第10話
洗濯もしていない・風呂も入っていないから服はボロボロで体は臭い。
こんなんじゃ城下に入る前にとっく捕まってしまう。
なので近くの川で洗濯と水浴びする事に決める。
旅の必需品・灰でこすっただけの水洗いだがしないよりまし。
水で濡らし灰を付け・叩きいて擦って水をかけて叩き擦る。
後は水でしつこく濯いで灰を落として絞る、、、下着も洗うか。
素っ裸になって水をかぶると、水が茶色に変色しているような気がする。
下着もごしごし、、、どこかで予備を手に入れないとな。
「勇さん、こっちの服は火に当てていたらいいんですよね?」
「ああ、でも直火にして焦げないようにしてくれよ」
体が冷えるから、洗濯してからの本格的な水浴、火照った体が冷えて気持ちいい。
(・・それにしても・・水を浴びる度に体から脂が湧き出すような体の汚れだな・・カン田のやつらも、体を洗っている感じはしなかったけどなぁ)
ヤツらのアジトには、秘密の温泉でも湧いているのかも知れない。
こすっても・こすっても、欠けぬ夜空の月・・だれが言った言葉だっただろか。
おれの体はこする度に汚れが湧き出してくる、嫌な話だ。
大丈夫か?ってくらいでようやく[気分的に]マシになった程度、それが頭から足裏まで全身だ。
ゴリゴリと身体をこすり、ザバザバと水をかぶる。
服が乾燥する寸前まで体をこすり続けようやく頭がまともになった[気分的に]
・・・「勇さん・・恥ずかしとかないんですか?」
「一応聞くが、ピョートルは男だよな?」声を名前からして男の感じだが、違うのか?
「男ですが・・素っ裸で人前・・魔物の前に出るというのは・・どうなんです?」
「モラルってのは、守れる状態の時には守るべきだ。
が守れない時、たとえば極限状態の時には守る必要は無いんじゃないか?
怪我人・病人が糞尿を洩らした所で動けないんだ、仕方ないだろ」
・・・「まぁ・・そうなんですが・・」ぴぎゃっ!
なぜかスライムが微妙な反応、まさかスライムは雌か?
「そもそも人間と・・魔物は種族が違う、人間がほかの魔族の裸を見ても恥ずかしいとは思わないだろ、君らは人間の裸を見て興奮するのか?」
(魔物・・か、そういえばこいつら魔物なんだよなぁ・・)
う~~~ん、なんかこいつらを魔物って呼ぶのはどうなんだろう。。。
「・・どう・・なんでしょう?・・そういう種族もいるかも・・知れません・・」
「いるのかよ!・・その時は気を付けるさ、んじゃ先ずはパンツからだな」
(人間の男の裸を見て興奮する魔物かよ、、はぁ、世の中は広いなぁ)
そんな事を考えながら半乾きのパンツを火に近づけ、ハタハタと振る。
焚き火の熱と火で温まった空気を両方利用する事で乾燥を早めようという作戦だ。
・・・結果、上着が少し焦げました。
「さて城下に行くが、ピョートル達は近くで待機だ。
人間が襲ってきたら逃げろ、それでも襲って来たら・・死なない程度ならボコボコにしても構わないからな。
最悪勝てそうに無い相手なら、命乞いでも持ち物全部差し出しても・・オレの名前を出してもいい、死ぬな。『命を大事に』作戦だ」
人間の名前を出せば、襲ってくる人間も躊躇[ちゅうちょ]するだろ。
「それは・・どうなんでしょうか?」不思議そうな顔をする。
「?困るのか?
