第12話

 [旅の翼]の法陣で死体と共に男が飛び去ったあと、走って来たのは騎馬に乗った傭兵風の男達だった。


「お前はなんだ?敵か」


 馬上から槍を向け、3・・5人の男がオレ達を囲む。

 統一されていない装備と騎馬、どうやら国王の兵じゃ無さそうだが、、傭兵を雇った女が一人・・何者だ?。



「ゆぅ」「静かに・・名乗るのはそっちからじゃないのか?」


 ピョートルの言葉を手の合図で遮り、盾の内側で顔を隠して布を口元に巻いておく。


(こいつらからは、厄介事の匂いしかしない。

ここは、かかわらない為にも名乗るべきじゃない)

 オレの直感が、避けるべき危険だと告げてくる。


 馬上から下りた兵隊は、一人は女の元にそして二人は警戒するようにオレの前に立った。


「その盾をどけて顔を見せろ!」「変な動きはするなよ」


 男が手を伸ばし、盾を掴んだ瞬間に力を込める。

 オレが抵抗したせいで、男が腕に力を込める。

 そのオレは瞬間、盾を横に投げ飛ばす様に振りほどく。


 盾を掴んでいた腕は無防備に伸び、素早くそいつの背後に回った。


「変な動きはするなだと?

 それはこっちの台詞だ、変な動きをすればコイツの首をカッ切る」

 鎌の刃を首に押し当て、反対の腕で男の腕を掴んでから、


「抵抗すれば死ぬよ」とそいつに忠告もしてやった。


・・・・


 鎌を当てられた男が目をつぶり、周囲を囲む男達の殺気が膨らむ。


(やばいなぁ、選択を間違えたか)

 こいつら男ごとオレを殺る気だ、どれだけ切羽詰まってんだよ?それ程の重要人物なのか、その女は。。。まさか王族とかじゃないよな。


継承権三位の王女様とかだったら冗談じゃねぇ、勘弁してくれよな。


「背中を守れ、こいつら殺る気だ」

 ピョートルに指示を出し、オレの背後で盾を構える。


(先ずはコイツの首を切り、馬の足でも切ってみるか?)


 馬が痛みで暴れ出せば、逃げる隙も見付かるはず。

 他には・・とにかく数を減らすか女を人質にするか・・


「お止めなさい!彼は今のところ敵ではありません。そうですよね?」


 一瞬チラ見したのがバレたと思ったが、違うようだ。


「さっきのヤツ等にも言ったが、おれはただの通りすがりだ。

 事情も私情もからんでいない。

 恨みもない、この男を殺す理由も無い」

 ただし、戦闘になれば最初に殺すけどな。


 今の所は敵ではない・今は殺す理由はない、その答えを飲み込むように馬上の男が槍を下げた。続いて他の男達も武器を下ろし鞘に収めていく。


・・・ふぅ、「こっちは下ろすつもりは無い、数はそっちが多いんだ。油断させてバッサリ、なんてされたく無いんでね」

 人質を手放して再度包囲されたら、今度は逃げられないって状況に変わりは無いからな。


「では、私が人質になります。

 貴方なら素手でも私をなんとか出来る術をお持ちでしょうから」


 緊張した空気の中で女が歩いて来た。

 高そうな上着と白いキュロット、刺繍には金色の光沢。

 歩き方も市民の動きとは違い、ゆっくりと胸を張り堂々と歩いてくる。


「・・わかったコイツは放す、人質はいらん。

 オレ達を開放してくれたらそっちには関わらん。それでいいだろ?」


 要するにオレは、道を空けろと言っているんだ。


「それは困ります、私は貴方を味方にしたいと考えておりますので」


 人質はいらないと言っているのに、近づいて来る女の笑顔が恐い。

 美しい金の髪をまとめ上げ、引き倒された時の汚れを拭き整えて、完璧な笑顔を作って・・(あれは・・自分の顔に自信のあるヤツの顔だな)

 オレはソレが恐いんだよ。



 周囲を囲む男達は武器を収めているが、いつでも動けるような位置に立っていて、女の左右では彼女を守れるように立ち、一人はオレをもう一人は女の動きを見張っている。


(オレが動けば一人は壁になって、もう一人は女を引いて逃がすつもりか)

 護衛に慣れている、これではまるで・・チーム・・か?


 冒険者はパーティーを組んで色々な仕事をするって聞く、たぶんこいつらはこの女に雇われているパーティー、それは間違い無い。

(武装した傭兵雇って、お散歩・・って訳は無いよな。だとしたらコイツラの目的は・・)


「どうか、おかけになって下さいませんか?

