第55話これは砂漠の物語
日の光に浮かぶ砂色の壁、勇者の足元に広がる大地の砂と同じ砂でこねて作った日干しレンガの壁。
町中を砂で覆い、大地の保護色が無知な旅人を拒絶している都、砂漠の交易都市オアシス。
(って無知な旅人ってオレ達も同じだな。
位置をある程度把握して無いと日中でも見落とすぞあれ。
防犯とかそんな意味もあるんだろうが・・死ぬかと思った)
限られた水・限られた生存領域、そんな場所を魔物から・・外敵から守る為にカモフラージュしてこの町を守り続けている壁が勇者達には見えていた。
「アレがオアシスです!ようやく・・ようやく見つけました!」
・・そうだね、ホフメンくん。本当によかったよ。
「見た感じ、かなり閉鎖的に見えるけど・・入って大丈夫なのか?」
どう見ても、『一見さんお断り』って感じに見えるぞ。
「フッフッフッ!違うんですよねぇ・・それが、要は自分達の事を知らない人間が来ると町が荒れるのを警戒しているんです。
でも、私達は・・この場所を知っていて見つけた・・つまり」
「流れ者はお断り、だが旅人の中継地としては歓迎されるのか?」
金と物資を落とす商人も含めて。
増やす人口はオアシスの民だけ、カネや物資を落とす旅人が出入りする事は自由。
[正し、場所を知る者だけ]か。
統治者が考えたのならオアシスの統治者は商売を・・経済を知っている、頭のやつだな。
「・・ヤール、認識阻害はどの程度いける?ゴラムも[多少大きな人間]で通せるか?」
ゴーレムの大きさは勇者達が中に入っている馬車の天井と同じ高さだ、横幅もほぼ同じ・・普通に大き過ぎると思う。
ふふふ、「待機で」
「で、あるか」
予想通りの答えが返ってきた。
キラーパンサーくらいならギリギリ[大きな猫]でいけたのだろうけど、やはり無理であったか。
「ですが彫像として不審がられない程度には出来ますよ・・ただし動かなければばれない程度ですが」
「まあそれでいいか、馬車の見張りもあるし」
と言うことで町の近くで馬車を止め、勇者達は砂漠の町[オアシス]の入り口をくぐった。
(すまんな、少し町を見て夜になったら泥棒に入るだけなんだが、それまで馬車を頼む。お土産の[足の速くなる装備]ってのはお前にやるから)
・・しかしアレだな、
堅く・腕力が強く・素早いゴーレムとか、敵からしたらインチキもいいところだろ、俺たちからすれば頼りになる仲魔の完成だから良いんだけどね。
「それにしても・・」
男は焼けた肌を布で覆ってはいるが鍛えられた筋肉が布をもり上げ、手と指先がガントレットのように硬そう・・鍛えてあるのか。
「砂漠で鉄の武具は身体を焼きますからね、拳と・・ブーメラン・あとは弓ですかね、それで戦うんですよ」
近距離は拳・遠距離は弓と投擲武器か。
夜は姿も見えない程暗く明かりを付けると敵の的になる、
そして昼間は暑くて鉄の防具なんか着けて戦ったら立っているだけで火傷する。
砂漠の兵士が少数でも強いのはそういった天候・地形を熟知してゲリラ戦を使うからだろうか。
(夜中に鎧のこすれる音も立てず陣地に潜入、暗い真夜中に素早い拳・体術での戦闘する集団とか、敵からしたら嫌過ぎる。
もし失敗しても、鎧を着けないなら逃げる時も早いだろうし・・)
昼間は戦争の演習として、魔物と戦っているのか。
常在戦場とか、戦闘民族の血が濃すぎるだろ。
男は腰にブーメランを差し、女性は・・あんまりいないのか?
「ほとんどの女性は、昼間は女王様の所で働いているのですよ。
お年寄りは体力の関係で室内に、子供達は訓練場か神官様の所で勉強ですよ。」
交易都市だから算数と多国語は必須、そのほかにも商売をやるなら他国の文化や習慣を学んでおけば役に立つからか、すげぇ現実主義というか実用主義というか・・
[商武合一]合理性の塊みたいな感じだな。
(資源も無く住める土地も少ない砂漠の人間だから、無駄をそぎ落とした生活をしないと生きて行けないんだろうか)
「取り合えず・・休む所を・・」
ボーと立っていても暑いだけだ、なので勇者がキョロキョロと日陰を探していると
「旅の人かね?・・水をお求めなら酒場を案内しようか?」
腰を曲げたフードの男[多分老人]に声を掛けられ、勧められるまま酒場に行く事になった。
「ありがとうございます、、どなたで?」
「ああいいよ、こうやって旅の人を酒場に案内するのが私の小遣い稼ぎの爺さね。
アンタさんは休む場所が見付かって、酒場は炎天下で呼び込みをせんでいい。
そしてワシは小遣いが手に入る、みんなが得するんだ、それが一番さ」
それに、上手く行けば・・旅人さんが一杯奢ってくれる事もある。らしい。
(ちゃかりと言うか、なんというか)①
「この町の話を聞かせてくれるついでなら、奢らせてもらうよ。」喜んでね。
ホッホッホッ「そうだねぇ、旅の人にこの町の話をするのも楽しみの一つさ」
そう言って笑いながら、彼は歩いて行く。②(おもしろい爺さんだ)
「いらしゃい!・・おっ爺さんまた連れて来てくれたのか、相変わらずすげぇな。
って、お客さんを放って置いちゃあまた爺さんに笑われちまう、お客さん全部で4人かい?ならテーブルだな。案内するぜ」
「亭主になってもまだまだだ、ワシを入れて5人だよ亭主。
この優しそうな旅人さんの顔を見たらわかるだろ?」なぁ旅人さん?
