第33話
ピョートルはひょっとして・・「村とかに彼女とかいたのか?」
コイツは戦えるし空気も読める男だ。
スラヲの面倒も見ているから、気の付く魔物・・なヤツなのだろう。
実は子持ちとかだったら・・・
(ひょっとしてオレは、ピョートルの家族を引き離したりしているんじゃぁ・・)
「イエ?魔物には、あまり男女付き合いと言うのはありません。
・・強い魔物には憧れたりしますけど」
ピョートルはサラリと不思議な事を言う。
魔物でも木の股から生えてくるわけでもあるまいし、、どうなんだ。
詳しく知りたいような、聞かない方がいいような・・
『魔物は卵から産まれるんですよ』とか言われたらどうしよう、ちょっと困る。
オレがそんな感じで頭を使っていると、ぐぅぅぅ~~鳴る。
そう言えば・・腹が・・減った・・
「飯だ・飯にしよう。難しい事は後でいい、緩和休題ってヤツだ!」
町に着いたオレ達は早朝から開いている店を探し、料理の匂いに惹かれて右往左往。
「襟巻き蛇の香草塩焼き・・う~~ん骨が多い、うまいのか?これは」
まあいいや、喰って見てから考えりゃぁいいか、なあ?相棒。
ピョートルの下では獲物を狙う獣のような鋭い目のスライム、コイツはやるきだ!
朝食を済ませ、オレ達は目的の店の戸を開く。
「蛇って意外と硬かったがそれなりに味は良かったな」
「そう・・ですか?」「ひゃっ!」
「いら?・・らっしゃい」
ボロボロになっているオレ達を向かえたのは、角覆面の上半身裸の筋肉だった。
「ちょっと無理したんで、修理をお願いしたいんだ」
アヤメに殴られた盾はへこみ、ゴーレムと戦ったハサミは研ぎが必要。
鎧も細かく傷付き、酷い状態だ。
「・・まぁ、鎧の修理は必要だな。それで、そっちはやっぱり無理だったか・・」
オオバサミに目を向けた武器屋のオヤジはため息のような、ガックリとしたような声。
「・・流石にな、ちょっとばかし、ゴーレムの拳をぶっ壊すくらいしか出来なかったぜ!」
だが、次ぎは勝つ!絶対にな!
「なにか勘違いしているようだが、オオバサミは最高だ!」
「へ?・・あんた、砂漠の守護者と戦ったのかい?
あのゴーレムと?・・う、腕をぶっ壊したとか・・本当か?」
急にマスクの奥の目が光ったよ。
そしてオオバサミをカウンターに置き、刃を手で確かめながら今度はオレの方に向いて男は言う。
「ゴーレムの腕を、このハサミで砕いてくれたのか」と。
「それでも刃こぼれもしないそいつは、名品だぞ?
少し刃はなめたが、それでも切れ味は・・皮鎧くらいなら切れた・・」
女性の武闘着とは言わない。
へへへへへ「・・そうか、そうか、聞かせてくれてありがとよ!
メンテだな、研ぎ直しと盾の打ち直し、あと鎧の傷も見てみないとな!
ああ、忙しくなる!忙しくなるぞぉぉぉ!!」
武器屋のオヤジは飛び跳ねるように武器と防具をつかみ、奥に持って行かれた。
「ああ、直すまで・・上で休んでいてくれ!
昼過ぎには直すからな、カネは金属板だな?残高はきっちり残ってんだろな?
へへへ!腕かなるぜ!ああ忙しい・忙しい!」
少しだけ戻ってきたおやじは興奮した声を弾ませ金槌を掴み、飛び跳ねて行った。
・・・まあ、武器は武器の専門家に任せて・・大丈夫だろう・・多分。
カン!カン!カン!、キン!キン!キン!、ゴリゴリゴリゴリ・・
ドタバタと1階から聞こえる作業音、勇者たちは飯で腹がふくれ疲れは絶好調。
寝るしかないよな、普通は。
目をつむってどのくらい経っただろう、漂ってくる良い匂いと共に目が覚めた。
甘いような美味そうな匂い。
「おや、起こしてしまいましたか?」
若くは無いが優しく笑う女性は手にパンとスープを持ち、部屋に上がって来ていた。
(誰だ・?)
