第6話

「それで?その悪魔の家ってのをなんとかすればいいんだよな?」

先頭を進むスライム乗りは振り返らず、オレの背後からはリリパット達が続いて歩いていた。


「そうだぞ人間!悪魔だ悪魔がやって来て。オレ達を追い掛け回して居場所を奪ったんだ!」


 オレのズボンを掴む地精だけが返事を返してくる・・のはいいが、ズボンを放せ!伸びる。


「その悪魔に住処を奪われて森の浅い場所に集まってたってわけか」


森を出れば人間の領域だ、こいつら程度の魔物なら簡単に狩り尽くされる。そんな危険を冒さないと駄目なくらい追い詰められているってことだろう。

特に集団で集まっているなら、狩る方からすれば願っても無い。


(オレの知ったこっちゃない・・しった事じゃないんだが・・)



「人間が住み着いた時から、この森はおかしくなったんだ。

 オレ達だって喰わないと生きてはいけない。

 なのに悪魔には話も通じない。

 霧を出して森を変え、ただ我々を追いやり・追い出したんだ」


『生存競争に負けただけだろ』と口から出そうになった。

 でもまぁ、悪魔とやらを持ち込んだのが人間なら、その始末は人間が着けるのが道理だろうなぁ・・・・

(チッ、どこの馬鹿だ面倒な事をしやがって)だからバカは嫌いなんだよ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「この先だ、この霧の先に悪魔の家はある。

オレ達はこの霧に迷うと元の場所に戻ることが出来ないんだ、人間はここにある道を通っていけば家に着くって話だ。

 悪魔は霧の中に入る物を排除するからな、どうだ!恐いなら引き返していいぞ人間、そして二度とこの森に入って来るな!」


安い挑発だな、おい。

「そうやって他のヤツも追い出していたんだろ?」

 でないと、この霧の中に家があるとは言えないからな。

 強い悪魔がいると脅し、自分達の生存領域を守る。

悪魔がいるかどうかは臆病な人間には確かめようもないからな、

頭を使ったいい手じゃないか。


「悪魔は強い、オレ達は勝てない。それでも行くのか人間」


「地精、お前は良い奴だな。お前達はこの霧が晴れるのを待っていろよ。

人間の強さってヤツが、悪魔に負けないって事を証明してやるからな」


 そうすればこいつらはもう、人間を恐れて森の奥から出て来なくなる。

 魔物と人間は殺し合う関係だが、出会う事が無ければ殺し合いも無い・・・

(なんでオレが魔物の心配をしなきゃならないんだよ、、なんか調子狂うよなぁ)


「ん、」地精ノッカーがオレの手に回復薬を渡し、ズボンから手を放した。

(くれるって事か、、ほんと、なんだかなぁ)


「さて、弱い悪魔だといいんだが」

 オレ達は蛇行するような道を進み、立ち枯れた木々の間を歩く。

 しばらくして変な感覚、ゴワァンと耳鳴りのような失神する寸前の血圧低下に似た感覚がオレを襲った。


「・・・ようやくお出ましか、どれだけ待たせるんだよ。ピョートル、大丈夫か?」

 感覚の狂いはピョートルにも有ったように、頭を振って目眩に耐えていた。


「いつも通りだ、お前は後衛で自分の身を守れ。オレが回復と言ったら回復だ」

 頭を振ったあとうなずくのが見えた。


これで良し、さて悪魔はどんなヤツだ?


カシャン・カシャン・キィ・キィ・・

 四つ足のソレは赤い目を光らせ、ハサミ?

 ペンチのような手を、開けたり閉じたりしてこちらを観察するように立ち止まった。


「オマタセいたい・・イタシマシタ・・ドノヨウA、ゴヨウデショウ?」


「機械?なんだお前は?お前が悪魔か」

 金属の塊が手足を持ち話す。機械か。こいつが悪魔ってやつか?