「・・ああ、同じ席で頼む。爺さんの酒はオレが奢るよ」
苦笑いで案内されたテーブルに勇者は銀貨を5枚・・6枚積む、コレで頼むって事なんだけど大丈夫かな?
「・・お客さん、あんたこの町には向いてねぇな。
この町は生きるも死ぬも金次第だ、値段も見ずに金を積んでたら尻の毛まで抜かれちまうぜ。
・・まあそれでもこっちは商売だからな、きっちりもらわせて貰うけどな」
酒はでかいピッチのようなコップで5杯、肉が大皿で積まれ、削った岩塩が皿にのせられて運ばれてきた。
野菜は堅い瓜科の物を薄くスライスしてあるし、後は・・豆、乾燥したマメを茹でて潰した物をスープ状にしたやつだった。
「ワシはナツメをいただくよ、わけてくれるだろ?」
「この皿のヤツか?なんかフルーツっぽいけど」甘いのと酒ってあうのか?
「歳を取るとね、甘い物の本当の美味さってやつが解るようになるんだよ。
ホッ、子供に戻っちまうのかね」
頭から被った日よけ布を取った男・・爺さんはニッコリ笑いナツメを口に入れもぐもぐとしてから果実酒を一口。
(くっそ美味そうに食いやがって)
「お礼にこのオアシスの昔話をするからよ、どうだい?聞くだろ?」
ナツメを口にもぐもぐとしながら、じいさんは話し出した。
それは美しい女王の話。
遠い昔、砂漠に住む多くの部族が少ない水を奪い合い争っていた。
ある者は魔物と手を組み、有る者は商人を味方に、そして最も弱く勇敢な部族の長は団結と結束を武器にして戦っていた。
魔物の軍勢と手を組んだ部族は自分達に魔物の力を取り込み、商人達は彼等を恐れ逃げ出した。
だが勇敢な長は身体が弱くとも戦いを止めなかった、そしていつしか彼は他の部族すら束ねて魔物達を撃退していく。
その側らに強く美しい戦士を立たせたとき、弱かった族長の率いる部族には、勇敢な心と強い力・そして団結する戦士達がそろったのだ。
「・・それが今も続く、女王様とこの町の歴史だよ」
だから砂漠では勇敢な戦士は尊敬され、商人は彼等に守られ、女王が統治しているんだ。そう町の老人は教えてくれた。
何となく解る、多分魔物と手を組んだ部族は強力だったのだ。
でもって人間ってのは、強すぎる敵が現れた時は団結する。
数で勝り背後も横も気にせず兵士が戦えるなら、魔物には勝てなくても魔物と組んだ部族は倒せるだろう。
(あとは、統率者の能力しだいか)
「その・・戦士ってのは・・椰子与様って言ったりするのか?」
「噂じゃよただの噂。
遠い海から船に乗り、砂漠を越えて鬼[魔物]退治。
そんな英雄の血が王族に入っているかも・・てな」
「確かに、普通に考えたら矛盾だらけだよなぁ」
なんでわざわざ海を越えて英雄が現れる必要があったのか・・とか。
(漂流して来たとしても・・都合が良すぎる、やっぱりただの作り話か)
「本当の所は当時の族長様が強さを隠していたのかもしれんし、海から流れ着いた奥方様を守る為に英雄にしたのかも知れん。
なんせかなりの熱愛だったとか、族長が求婚し彼女は直ぐに受け入れた。
そんな、ひと目惚れのような話が吟遊詩人達に歌われておるし」
「いきなり現れた英雄が男達に武術を伝え戦い方を教え、さらに王族と結婚するってのは出来過ぎだからな。
詩人達は話を盛るのが仕事みたいなもんだから」
「それだけ、当時の族長達をまとめるには伝説が必要だったのじゃろぅな」
流れ着いた漂流者と結ばれる為に、当時の王が必死になって覚醒したって感じだろうか。
(ひと目惚れした女の為に王になり、彼女の名前を英雄にまで奉り上げる・・余程惚れていたのか・・)他人の色恋ほど、イラッとくる事の無い彼女いない勇者だった。
「それじゃお爺さん!ボクからも聞きたい事があるんです!