「旦那の方は、もう少しかかるみたいなのでね」
部屋のテーブルにパンをスープが置かれ、「食って良いのか?」
「・・お客さんのお陰かねぇ、あんなに嬉しそうに鉄を打つあの人を見るのは。
お客さんでしょ?ご贔屓にしていただいちゃって。
昨日もず~とよ?お客さんの事ばっかり聞かされちゃってねぇ」
多分、武器屋の奥さんだろうか、少しうれしそうに笑っていた。
期待されていたんだなぁ、オレ。
「あ・ああ、良い武器を買わせてもらった。蟹も鎧も真っ二つだ」
Pーもオレに続き、パンを貰っう。
平べったく少し酸っぱいパンと甘味のあるスープ、肉もある。
いたり尽くせりって感じだ。
「美味いな」「ええ、とても」「もきゅもきゅっ」
オレ達が飯を終えて一息ついた頃、1階の音が止った。
そこにあったのは、ピカピカに磨かれた鎧と少し変化したような盾、それに研がれて鋭さを増したハサミと取っ手の皮が丈夫になめした皮を編んである。
「盾については重さは同じだが、攻撃を受ける場所に鉄を厚くした。
バランスも考えて持ちやすくしたつもりだ。
ハサミの方も握りやすくなっていると思うぞ、どうだ?持ってくれ」
しっくりと手に馴染む皮で滑らないようになっている編み目、軽く振ると痛かった親指の付け根の負担が少なく、手の平で掴んでいる感じになっている。
「すごくいい、そっちはどうだ?」
「重さは変わりません・・・重心を上にして持ちやすくしてあるようですね」
好評だった。
「あんた、こんなに気合い入れちゃってまぁ」
「武器屋を信頼してくれる客には、それに応えるのが良い職人だ。
それにカネ払いも良いってきたら張り切るしかねぇじゃねぇか、母ちゃん」
多分親子で無いオヤジは・・妻帯者だったんだよなぁ。
このおやじ・・少しはまともな格好・・汗をかくから上半身裸はいいとして・・マスクはなんでだよ!
(マスクがモテるアイテムなのか?マストアイテムなのか?)
「オヤジ、あと1・・二つ、みかわしの服の布でマントを作ってくれ」
砂漠の昼対策で、直に太陽光線を鎧に浴びたら熱すぎた。
「ヘッ!作るまでも無ぇよ」
[みかわしのマント]は、すでに砂漠装備の基本でした。知らないのは砂漠の素人だけ、つまりオレ達みたいな流れ者はすぐにばれる仕組みになっていたようだ。
「まいどー!」
寸法を直しマントを装着、さてそれでは行きますか!
ヤツも多分その辺にいるだろうし、探すぞ。[昨日の商隊]を。
砂漠でスラヲが走るのは無理、海の生物が焼けた炭の上を歩くような物。
美味しそうではあるが、スラヲからすればまな板の鯉より格上の鉄板の上の焼肉状態、もしくは食卓の皿の上。
それにバザー目的の商隊も、バサーを過ぎた今なら馬車の数を減らす・・と思う。・・思いたい。
馬車の集まる広場で、昨夜の商人の姿を発見し馬車に乗せて貰うよう交渉するつもりだった。
(けれども・・上手くいくだろうか・・・)
一応借りは作っているが。
「う~~ん、確かに命の恩人相手になにも返せないというのは心苦しいのですが」
どうも無理っぽかった。
「商人ならカネか?カネなら多少はある、いくら出せばいい」
オアシスまで乗せてくれるなら、持っている金貨を全て出してもいいんだ。
「その・・私の馬車と言うのは、商人の登録制の物でして・・」
商人の馬車は国中を行き来する。
当然中身の商品も色々な物を運び、中には税金逃れの為の金塊や禁制の物も運ぶ商人もいる。
その為、どこの・誰が・何を・いつ運んだのか、商会だけで無く国家が管理する必要があった。
登録された商人の馬車を盗み、悪用するもの達からも商人を守るため。
違反した商人から馬車を取り上げ罰を与える為でもある。
そのための登録制度、そして決まり事だ。
