第5話

 飯を食って一夜を明かす、身体のあちこちが痛いのに体の中に有ったドロドロとした感じが消えていたのはなぜだろう。

(・・殴り合ってスッキリした、とか。。。追われてるのは何も変わらないんだけどな)


盗賊のアジトの床でごろ寝しただけで、まる一日熟睡したような気分だった。


「カン田、世話になったな」


 泥棒に入って殴り飛ばしたオレの言う言葉じゃないが、宝箱以上の何かを手に入れたような、、う~~ん。


「そう思うならもう少しオレ達の世話しろよ、新入り」


「新入りじゃ無ぇよ!

そう言う減らず口がきけるならもう大丈夫だよな、、、少しだけ教えて欲しい事があるんだよ。

 カン田お前、オレが部下を殴り飛ばす時黙って見てただろ。なんでだ?」


 あの隠し技はとにかく集中する必要がある、やつの位置からなら背後から襲う事も出来た筈だ。


「部下が死ぬかもしれない、そうは思わなかったのか?」


 少なくともアレは人が殺せる技だ、あいつが生きているのは運が良かっただけだ。


「・・ふぅ・・お前、自分の顔をあまり見ねぇくちだろ?

あの時のお前の顔な、人殺しのソレじゃ無かっんだよ。


それにおれが仲間を馬鹿にした時は黙っていたが、お前はその仲間を信じて足止めをさせた」


『仲間を信じるヤツに、おれの仲間は殺せない』

そう思ったから、と言った。


「そんな今時珍しいヤツと、おれは戦いたかったんだよ。拳と拳・1体1でな」

「おれが、受けないとは思わなかったのかよ」


「結果はオレの挑戦を受けただろ?これでも盗賊家業は長いんだ、

そいつがどんなヤツかなんて大体わかる。

[オレは良い人」見たいな顔で綺麗な服を着飾ったヤツが、ドブに落ちた獣の死体より臭ぇ汚ぇことを考えてるヤツなんて何度も見てきたんだ。

悪党には悪党を見る目ってのがあるんだ、、、お前の顔はそうじゃなかった」


・・・・


「そんなオレが断言してやるよ。

お前は・・こっち側の人間、悪党にはなれねぇよ。

お前は間違ったりせず、そっちを歩いて生きろよ」


・・・なんかこいつの部下やっても、いいような気がしてきた。

でもまぁ、おれもおたずね者だから迷惑かけるだろうし・・


「そっちはこのまま泥棒を続けるのか、いずれ捕まるぞ?」


「あ~~そうだな。

 おれもこいつらも、やんちゃするのは最後にするさ。

痛いのはもう勘弁だからな・・・そうだ、こいつを返してきてくれ」


 カン田が遊び飽きた玩具のように黄金の冠を放り投げてきた。


 キラキラと朝日に光る宝石と王冠、放物線が作る終点・最後にオレの腕があった。


「盗んだヤツが返しに行くなんて、格好悪いだろ?」

覆面の下の目がウインク、、筋肉ダルマのウインクとか超似合わねぇから。


・・・まぁいいか、カン田親分らしいな

「ああ、お使いは、なれているよ」


 そうだな、こんなスッキリとした気分での、お使いクエストは始めてな気がする。


「・・なぁ、お前、以前どこかで・・」


「知らん!・・さぁな・・・知らないな、どこにでもあるような顔だからな。

他人のそら似だろ・・」


 一瞬の怒気を誤魔化すように声を上げたオレは顔を見られないように下を向いたまま、カン田の顔を見返す事が出来なかった。


「そら似か、まぁそうだな。

 お前もオレを見習って格好に気を付けたら次ぎ合う時は忘れねぇからな!