「ワタシ・・ワタシハ・オ・オ・キャク様、ハカセハ・オヤスミチュウデス・・

ヒヲアラタメ・・オネガイ・・シマス・・」


「博士ってヤツが悪魔なのか?それともお前が悪魔なのか」


「ハカセ・オヤスミチュウ・タイキョ・クダサイ・タイキョ・タイ・・タイ・・タイ」


ギュィッ、

何かの間接が音を立て、赤いガラスの眼球が点滅して光る。

機械が腕を突き出し、体を回転させ殴って来た。


(話の通じ無い・・ね、こいつが悪魔で正解か・・)


 なんの理由で誰がこんな機械を作ったのか、なんでこいつが他人を排除しようとするのか。

「こいつをぶっ壊してから、作ったヤツに聞けば解るだろ」


 ならやる事は一つだけだ。

 こいつを壊す、そのあとで博士ってヤツに話しを聞く、そして一発殴ってやる。


ガキッ!ンンンンン、なんだコイツ、クッソ堅い!


 全身金属鎧の堅さと腕の早さがヤバい!

 体ごと回転させ、金属の腕を振り回す。

 腕自体が鉄の棒だから、殴られたら振動が骨に染みて痛みが残る。


「回復」叫ぶ度に回復の光りが体を包む、何度同じように吹き飛ばされたか、

その度に回復を頼み、勇者は立上がる。


「オカエリクダサイ・オカエリクダサイ・オカエリクダサイ」

 四つ足の突進で体を吹き飛ばされ、何度も何度も鉄の腕を振り下ろされ殴られた。


(こいつ、舐めやがって!)

 攻撃自体は稚拙、だたそのスピードで振り回し・重さで押す、それだけの攻撃だ。

まるでこちらを殺すつもりが無いのかとにかく無茶苦茶に腕を振り回し、押し潰すような攻撃ばかりだ。


「勇さん!オレも戦います、指示して下さい!」


「指示はした。身を守れ、命を大事にしろ。回復だけでも十分助かっているから、お前は前にでるな!」


動きは読める、だが攻撃が通らない。あと一手、あと一手が足らない。


「勇さん!」


「うるさいぞ!自分を守るのに専念していろ!」


『ガブっ!』

・・・スライムがオレの足を噛んだ、・・・ああ、そうか・・

ピョートルの目がオレを見ている、この顔・マスクで見えないが、解る。


「オーケー解った。この機械退治を受けたのはお前だったな。

その本人が戦わずに見ているのは苦痛だからな」


 あの目は[決意]の目だ、アレ以上オレが無視をしていたらこいつ・・

ピョートルはオレを無視して突っ込んでいただろう。


(そう言えば、こいつの顔をまともに見たのは今日が始めてか?)


 背後をまかせていたのに、顔もまともに見ていないとは・・何をやっているんだオレは。


「だが、命令には従ってもらう」

「勇さん!」


「最後まで聞け、あまり前に出るな。

ここまでは同じだが・・ヤツを見ろ、ヤツの四つ足を・・・」


 1本、右後足の動きが鈍い。

 使い過ぎて関節が摩耗したのか、それともサビか傷か、とにかく後足に何かある。



「・・・ピョートル、ヤツの攪乱を頼む。オレはあの足をなんとかしてみる」

 折れなくても足を弱らせる事が出来れば、動きを鈍らせる事が出来る。


「とにかく攪乱はしても、前に出すぎるな。ヤツの攻撃はかなり痛いからな」


「大丈夫です、素早さには自信がありますので。な!」「ぴぎゃ!」


・・スライムが元気に答え、振るえてるのは自信の表れだろうか。

「行動・・開始!」


 二つに分かれて左右からの挟撃、右方向に走ったオレはすかさず[火炎]を放つ。

立ち上る陽炎の揺らぎと炎の熱、これだけでも攪乱の意味はあるはずだ。


 向こうではピョートルが盾を構え、機械の腕ギリギリ届かない場所で跳ね回り

上手く腕をかわしていた。良し、いまだ!


ふところからカン田の所で拾った鎖鎌を取り出し、鎖を掴み鎌を振る。

狙いは当然、ヤツの右後足だ。


「こっちだよ」

 ヤツの目の前に飛び出し、鎌を飛ばす。

 伸ばした腕を盾で防いで、鎖鎌の手を放したら・・どうだ?。


ジャリッ!


 回転したL字の鎌は蛇のように足に噛み付き、その関節を捕らえた。

 「良し!」

 急に足を捕らえられ、機械がその腕で鎖鎌を外そうとペンチのような手を伸ばしているが。

「そうはさせません!」体当たり!