「ですが・・そうですね、個人で馬車を持っていた人間は知っています。
紹介状を書きますので、交渉してみてはいかがでしょうか?」
自分で馬車を買い、そして砂漠を渡るのはどうでしょうかと。
「そう・・だな」馬車か、安く買えるといいんだが。。安すぎるのも怖いんだよなぁ。なんか憑りついてたりして。
まあいい、購入となれば商人の紹介が有ると、無いでは大違い。
見知らぬ人間が大事な馬車を売ってくれと言っても、普通は聞いてくれないだろう。
それ所か門前払いもある中で、逆に商人からの紹介を無視出来る・無視すると商人の顔に泥を塗る事にもなる、と言うのは大きい。とても大きいと思う。
「よろしくお願いします」勇者はきっちりと頭を下げた。
「つまり、馬車だ。馬車を買う事になったぞ」
馬車があればスラヲの水分ボディーでも砂漠を越えられる、昔っから『砂漠を越えるには馬車か太った商人だ』って言うから。
「スイマセン・・スラヲの為に・・」
「ん?違うぞ?馬車はいずれ必要だったんだ。
それに仲間の為に必要な事をするのは、飯を食うのと同じくらい当たり前の事だ。 すまないなんて言うな、思う必要すらないんだよ」
そうだなぁ・・そこは、
『やはり砂漠越えは馬車が必要ですよね?なんで徒歩で行こうなんて考えたんですか?』くらいは言って欲しいところだぞピョートル君。
それに、ちょうどいい御者?も見つけたんだ。
ヤツを勧誘する事も決定事項なんだよ。
「まさか、ゾンビを仲間に?!
確かに何度も何度も起き上がっては去って行きましたけど・・それかさまよっている鎧のヒトを?それとも回復スライムでしょうか?」
確かにヤツ等は何度倒しても懲りずに起き上がり、仲間にして欲しそうな顔をしているけれども。なんかこっちをチラ見しながら去って行くけれどもだ。違うぞ?
特に「ゾンビは候補には無い、あれは違う感じがする」
大体スミスってなんだよ、オレの偽名がジョンでヤツがスミス・・
ジョン=スミスなんて駄目に決っている。
ジョン=タイターと同じくらい駄目なんだ。
世界線がどうにかしてしまう、オレの六感がそう危険視しているんだ。
ゾンビを仲間にする事は、それくらい危険なんだと!
「スラヲ、そんな顔をしても駄目だ。腐った死体なんか、携帯食としても連れて行くわけにはいかないんだからな」
何と言うか・・本能が、ゾンビは駄目だと言っている。
世界が浸食されると言うか、関わると大変な事になるような・・
ゾクリ、背筋が氷る感覚。
会話するだけでも世界が毒されるような予感。
「フフフ、解らないか?ピョートル。
アイツだ、ゴーレムだ。
死なないらしいしタフで丈夫、ヤツの拳を何度も喰らったオレが言うんだ。
間違い無く『仲間に引入れるべきだ』とな!」
ゴーレム馬車、いいじゃないか。魔物も踏み越えて行くような感じが実に良い。
「確か彼は、砂漠の守護者と呼ばれてるのですよね?・・・・」
何故か非難されているような視線を感じる、違うぞ?
拳で説得はするが・・酷い事は・・するかなぁ・・
(確かにピョートルを捕まえた時はすまなかったと思うよ
・・いつか埋め合わせはする・・たしか世界のどこかには、[雷神の剣]とか言うのが有るとか聞くし、見つけたら専用装備にするからさ。
[ピョートル雷神]なんて格好いいだろ?)
「オレは殴り合った時に解ったんだ、ヤツは強敵を求めているとな」キリッ!
・・なんだよ、その『ほんとうですかぁ?』見たいな感じは!本当だぞ。
ヤツはこんな砂漠に埋もれているような魔物じゃない。
もっと世界に出られる逸材だ。
今は少し強引かも知れないが仲間に勧誘する、そして世界中にゴーレム像が立つくらい有名にしてやるんだ!