じゃあな!」



(・・フッ、全身タイツに覆面マントなら誰が忘れてくれるってんだよ。。。

最後まで良い男だなカン田・・それに比べておれは・・)


「じゃあな」

 多分気が付いたが、とぼけてくれたカン田に肩越しで手を振って答えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 塔の外は晴れ、入った時とは別の世界に見えた。

 オレは王冠をボロ袋にしまいあの城を目指す、お使いなんてずいぶん久しぶりだ。


 城までは走って行けば半日はかかる距離だ、なんで王族のために走ってやらないと行けないんだとのんびり草原を・丘を・林を歩く。


(少し疲れたな・・それに王冠を返すにしても、オレが顔を出すのはマズイよな。やっぱり・・)

 隣国・国王同士の繋がり、連絡手段を持っていると考えるべきだ。


まさか『自国の勇者を闇殺しようとしているから』とは言わないだろうが、

一国の最高権力者だからな、個人を縛って捕らえる名目なんか簡単に作れるはずだ。


 王族なんてそんな物、信じるに値しない。

 カネと報奨は欲しいが、それを命と引き替えにはしたくない。

それに・・


(王族の出す褒美は元は市民から奪い取った税だろ、なにが嬉しくてそんなヤツらの出す物に頭を下げて貰ってやらなきゃいけないんだ)


 おれは権力者の犬じゃないからな、市民から搾取しかしない盗人の出す餌に、ヨダレ垂らし・尻尾振って媚びるような犬の真似が出来るかよ。


 そう思うと、この王冠がひどく穢れて見えた。

重みも・腰に擦れる感覚も不快だ、重いだけのゴミと大差ない。

叩き潰してインゴットにして売り飛ばしたほうが・・・・


(男と漢の約束だからな、はぁ・・今更ぐちぐち言うのは男らしくないか)

 それさえ無ければ、その辺の岩にぶつけて砕いて捨てていたかも知れなかった。


「この辺りで少し休憩だ。

城には人が減った時に入るから、その辺の森で夜まで休むぞ」


(その間ピョートルはどうしようか、脅してあるから逃げるとは思わないが・・放置したら野性に返るのか、それとも人間の冒険者に襲われるか?)


 判断が付かない、魔物を城に入れるのは騒ぎになるだろうし・・う~~~~ん。


 片手間で角ウサギをさばき、堅いムカデを分割して殺す。

多少堅くなったバッタをバラシ、デカいナメクジを斬り殺す。


「そのスライムの好物はどれだ?それを・・」

 スライムはおれが何かを言う前にバッタを飲み込み、ムカデで触手を伸ばしていた。なんでも食うぞ、そんな意思を感じる。



「・・勇さん、すみません。こいつ、勝手に・・」

「いや、いい。それよりウサギ肉をバラすから、周囲を見ていろ・・喰うだろ?」



・・・森の中で火を焚き肉を焼く、少し休んだら面倒な[仕事]が待っているんだ。

今は何も考えず体を休ませたい。


───────

・・・殺気?それも・・けっこうな数、なんだ?


殺意では無く殺気、遠くから覗き様子を見ながら囲んでくる。

まるであの町のヤツらのような・・


(違うか、あれは嘲り、もっと不愉快な視線、こっちは敵意か)


「どちらにしても、遠巻きでコソコソ見られるのはいい気分じゃないな。何者だ?」


 片手に銅の剣・片手に鱗の盾、数は多そうだが斬って裂いて包囲を抜けるくらいなら出来る。

(敵さんが、本職でなければな)


「ピョートル、いつも通りだ。身を守れ、命を大事に」


 構えたオレ達の動きを合図に包囲を気付かれたと理解したヤツらが木の陰から姿を現わした。

(ああ・・ああうん・・神様ってのは、本当に性格がいい)


 オレ達・・オレを囲んでいるのは弓を持った小型の魔物、リリパットと地面を打つ

地精ノッカー、それと・・・なあ?


「同族だなピョートル、お前のお仲間が打っ殺されにわざわざ来てくれたぞ?」 

笑えよ、まとめてナマス斬りにしてやる。


「うっ・・動くな、こっちの数は、解るだろ。動けは・・弓を打つ」

「打てよ撃った瞬間戦闘開始だ、お前らは全員ここで死ぬ。おれが殺す」


そうだ、戦いはこうじゃなければな・魔物ども。

これだよ、しゃべろうが集まろうがお前らのいるせいで・・お前ら魔物のせいで、オレが・・勇者が殺し合いをしなきゃならないんだ・・お前らが全部死ねば・・

勇者は不要になるんだ・・


「さぁ撃てよ?撃たないのか?

