第29話

 時間稼ぎとしんがりを終えた、勇者は最後に馬車に跳び乗った。


(オオバサミ台風、、、想像以上の威力だった)楽し過ぎるぞアレは!


魔物が飛び散って、最後の方は楽しくなってしまった。

(少しテンションが上がってしまったぞ!!)


風を巻き起こす鋼の刃、飛び散る魔物と聞こえる叫び声、ただでさえ重くて威力の高いオオバサミが遠心力で威力倍増、刃風舞い上がり血・臓物が降り注ぐとはこの事だ。


(っ・・体が限界がもう来たか)

 肉体の強制強化効果が切れ、上がったテンションが落ち着く。

と同時に身体がきしみだす。


節々の痛みは[回復]で誤魔化しているが、無理矢理限界を超えさせた肉体が悲鳴を上げ始めて・・眠い。

 痛みに耐えるため頭が脳内麻薬を吐き出し、意識が飛びそうだ。


「すごいですな戦士様!あの無双っぷり、是非お名前を・・」


商人が近づきオレの手を取ろうとした。


(あ゛?なんだてめぇ?)


・・ガチッ、バラしたオオバサミを手に掴む。


「なんで子供を連れてこんな所に出て来た?

 お前が商売で死ぬのは勝手だが、子供を巻き込むな」

 親の博打で子供まで殺す気か!


オレは片刃の刃を商人の首に押し当て、睨みつけた。


(体は痛い、勝負は流された。本当になんなんだお前は?死にたがりか?)

[ここで殺すぞ]


ヒッ、砂を掻き分けて走る馬車の中、多分そんな悲鳴が聞こえた。


「答えろよ、死にたいのか?」


 オレが少し刃を引けばその首は裂ける、即死じゃなくても馬車から放り出せば血の臭いに集まって来る魔物が喰ってくれるだろ。


 目を白黒された商人は、オレの怒りの理由がわからないのかプルプル震えていた。


お!「お父さんを放せ!」


 他のヤツらが動きを止める馬車の中、子供が一人声を上げた。


「ガキ・・コイツはさっき、お前を巻き込んで死ぬ所だったんだぞ?

何故かばう?ここは・・この砂漠は、子供を連れて観光に来るような場所じゃない。

 それはこの場にいる全員が解っているはずだ」


 ・・・この商人は解っていなかったんだろう。


 子供の目はオレが威圧する目を捉え、瞬きもせずに睨んでくる。

面倒くさい、、オレが悪いのかよ。


・・・チッ、「二度目だ、お前がこの子供に命を助けられたのはな。

 自分の子供に感謝しろよ!」

 

この子供がいなければ、多分素通りして見捨てていた。そして今度は。。

(子供の前で親を殺せるかよ・・クソッ!)


商人を子供の方に突き飛ばしオレは腰を下ろす、まったく子供は面倒だ。


「・・もうしわけ、ありませんでした。

 戦士様、それでも言い訳させて下さい。

 この子も商人の子、いずれは砂漠越えを経験させなければなりませんでした」


 しばらくして状況が理解し始めた商人が頭を下げ、話を始める。


「今回はたまたま、偶然強い魔物に襲われたのです。

 いつもは護衛の冒険者が対応出来る程度の数だったのですが・・・今夜の魔物は数も多く、強かったんです」


・・・いくつもの偶然と事故のような事が重なり、子供を危険に巻き込んだ。

そう商人は言った。


「年に数回、砂漠の町でバサーがあるのです。そこには海外からの珍しい物も多く、商人としては、どうしても間に合わせる必要があったのです・・この子にもバザーを見せて上げたかったんです」


「それで自分も、そして子供まで死んでいたら商売所じゃ無いだろ」


 旅の翼を使った場合、運べる荷物の量は限られる。

 だから子供に商隊を経験させておく事も必要なんだろうが・・


(はぁ・・商人としての教育方針か・・オレが口出しするところじゃない・・か)


「生きていて良かったな子供、これが砂漠越えの危険だ。

 生きてこそ経験を次ぎに生かす事ができるんだ・・そっちの商人も悪かった。

 こっちも体力の限界でピリピリしてたんだ、できれは放っておいてくれ」


(ヒトの事は言えないな。

 自分も同じか・・お互い生きていて良かった・・って事でいいか、今は)


 まぶたを閉じて回復に集中しないと、体のギチギチとした痛みと熱が収まる気配がしない。


「pー少し頼む」


 ピョートルも疲れているだろうか。

 すまないな、意識を切断している間任せられるヤツが他にいないんだ。


 荷台の横板に背中を預け、手元にハサミの片刃を置く。

 おれは肩を仲間に預け目を閉じた。



・・・

(?・・湿っぽい?)