私、見下ろされるのは慣れていませんので」


 馬車を立て直す間、オレは即席に作られた丸太椅子に座る女にうながされて、正面を少し外す様に座る。


・・・(この女、わざわざ目線を外したのに・・)

体の向きを変え、正面に向かい合う形にしやがった。


「まず、命をお助けいただきありがとうございます」

 深々と頭を下げ、ゆっくり頭を戻し髪をかき上げた。

 キラキラと髪が揺れ青い瞳がオレを見る。


「私の名はウェンディ、ルベリア・ウェンディ。

子爵・ルベリア家の次女です、彼等は私の護衛をお願いしていまして・・」


「なんの護衛だ?相手は・・多分正規の兵隊だった、国かどこかの貴族かは知らんが」で子爵の次女を守るのは雇われ者、どう考えてもこちらの方が怪し過ぎる。


「私は国を・民の事を思い考えて行動しているだけです!

 誰かに誤解を受けていようと、それだけは事実です!」


だがあいつら冒険者が捕まっても、知らぬ存ぜぬを通せるようには、しているのだろう。


『お金で雇われるような人間ですから、お金で嘘を付くこともあるでしょう』とかな。


 怪しまれるが、貴族を完全な証拠も無しで訴えるお事は出来ない。

 冒険者を切り捨てる事で、疑惑の範疇[はんちゅう]で押さえるだろうな。

 まぁ良くある事だ。


「ガタガタ言うな!

 お嬢様は魔物が暴れる世界をどうにかしようとしているのだ!

 その為に他の貴族に疑惑を持たれ、邪魔が入るのを防ぐ為にオレ達を雇ったんだ!


 お前もこの国の人間なら、世界の為・国のために行動するこの方の気持ちがわかるだろ!」


 (知らんがな、勝手にやってろよ。

 大体世間に隠れて何かをしている貴族ってのは、革命って言う名の国家転覆だろ?)

 テロリストの真似事に付き合いたくないんだよ。


「信じていただけませんか?

 王家だけが世界を憂い[うれい]ていると、本当にお思いですか?」


「王族が世界をだと?

 馬鹿な?あいつらは体制だけが大事なんだ。

 世界も魔物も市民もその為の道具だ。

 王族ってのは崇められ、税を集めて贅沢したいだけの連中だろ?」


(ついでにお前ら、貴族領主もな)


「お嬢様、コイツは駄目です。人を信用するような目をしてません、それにこの・・」


「魔物を使役している事ですか?それこそ私が彼を味方にしたい理由ですよ?」


『魔物を使役している』目の前の女はそう言った。


(使役・・か、そうなのか)それは他人に言われると、ひどく歪で不快な言葉だ。


「それで?オレが魔物を仲間にしてたら、お前らになにか問題があるのかよ」


「いいえ、この国ではあまり聞き及びませんが、世界では魔物使いという職業も存在すると聞きます。

 魔物と言葉を交し契約し、心を交す。そうする事で魔物を呼び出し力を振るう。

 この辺りの国家では廃れた力・技術だと」




([職業]魔物使い・・か、そんなのもいるんだな。

 そいつらは一体どんな切っ掛けで・・まぁいいか)


「我々の計画にあなたの力、魔物使いの技術があれば、必ずや魔王を伐ち倒し世界を救う事が出来るのです!

 どうかご助力を!」


(とか言われてもな、さてどうしようか。

 こいつらのやっている事には興味は無いが・・魔物使いの話は興味がある。

 おなじように魔物と接する人間・・か、クソ勇者よりマシだよな?)


 おれの迷いを察したように、目を鋭くさせた女が手を掴む。


「必要ならお金でも情報でも、伝手でもご用意します。

 そうすれば、あなたがお顔を隠す理由も無くなり皆が幸せになるのです。

 ご協力いただけませんか?」


 チッこの女、感が良い。

「顔を隠すのは面倒事に巻き込まれたくないからだ・・・が、金と情報には興味がある。・・・あとはいくら出せるか、だな」


[大きい嘘は、小さい嘘で隠すせばいい]嘘をつく時の常識だ。

 あとは相手の強みがある部分に、こっちが興味がある風に見せる事で相手に有利な『交渉のテーブルに着いた』と思わせる事だ。


フフッ「貴方の知りたい情報は、貴方の事を良く知ってからと言う事で、お名前を御教えていただけませんか?」


・・・「ジョン・タイラー、ただの傭兵だ」


「ジョン?・・フフッ、タイラー様ですか。[そう言う事]にしておきましょうか」[ジョン][ジョージ][男]はどこにでもある名前、向こうもこっちが仮名である事を知って[そう言う事]にした。そう言う事だ。


「で、あっちがpー。そう読んでくれ」『いいよな?』


 ピョートルを無理矢理うなずかせ、スライムもぷるんと揺れる。


「あとはギャラだ、いくら払う」


「あちらの隊長と同じ額を」即答だった。

 一番高いだろう金額を即答する事で『不足だ』と言うと隊長の面子・顔に泥を塗る事になる。


(マジかよ、感だけじゃなく、取引のセンスもあるのかよ。やなヤツだ。)


「!?隊長と同じ額を?こんなやつが?」

「馬鹿にしてますね、私達はこれでもレベル20以上の冒険者ですよ。

 こんな素性も解らないヤツをレベル27の隊長と同じに扱うのは、ハッキリ言って不快です。」

 左右の護衛が当然のように不満を口にする。


(解るよ、同じ立場ならオレでもそう思う)


「お黙りなさい、これは私と彼の交渉です。あなた達とはまた別の契約でしょう?」


「黙れません!

