男と漢の約束だったな。「行くか」


「勇さん!探しましたよ!」


・・「ああ、すまない。そっちの状態はどうだ?傷とかは?」


 逃げたと思ったとか、オレは無粋だったな。これからも苦労をかける。


「へ?・・傷も疲れもありません!いつでも戦えます!な?」「ぴきゃ!」


 なるほどスライムもやる気か、よし、まずは王冠を返す・・前に体を洗うか。


ボロボロだからな、オレ達は。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る