別に魔物とオレが知り合いだとか広まっても、おれは全然困らないが・・魔物としては困るのか?」
オレはその辺の人間より・・顔見知りの方が大事だからな。
(魔物・・か、やっぱり良く解らないな)
まだ不思議そうな顔をしているヤツを背に、荷物を集めて背中背負う。
「さて、行くか」って歩き出した。
人間も魔物も面倒くさい。
暗闇の中襲って来る魔物は倒し、逃げるヤツは無視する。
空の鎧・幽霊・火幽霊を叩き、コウモリを落として夜道を進む。
(こいつら程度なら、一人で大丈夫だろうが・・問題は人間だな)
遠回りしながら敵を倒し、ピョートル一人でも鎧を倒せるレベルになった事を確認して、ようやく町の明かりが見える距離でオレ達は足を止めた。
「予定通り、この場で待機だ。・・そうだな、この辺りでオレは3本揃えて松明を点ける。それがオレだ、それ以外の人間は敵だと考えて近づくな、暗闇に隠れていてくれ」
「・・はい・・」
・・『逃げてもいいぞ』ってのはいやな皮肉だな、待ってろと言うのも違うだろうし・・・こんな時にかける言葉が見付からないのは、籠っていたせいだろうか。
「直ぐに戻る」
そうだかける言葉が解らないなら、面倒事を早く片づけて戻ればいい。
オレは素早く駆けだして町の門をくぐる。
中に入ってしまえば、あとは王冠をどこか目立つ所に置いて逃げればいい。
簡単な仕事だ。
・・・・
(目立つ所ってどこだ?)
町の道路に置いておき、馬車とかに轢かれたり子供が持って行っても困る。
後々の問題事に発展するような場所は駄目だ。
(そうなると・・拾ったヤツが確実に城に届け、面倒事にならない場所・・)
たしか・・ここの城は・・警備がザルだったな。
盗賊に入られたばかりだと言うのに、本当に。
(警備兵隊の気合いは本気なんだろうけど)
巡回も交代も、離れた場所からでも解る。
(大きすぎる足音とか『交代!確認!』とか、警備が自分の居場所を侵入者に教えてどうするんだよ)
少しだけ懐かしいような感じで頬が緩む。
(じゃあ・・あそこでいいか)
そう考えたのは王の玉座、昼間ならいざ知らず真夜中で主人もいない席ならだれも手出しをしないだろう。
オレは扉を少し開けて様子を見てから入りこみ、静かに閉めて柱の隅に隠れた。
(宝のない部屋の警備なんてこんなものか?)
確かに警備はいるが、明かりが少ないのでこっちが見えて無い。
抜き足・差し足・・「だれだ!」衛兵らしき男がオレに気づき声をあげた。
(流石に玉座は甘く無かったか、しゃーなし、だな)
「足元に注意しろよ?」
王冠を置いてから、走って来る兵隊に声をかけて窓を目指す。
(たしかここは2階だったよな?)
窓から飛び出し地面に着地、暗くて地面までの距離が見えにくかったが、なんとかなった。
(レベルアップで体力が上がったからか・・・考えるのは止めよう)
今は逃げる事を優先する。
守りの警備がザルなら、中から逃げるのも楽だった。
誰かに見られようと構わない、とにかく走って門を目指して走るだけだ。
落ちて転がる木の枝か無ければ生木の枝でもいい、松ヤニと油と脂を混ぜて布切れでまいて火を付ける。[火炎]
一本作ったらその火を頼りに、2本目3本目を作り火を移して3本の松明が灯る。
(遠くから見られたら、絶対おかしいだろ?これは)
まるで暗闇を怖がる子供が、怯えながら夜遊びしているように見えるだろうか?。
阿呆だな、そいつは。
「・・・生きてるか・・ピョートル・・」
「簡単に殺さないで下さいよ」「ピヤッ!」
スライムも元気そうだし、問題無しか。
ならとっとと火を消して行くか、火の光りに集まる魔物もいる事だしな。
・・松ヤニが燃える炎は簡単に消えなかったので土に埋めて消す、もったいない・勿体ない。
土を払えばまた使うつもりですから。
「さて走るぞ、走りながらこれからの方針を決める。
提案があるなら随時受付します、いいな!」
町から離れながら思い浮かぶ事を口にする、ムカつくがやはりレベルは必要だと思うだから。。。
「一つ目の案だ、これから金属スライムを狩る。
毎日毎日狩り続ければ10年も経てば高レベルになる。
そしたら面倒な事は捨てて隠居生活できるんじゃないか?」
少なくとも基本の体力や魔力量は増える、筋力がつけば逃げ足だって早くなる。
どうだ?