 オイ貴様!ジョンとかふざけた名前名乗って一体何様だって言うんだよ!」


・・・はぁ「ジョンがふざけた名前かどうかは別にして・・いいか?

 そっちのお嬢様は、オレ達二人をセットで隊長と同じ額でって言っているんだ。

 実質は半額だろ?」


 オレが切り出すまで[お嬢様]は口元を隠していた。

 つまりオレに説明させ・説得させて同行しろって事だろう。

 少なくともオレに説明させる事で、オレを見定めようととしているに違い無かった。


「魔物とセットだと馬鹿かお前は!

 魔物なんかおまけだろ!下手な言い訳で誤魔化そうとしても無駄だ!」

 こっちの壁男の方は馬鹿のようだ。


 逃がし要員の女は何となく気が付いているようだが・・

「そっちのお嬢様は、オレの[魔物使い]の能力を買ってくれている。

 魔物のいない魔物使いを雇うと思うか?

 材料の無い状況で、料理人を厨房に置くやつがいるかよ」

 だからセット価格なんだよ。


(実際は解らないが、そう言う事にしておけよな)


・・・「そう・・なのか?」壁男は振り向き、仲間の女の顔を見た。


「多分・・ね、それに・・P、だっけ?あの魔物の装備、主人以上のまともな装備をさせているわ。多分重要な盾・剣、要員なんでしょう?」


「つまり、コイツは魔物に戦わせて自分は高みの見物って事か?

 ならコイツが魔物のおまけって事だな」ハハハハッ!!

 なにが嬉しいのか馬鹿男がニヤついていた。


「・・と言う事で、お二人も納得していただけましたか?

 ならこれで交渉は成立と言う事で、今後ともよろしくお願いしますね」


 まるで狙っていたかのようなタイミングで話を閉め、強引とも思う契約の成立させた。


(チッ、予想通りこの女の手の上かよ)

 話の流れ、動き、そして空気を読んで隙を突いて牙を剥く。

 まるで砂漠でエモノを待ち構える毒蛇だ。

 舞台を作り、人を思う通りに動かすのになれた支配者か?


(これでこっちは『納得してないんだが?』なんて話を蒸し返したら、余計に面倒な事になるんだろうなぁ・・ああいやだ嫌だ)


「ああ、わかった。改めてジョン・タイラーだよろしく。

 ジョンでもタイラーでも好きに読んでくれ。

 それで、そっちも急ぎなんだろ?馬車の方を手伝うよ」


 車軸の方は解らないが車輪は見た目は大丈夫そうだ、手伝えばそれだけ早く動ける。

(それに、あの女の傍にはいない方がいい)出来るだけ避けよう。


 そう思ってたんだけどな、世の中は難しい。


「ゆ!・・ジョンさん、大丈夫ですか?」

 馬車の隣をぴょんぴょん付いて来るピョートル。そう気が付けば馬に乗れないのはオレだけだったんだ。

馬車が直れば、その中に入るのは女と・・そして馬に乗れないオレ、そして護衛の傭兵だった。


 乗馬して現れた護衛の傭兵達、貴族のたしなみとして乗馬ができる[お嬢様]は別として、馬に乗る必要の無いスライムの騎士・・


くそっ、こんな事ならあの時ちゃんとやっておけば、って事は必要な時に限っていきなり露わ[あらわ]になるんだよ。


(武器も道具も・・力も・・[あの時やっておけば・こうしていれば]・・か)


「そんなお顔をしないで下さい、誰しも得意・不得意はございますから」

「おれが、[お嬢様]と同席するのを嫌がっている、とは思わないんですか?」ね。


フフフッ「本当に嫌なら御者のお隣にいらっしゃるはず、そうで無いのはそれ以外が理由・・と思いますわ」


!?そんな席があったのか!!などと言っては駄目なんだろうな。今さらだ。


 そうかそんな席があったのか、知らなかった。

 馬車に乗るなんて王に呼ばれた時だけだったし、数回しか乗ったこと無かったんだから。


 何がそんなに愉快なんだ、この女の笑顔は。

 なんだかすげぇ嫌な感じだ、こいつら嫌いだ。

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