この町のバサーの話を聞かせてください!あとこの町の名物とか!あとあと・・」
「ほっ、そっちの兄さんは商人かい?若いねぇ・・」
老人はホフメンの顔を眺め、目を細めて笑う。
・・・・・
ぐびっ・「しゃべってばかりで喉が疲れたよ、じじいを休ませてくんねぇかね。
・・ん~~じゃあ兄さん、アンタ達の話も聞かせてくんねぇか?
酒の肴さよ、適当な話でもいいからよ」
(酒をおごり過ぎたか、、、ほろ酔いになった爺さんに聞かせる話ってなぁ・・・)
返事も聞かず話し続けるから、昔話も悪くなかったから良いけどさ。
「そんじゃあ、オレの旅の目的ってヤツでいいか?
過去の事なんて話してもつまらんし」
人に好かれたり、格好良かった事なんて無いんで。
(ん~~ん、だんだオレもけっこう酒が回ってきてる感じが・・)
・・・・・
「ほうかほうか、転職なぁ・・船かぁ・・ワシも昔、船に乗った事はあるが・・
すんげぇゆれっからよぉ・・・
砂漠に帰って来たんじゃ・・
『船酔いと港に残した女にゃ気を付けろ』って船長に言われたのを思い出したよ・・フヒッ」
どんな船長だよ全く、って「爺さん、もう限界か?大丈夫か?」
「ああ・ええのう、こうやって旅の人から話を聞いて、酒を飲んで・・ワシは幸せな人生じゃ。
・・ああ、そろそろお開きかえ。
それもええ、少し寝たら、また酔える・・人生は酒と同じじゃあ・・」
爺さんは目をとろめかし、瞬きもゆっくりと半分寝ぼけ初めていた。
「ああよく解らんけど、そうだな」家はどこだ?仕方ないから送ってやるよ。
「兄さん大丈夫だ、その爺さんの家はこの店の向かいだからよ、這ってでも帰られるから・・いつもそんな感じなんだよ」
酒場のオヤジは呆れているのかなれたように食器を洗っているし、
多分少し寝かせていればその内に起きて帰るのか・・すげぇな。
「でもまぁ一応、向かいまで送ってやるよ。
こっちも・・お開きっぽいしな」
酒と肉、瓜もナツメも残りは全て・・一人・・1匹が溶かしたし、
本当に大丈夫なのかスラヲくん?本当に他の人間にはどう見えているんだ?
隙あらば身体を伸ばし、皿から食い物を奪っていくスライム・・う~~ん。
(岩塩を掴んだ瞬間ビックリしてたけど・・伸ばしてるアレ、舌なのか手なのか・・解らんなぁ)
「ありあ・ありあとう?なぁ」
酔っ払いに肩を貸し爺さんの家に担ぎ込む。
・・何も無い・・だれもいない家だった。
「・・家族もよ、息子の嫁は神殿で忙しくしていてな、息子は兵士として働いてんだ。子供は・・町の宝だからなぁ・」
働ける者は働き、子供は町全体で育てる。
それは良いことかもしれないが。
こうやって一人で爺さんが酒をのんで幸福だと言うってのは・・・
「いいんだよ、オレの時もそうだった。
オレもオヤジを置いて砂漠で魔物の数を減らしたり、商人の護衛をしたり・・まぁ一人が慣れちまうんだよ、これが」
少し寂しそうな目をした爺さんは、なにも置かれていない机に目をやり、そして目を閉じた。
(順番・・か)
親は家族の為に働き、子供達はじいさんと一緒に家で待つ。
そして子供が大きくなって孫達の親になれば、親だった自分がじいさんの席に座り孫達と一緒に家族を待つ、、、そんな砂漠の家族の形、か、なんか物悲しいな。
「そっか・・まぁいいか、長生きしろよ爺さん」
また、今度戻って来た時は別の話を聞かせてくれよ。
「ああ、長生きするさ。あんた見たいな旅人に話を聞かせて・・酒呑んで・・
ああ、忘れる所だったよ。
あんたはまだ旅をつづけるんだろ?なら砂漠で見つけたこの[小さいメダル]を持っていきなよ。なんだっけな、良い事があるらしいからさ」
爺さんは壺からメダルを取りだし、オレの手に乗せフラフラと床に敷いた絨毯の上に倒れてイビキをかき始めた。
・・[小さいメダル]・・?流行ってるのか?
人間不信の勇者、仲魔と共に。 葵卯一 @aoiuiti123
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