撃たないなら、こっちから行くぞ?」


 純粋な殺意・魔物を殺す・魔物は殺す。

勇者とかそんな物は関係ない、お前らに人生狂わされたオレの怒りでお前らを殺す。


 ザワッ、、、

オレが1歩進むとヤツらが半歩退く、後1歩・後1歩進んだらそこが境界だ、


走り・詰め寄り・殺して殺して・・・ああそうだ忘れていた。


「ピョートル、向こうにまわってもいいぜ、まとめて殺してやる。」

 後から斬られたら多分感情のコントロールが出来なくなる、形もなくなるくらいグチャグチャにしてしまうかもしれない。


少しは役に立った奴がそこいらの魔物と同じようにぐちゃぐちゃなんて、つまらないだろ?今なら、小さい墓くらいは作ってやるくらいの心の余裕があるからさ。


それにこいつも仲間と一緒に死ねるなら本望に違いないだろうし。


(墓に名前も刻んでやれる、、、魔物と人族の関係に戻るだけだよな)


「お!お前!コレが見えないのか!

この数が!それに、後のそいつ!なぜ人間に従っているんだ。

お前も騎士なら魔王様に従え!」


「ああ言ってるぞ、行けよ・・

そうだな・・お前は多少役に立ったからな、痛みの無いように、バッサリ一撃で殺してやるからな」


「・・・」

 ピョートルはプルプル震え、オレとヤツらの顔を交互に見て困惑しているようだった。


(さて、言うべき事は言った・・違うな・・まだ言うべき事が残っているか)


「おいソコのヤツ、こいつは自分の家族スライムを守ってオレに従わされているだけだ。

 逃げたらこいつの同族・・つまりお前らを根切りして皆殺しにするともオレは言った。だから気にすんな、こいつはお前達の仲間だよ。そして今からお前達と同じ土に還るんだ」


さぁ後1歩だ!


「まっ!待って下さい!勇さん、少しだけ待って下さい!

お前達も少し待て!この人は強いしオレ達は弱い、戦いにならない戦いは意味が無い!」


・・・後1歩という所で、こいつは水を差す。特技か?・・・


(今まで役に立った分くらいは、待ってもいいか・・)

遺言を言うくらいの時間は与えてもいいか。


「解った、そこのリリパット3秒以内に弓を下げろ。話くらいさせてやる」

そうじゃ無ければ、この場で殺す。

 おれは言葉通り、「3!」数を数え始めた。


(まぁ従う訳は・・いないだろうなぁ)


 ざわつく。

 ヤツら表情が曇り、お互いを見合い何かを言っているようだが。


「2つ!」


おれの声にビクッとチビが跳ね、矢が飛んだ。

ヒラヒラ・フラフラと飛ぶ矢はオレの足元に刺さり、矢を撃ったヤツが振るえて腰を抜かした。


ダメだろこんなんじゃダメ、ダメ過ぎる。


(こんなんじゃない、こんな殺意の無い矢では、始まりにもならないんだ。

殺し合いの始まりは、殺意がないと・・・つまらないだろ?)


 オレはニヤリと笑い、最後の言葉を声にする


「1!」さぁ待ったぞ、待ってやったぞ、さあ殺そう・殺し合おうか!



「お前達早く弓を下げるんだ!

 解っただろ!この人は約束を守る!待つと言ったら待つ人間だ!

お前らが弓を下げたら話しくらいはさせて貰える、それともここで全員死にたいのか!」


ピョートルの叫びでリリパット達が一斉に弓を下ろした、なんだよ。やらないのか?