────────
「と、言うわけだゴーレム、お前が負けたらオレ達の仲間になって貰う。
それが足の遅いお前から、おれが逃げずに最後まで戦う条件だ。
いいかげん、逃げ出すヤツ等との戦いは飽きているだろ?」
オレ達が負けたらオレは死ぬ、それくらいの対価は賭けるさ。絶対勝つけどな!
みかわしのマントで日を遮りながら、砂漠の周囲を歩きまわり。
ヤツを見つけたのは最も昼の熱い時間だった。
ヤツは陽炎をまとい、砂漠を徘徊しながら敵を探していたのだ。
GUggggG!
ゴーレムはオレの言葉に反応するように目を光らせ、拳を振り上げた。
「契約成立だな!ボロボロに切り刻んでやるから覚悟しろ!」
『また悪役のような事を』そんな声が聞こえたような気がしたが、男は細かい事は気にしない!
どうやって直したのか、ヒビの消えた拳を正面から受ける。
骨身に染みるいい拳だ、へへへ、お前・世界を狙えるぞ。
『ゴーレムFIGHT!・・・レディ!・・Goo!!!』
回り込むようにピョートルが剣を振り下ろし、金属の音を立てて弾き飛ばされた。
「コツコツでいい、とにかく正面からぶつかるな!」
真正面からぶつかるような馬鹿は、オレ一人で十分。
(それに、[魔法を使うな]だからな)
コイツを仲間にするなら、魔法は無粋だ。粋[イキ]じゃないよな。
そんな戦いで敗北させた所で、お互い納得出来ないだろう?なぁ?ゴーレム!
技と技・剣と拳・その上で倒し認めさせる、ゴーレムにはそれが必要だと感じた。
「ヘッ、相棒は無視かよ・・・相手はオレだけって事だな?」
いいね、ますます惚れたぜ。
二刀に別れたハサミを振り上げ、堅い腕に打ち込む。
「切っ先が入れば!」
?(コイツ、腕を引きやがった!)昨夜の戦いで学習したのか?
四角い目がオレを捉え、左手が砂をすくう。
横薙ぎの投砂、敵が一人であれば砂の量も少なくていいと考えたのか。
ペッ、「砂の量より速度を取ったのか!」
小石が混ざった砂の波はまるで豪雨、昨夜の投砂が津波なら、こっちは暴風だ。
砂の暴風に怯んだ体に寒気が走る、
(ヤバイ!)
砂煙の中から巨大な拳が(躱せない!)
「勇さん!」どこかで声がした。
スローモーションに見える岩塊のような拳はメキメキと体の中に音を立てさせ、肺の中から酸素を奪っていく。
ゲハッ!死ぬ!
吹っ飛んだオレをかばうように、ピョートルが盾を構えてオレを守る。
(痛ぇ、死ぬ程痛ぇ!)
視界は赤いし足はガクガクする。
打たれて無いはずの頭も痛いし、息をするだけで痛ぇ。
クソッ、手加減しろよ!息が、息が痛い。
「大丈夫ですか![回復]」
「やめろ、そいつはだ・・駄目だ」
ピョートルの使った回復の光りを押し退け、振るえる体を何とか立たせる。
(ここからだ、死ぬなよオレ)
次ぎに拳を喰らったら、立てないな。
(ハハハ・・一応好奇心は満たされたか?昨日のオレ。
一応立っているけど満身創痍だぞ)
それでも、立っている。ハハハハハ!!!すげぇ!オレの体!
すげぇ!痛みが痛すぎて笑えてくるぞ!!
はぁーはぁーはぁーーーー
パチッ・バチッ、留め金を外す堅い音。
そして砂漠の上に鉄の胸当てが落ちた。
勇者は鎧を外した、その鎧は重すぎたからだ。
堅く重い革靴を脱ぐ、その靴では思うように歩め無いからだ。
篭手も盾も外した、それらは邪魔になるからだ。
勇者はオオバサミを掴み、そして構える。
自分の信じた身体と、叩き込まれた技。
それらを一つにし、目の前の強敵を倒す為に。
「なにしてるんですか!鎧を脱いであの拳が中たったら・・」
どっちにしても、死ぬ。
なら、鎧は重い・盾も篭手もいらない・靴も動き難い。
真剣勝負ってのは、一撃でどちらかが死ぬもんじゃないか。
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