 気が付けば馬車の中は霧のような空気で被われていた。

 オレは素早くハサミを手に取って周囲の様子に目を動かす。



(・・・なんだ?敵の罠か?霧?それに・・・寒い)


「ああ、戦士様、心配しなくても大丈夫ですよ」


 馬を歩かせていた商人の男がオレの動く音に気が付き、前を向いたまま言った。


「ラクダに無理をさせましたし、護衛の方にも被害が出ましたから。

 今はランガの方に帰っている所なんです・・この霧は、砂漠の早朝に良くある現象でして・・」


 商人は星の出ている間は星を見て進んでいた。

 今は霧で夜空は見えず、ラクダの体を冷やさない程度の歩みで進ませていた。


「あれからラクダを引いてくれていたんだな、お陰でよく眠れたよ」


ありがとう。


「イエイエ、戦士様に助けられ怒られたお陰でイシスに強行せずにすみました。

 私と子供だけなら商売を理由に強行していましたよ」


 どうしても目の前のカネを追ってしまう、それが商人のサガってやつですよ。


男は笑ってそう言った。


「・・イシスまで行くつもりだったのか・・」護衛も減り子供も連れて。

 なんて業の深い職業だよ、商人ってのは。


「戦士様は、狩りですか?それとも賞金稼ぎを?」


 狩りはそのまま魔物を狩って部位を剥ぎ、神からは入金を受け取りカネを稼ぐ仕事、冒険者達にとっては生活の糧だ。


「賞金稼ぎ?・・この辺に夜盗の巣でもあるのか?」


 賞金とかは町とか国が犯罪者にかける物で、魔物に一々かけたりはしない。


「・・あのゴーレムですよ、ピラミットの守護神とか言うひともいますね」


 あのレンガ像・・ゴーレムと言うらしい。


 ヤツは砂漠に入った商隊や旅人を襲うように徘徊し、戦いを挑んで来るらしい。


「数年前にも、ゴーレムは倒されちゃぁいるんですよ。

 でもね、月が廻って満月になるくらいになっては復活する。

 厄介なヤツですよ・・はは、足が遅いんで走って逃げりゃ良いんですが・・迂回すると流砂とか魔物とか・・」


 倒しても復活する、が倒さないと商人たちの砂漠の行き来が面倒になる。

 だから商人達が賞金をかけ、集まった腕自慢がゴーレムを倒す。

 そうすれば次の満月までは安全に砂漠を行き来できるのだろう。


「ゴーレムが倒された月なんかは、商人の往来が活発になりましてね」


・・(ふ~~~ん、良いなぁアレ)倒すよりも・・・


?ん?おかしい・・なんだ?

 どう考えてもおかしい、ラクダはラクダの足跡の上を進んでいる。


霧の中、この商人の前に他の商人がラクダを引いている気配はしない、

ならコレはまるで・・・


「オヤジ、ラクダの足元を見ろ。同じ所を歩いているんじゃ無いか?」


同じ所・同じ場所をグルグルと回っている。


商人がそんな無駄な事・無駄な時間を使う事は無いはだ。


「?え?・・確かに・・おかしいですよこれは、私は真っ直ぐ歩かせているんですから」


商人の返事と声色に嘘は無かった。

と・なると。


「pー起きろ、スラヲも」敵だ。


 二人を揺り起こし、オレ達は馬車を飛び出した。


 魔物なら狙いはオレだ、自分が助けた連中を今度は自分が巻き込む事は出来ない。


 勇者が鎖分銅を砂に垂らして霧を進む、蛇のような後が砂に残るようにして歩き、元の場所に戻るような事になればわかるように砂上を歩く。


(何者だ?)

 どうせまた魔物か悪魔関係だと思うが・・他人を巻き込むなよ。

 オレが今から殺してやるからさぁ、、、出て来いよ。


 しばらく歩くと鎖の後が繋がった、ここで一周か。

(・・なら右か左か・・・)


取りあえず右に行ってみる。


 どんな形の円かは解らないが、どこかを基点にして迷路の捻れを作っているはず。このまま線が十字に重なるか・・それとも二つ目の円になるか・・


歩き回りしばらくして線がつながった、つながった線は二つ目の円を作っていた。


(と言う事は・・空間じゃなく、感覚か)


 霧の中にいる人間の方向感覚を狂わせる術か。


(空間の捻れなら最初の線と何所かでクロスすると思ったんだけどなぁ・・馬鹿だからわかんねぇ)

 こうなれば力尽くで解決あるのみ!