「ぴぎゃぁ!」「・・勇さん、スラヲが、駄目だと・・」
スラヲが何者かは置いておき、ピョートルも賛成しかねる感じだ。
スライムを無意味に狩るのはスライム乗りからしても駄目か、金属スライムも普通スライムも彼等からすれば同じカテゴリーなのだろうか。
「どうしてもと、命令するのであれば、従いますが・・」
「ああ・いい、金属スライムを狩るだけのレベルアップなんて実際の戦闘にはほとんど役には立たないしな」
メタルハンターを目指している訳でなし、強さとレベルは一致しないし、意味が無い。
向かってくる魔物は殺す事にためらいは無いが、逃げる魔物を追い掛けて殺す事にも今は少し抵抗がある。
レベルを上げるだけの、力や魔力の上昇目的だけの金属狩りだけなんて意味がない。
竜を狩る経験は竜を狩らなければ経験を積めない、
強敵との戦いこそ本当に強くなるための近道、うわべだけのメッキの強さが本当の強さだとは思えない。
戦闘経験が数種類だけの魔物に偏ってしまっては、
本当の強敵と戦う時に邪魔になる。
金属スライム狩りで高速レベルアップは、横に置いておくとして。
「と、なれば・・手っ取り早く戦力を上げるには・・やはり装備か」
ボロボロの革鎧と鱗の縦と革帽子、あと銅の剣。
「・・第2案だピョートル、お前が商人とか金持ちそうなヤツの馬車とかを襲う。
そしてオレが助けてコネを作り、装備の更新をするってのはどうだ?」
魔物の特性を有効活用した最高案だと思うのだが?どうだ?
「・・まあ・・それで・・勇さんが良ければ・・」
なにか不満そうな顔をする、なにが不満か。
オレの武器が更新され強くなれば、オレ達の戦いも楽になる、そうだろ?
「オレの装備だけが良くなるのは不満か?安心しろ、隙を見てお前の装備も良いやつをかってやるから」
・・なんだ、その不満というより、あきれたようなため息的表情は?
「反対意見でも腹案でもあれば聞くぞ?忌憚[きたん]無く言ってくれ」
コンビの不満は作戦の失敗率を上げる、少しでも摺り合わせはするべきだ。
「・・怒りませんか?」
「これからの戦いで必要な事だ、問題を指摘され、怒る様な事はしない」
「では・・なんというか、勇さんのその作戦・・小悪党臭いというか、小ずるいというか・・勇さんは時々卑怯な作戦を使いますね・・と」
卑怯ではなく、卑劣と言って欲しい物だ。
「悪党では無く、小悪党なら良いんじゃ無いか、極悪とか凶悪じゃないんだろ?」
「ピギィィィ・・」
「その、勇さんは・・時々狂戦士で時々戦士で・・時々小狡いので・・何と言うか・・格好いいのかそうで無いのか・・」
「人間なんて都合良く悪党で、都合良く善人なんだよ。
どっちかに偏ったやつなんて、最終的に周りを巻き込んで自壊する爆薬と変らないんだ。だから小悪党くらいで丁度良いんだ」
そして時々誰かを助けて少しだけ良い事をする、そんなもんだよ。
「自分の主人がその・・不意に格好悪くなるので・・どうしたものかと・・」
「主人なんかじゃない、おれはお前の・・」なんだ?喉が詰まる。
「言ったろが、オレを主人とか言うなと。
おれは主人でもマスターでも勇様でもない、勇だと」
・・・
「ああ、格好悪い事も出来るだけ改める。それでいいな」
「すいません・・」
「では第3案だ、遺跡とか洞窟を見つけしだい攻略。
中の武器・防具で装備の強化、目的はあくまで装備とかの宝を回収だ。
戦いは二の次で逃げまくる」
「・・まあ・・それなら・・」「ピッギャ!」
戦闘で逃げるのはいいのか?とは思うが、生き死にのかかる戦いで逃げるのは卑怯ではないらしい。
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