「いいんだぞ?殺し合っても?」


「勇さんは黙って下さい!」「プギャァァ!」


 ピョートルだけじゃなく、スライムにまで怒られた。

チッ、しょうがねぇ。話をさせるって言ったのはオレだしな、


(なんでオレ、スライムに怒られるんだろう?)


・・・・

「人間は出て行け!この森にはもうお前らなんかの居場所は無いんだ!」

「また、オレらの森になにか持ち込むつもりか!出て行け!」


 出て行け・出て行けとうるさいなぁ、そうガタガタ言わなくても日が暮れたら出ていくさ。

それまでの・・あとしばらくの間は黙っていろよ・・

こっちはいつでも戦闘準備は出来ているんだからな。


 不意伐ちでも無ければこいつらは敵じゃない、一人でも皆殺しにできる。


「勇さん・・もし、もしも、彼等らの問題を解決してくれるなら。

オレは魔王様では無く勇さんに忠誠を誓います・・壁となり・囮となって死にます・・」


「いらん!そんな物!」

きっしょく悪い!他人のために死ぬだと?

 忠誠だとか反吐が出る。


「いきなりなにを言いだしやがるんだよ、なんだ?こいつらは知り合いか?

それとも恩人か?」

ただの同族だろ? それとも魔物は人間と違って同族と言うだけで、自分の命を張れるのか?


・・・「知り合いではありません・・ですが、彼等も必死なのです。

自分達の生活を守るために、解りませんが・・勇さんは・・なにか特別な・・」


「特別な人間なんていない!勝手にオレを理解した風に言うな!」

 マスクの中の目は、まるで何かを信じるような・信じたいと思うような、

期待と不安を入り混ぜた光りが浮かんでいるようだった。


 気に食わない、ガキの時にオレを見る大人達の目に似ている。

 何かを期待して、それでも半分あきらめているような目だ。


(昔のオレなら・・その期待に応えるために作り笑いまでして・・クソッ!)

どうせ自分達でも、協力して努力すれば届く程度の困難を[勇者]に押し付けて、

あのクソッタレ共と同じ目だ・・・・それで期待した結果が出せないと、勝手に呆れて見下す。


『勇者のくせに』ってな。


・・・ふぅぅぅぅぅ・・こいつは魔物、人間じゃない・・なら。

人間とは違う結果・・


胸が痛い、また信じたいと・まだ何かを信じたいと思っているおれがいる。


信じない・信じない・信じない信じない信じない・・・・信じたい・・

 オレの中にいる、ガキの勇者が泣きやがる。

4年間、なんども事実を教えてやったのに。


チッ「忠誠はいらん」

が、オレの役に立ってから、野性に返しても居場所が無いってのは・・

後味が悪い・・よな。


(扱き使って、使い潰すことはしないと言ったしなぁ・・)

そう、これはただの約束。

最初にこいつとした約束だ、勇者の正義なんかじゃない。


「お前らに一つ聞く、お前らは『人間を喰ったか?』」

殺す・殺してしまう事はあるだろう、こんな世界だ。

でも、人間を喰う事は自分の意思で無いと出来ない。

人間を食料にするヤツを、助ける事は・・オレには出来ない。


「人間なんか喰わねぇ、人間はマズイ・・と思う。

・・オレらは、出て行って欲しいだけだ」


「どこからだ?地霊、人間はどこから出て行って欲しいんだ?」


森からなら、しばらくは無理だ。

だが・・何となくこいつらの言葉尻を捕らえると、どうも人間が何かしたような・他の人間が何かやらかしたような、そんな感じがしてくる。


「・・・お前もヤツの仲間だろ!信じられるか!」

「そこのスライム乗り・・・オレには仲間はいねぇぞ?」


 オレはだれ一人仲間など持った事は・無い。

 少なくとも足手まといのオレをヤツらは仲間だとは、思っていなかっただろうさ。


 オレがにらむとヤツらは口を紡ぐ、だからなんだ?


「お前ら、話は聞いてやる。それが約束だからな・・・」

 それが、今からオレが行く森の奥に行く理由だった。


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