そう『やはり暴力、暴力が全てを解決させる』と昔聞いた事がある。


「ピョートル、[爆破]だ、オレと同時に魔法を使って霧を吹き飛ばすぞ!」


それで多分何かか変わる、霧が原因で空間の捻れて反転してたら、、、

衝撃がオレ達に返って来るとか。




「「爆破」」二人は集中し、呼吸を合わせて魔法を放つ。

 衝撃と爆音・爆風が霧を飛ばし、霞んでいた風景の中から町の姿が現れて見えた。


「良し、取りあえず宿まで急ぐぞ。一晩きっちり眠って砂漠用の装備を買って・・」


 霧の晴れた方向に向かい、走る勇者とスライムの騎士。

 二人は町に近い所まで来て立ち止まった。


「勇さん、こっち見てませんかアレ」


 真っ直ぐこちらを見ている様に立つ、フードの人影。

その視線は、オレ達が右に動けば右に左に動けば左に動く。


「・・見てるな、大丈夫だ武器屋のオヤジすら誤魔化した認識阻害がある。

オレ達にはなにもおかしい所は見えない無いはずだ」


 馬車の商人も冒険者もスラヲには気が付かなかった。

 あの時のスラヲのヤツ・・スライム的に平べったくなってたんだぞ。


(本当に、なんに見えてたんだか)


「そう・・ですよね」


 跳ねる様に動くスライムの騎士は勇者の少し後に続き、フードの視線を交すように町に向かう。


「待て」


丁度、ピョートルがフードの横姿が見えるような位置まで来た時に声がした。


[・・・気にすんな、無視しろ]


 アイコンタクトと手の動きで指示を伝え、ピョートルには聞こえ無いフリをしてそのまま歩かせた。


「そこのお前!聞こえてるだろ!

 聞こえ無いフリをするな、解ってるんだぞ!」


  フードの人間が怒ったように大声を上げて来る。


 勇者は再度同じ合図を送り、無視する事に決めた。

 少し微妙な雰囲気をピョートルが出しているが、ヤツを見るな・顔を向けるな・相手をするなよ。


 『絶対面倒なヤツだ』、関わらない方がいいと本能が言う。


 多分[やから]か極道か、もっと面倒な人間の気配しかしない。


「おい?・・アレ?本当に聞こえて無いのか?

 なぁ?ワザとだろ?無視してるんだよな?・・?あれ?術で音も歪ませてしまったのか???」


・・・少しおかしなヤツだった。


(術?音も歪ませたって事はアレはコイツの嫌がらせだったのか?)


「待て!そっちのお前、ちょっと笑っただろ!解ってるんだぞ!」


すまんピョートル、オレ・顔に出てた見たいだ。


「?・・アレ、急に音が・・アレ?景色が、ようやく町か、良かった助かった」


 取りあえず誤魔化しつつ、片手を目の上にして町を見つけたフリをするオレ。


・・・どうかな?


「・・気のせいだったか、よし。「オイお前、待て!」」


フードも全部無かった事にして、『オイ、待て!』を言い直す。


「・・・えっと、オレ達の事ですか?」


 フードの見ている方向にはオレ達しかいないんだが・・・イヤだなぁ・・


「お前の後にいるヤツ、お前はなんだ?どうして体から魔物の臭いがしてる?」

 フードの声は高く強い、

(女戦士か術者か、、それともほかにも仲間がいるのか)解らないな。


「・・昨夜魔物に襲われまして、戦っていたら魔物の体液が体に着いたんでしょう?

 町の誰かに聞いてくれたらわかりますよ。


 夜にレンガ・・ゴーレムに襲われた商隊がありまして。

 それで逃げ出した所に、今度は霧に囲まれ道に迷ってしまい。

 、ようやくオレ達、町まで戻ってきたって所なのに・・」


 『霧はお前の術のせいだろ?』

 そのせいで迷わされた、そんな感じで言えば罪悪感で見逃してくれるだろうか。


「・・おかしいな、お前達は砂漠から来たのだろ?

 それなのに何故そっちのヤツから・・スライムの臭いがするんだ?

 あの魔物は砂漠にはいない筈だが?」


 スライム臭ってなんだよ!・・・うどんの臭い?


「さ・・さあ?よく解りませんね」


 『逃げるぞ』後手で合図を送り。じりじりと後退しながらフードから距離を取る。


 勇者の背中にピョートルの影が重なるくらいの距離になった時、フードが気合いを上げた。


神聖に克する邪悪なる者よ、その動きを封じ歩みを止めよ!


[禁!]


「ぴっ!」スラヲが悲鳴を上げ、体を振動させた。


「[不動封印縛]魔力で動きを禁じる事で、相手を一時的に押さえる術だ。

お前、私がそいつを押さえていなければ、そいつに後から襲われていた所だぞ」


・・・「それは・・どうなんでしょうか?」


(封印?・・魔物を封じたり眠らせたりするアレか?・・・コイツ何者だ?)


「知らないのも無理は無い、我らは世界の影で強大な魔物をあちこちで封じている組織の者だ。

 危うく魔物が町に入り込む所だったんだが、これも我らの役目だ。

 その魔物はここで滅ぼしてやろう」


 フードのヤツが自慢げに声を上げ、動けないピョートルに歩き近づいて来る。


『滅ぼす』だと?・・・そんな事、させるわけが無いだろ。


 拳を握るフードのヤツがオレの横を通るとき、オレは渾身の力でオオバサミを振り抜いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る