 ピョートルが全身で突っ込み、ヤツの金属の体にぶつかった。


「馬鹿!」

 4つ足の一つを封じたからと言って獣は倒れる訳じゃない。

左の腕が体当たりの反動で下がったピュートルの体を薙ぎ払うように打ち飛ばす。


「[回復]!」「え?・・あっ[回復]」

 オレの使う回復と、ピョートルの回復が重なって光る。

 (ピョートルが反射的に回復するようになってたから助かった、、ふう)


 一撃で瀕死にされたのか、グッタリとして意識を飛ばしかけたピョートルの体が起き上った。


「・・・大丈夫だな、生きているな」


「すみません勇さん」


「気にすんな、こっちもアッチも必死なんだ。

 一瞬の失敗を引き摺ってたら、次ぎ動けなくなる」


(幸いまだ鎖は絡んでいるみたいだ、あとは動きをよく見て突っ込むだけだ!)


「ピョートル!動けるな?作戦は変らない、挟撃と攪乱、

 しくじってもフォローし合うのがチームだからな」


 ピョートルの兜がうなずき、オレが走り出すと同時に走り出した。


[火炎][火炎]二つの炎がヤツの目を狙う。

(これで呪文4つ、まだまだいけるか?)


 クソみたいなレベルアップの声も、多少は今のオレに役立っているようでムカつく。

同時にピョートルの体当たりがヤツの左腕を弾く、それでいい。


(あれなら反動も少ないな、良し!)


騎士の攻撃を嫌がり左手を振り回し、右手だけで鎖を外そうとする機械の背後に回ったオレはさらに魔法を使う。

[氷結]

 狙うのは熱く熱[ねっ]したしたその顔面!


『ジュッ!』

 空気中の水分が集まって氷りを作り機械の顔で蒸発、蒸気ならどうだ!!。


(膨張熱で割れたら・・なんて都合が良すぎる事は考え無いんだよ!)


 狙いはあくまで足だ。

 金属の体に皮膚感覚が有るなら目をつむってでも鎖はとれるだろうが、ヤツは機械。

 ガチガチとペンチが空振りを繰り返している。

その隙を狙い、鎌の刺さった関節を銅の剣で叩き付けた。


カァァンン!(まだ固いか!あとちょっと・・)

「ピョートル!」


 オレの叫びに顔を向けたピョートルは、ヤツの左足を叩く。

振動で反射的に左に向いた機械の隙をオレは逃さない。


「死ネェェェェ!」

 鎖鎌の刃が刺さった上に跳び、落下しながらの跳び蹴り!


ガキッ・・ン!

  刃が完全に球体関節の隙間に入り込み、バチッと何かが弾けた。


「・・おし、離れるぞ!」


 一人と二体が飛び退いて距離を取る、

 機械をよく見れば右前足にも鎖が絡みジャラジャラともがいていた。


「よし、作戦成功。お疲れさま」


「?なぜです?まだヤツは・・」


 オレが石を掴んだ瞬間に何を気が付いたのか、なんだか非常にあきれられているような顔。


「お前も石を拾えよ、泥でもいい」

 遠くからひたすら投擲、敵の攻撃が届かない位置からの攻撃は戦いの基本だろうが。


「・・その、勇さん。その戦いは・・あまりにも・・」

「勝ちゃぁいいんだよ、勝ちゃぁ。

大体相手は機械だろ?仁義とか心とかは無いんだ、物を壊すのに一々真面目に戦えるかよ」

ただ壊す、それだけなんだからさ。


「ぴぎぃぃぃぃ・・」

スライムのやつもあきれたような声を出しやがって。


 投擲・カンッ、投擲・・カンッ・・

拾っては投げ、拾っては投げる。どれくらい投げたのか肩が熱く痛む。


二人の投石で機械は体中がへこみ、泥で赤い目は塞がっている。


ジジッ・・ジジッ・・オカエリクダ・・サイ・・ハカセ・・ハカセ・・


「勇さん・・」

「ああ解ってるよ」

 オレも、なにかすごい嫌な事をしている気分になってきていた。


(戦いで敵に同情するなんて、馬鹿のする事だと思ってたんだけどな)


 ゆっくり近づきその機械の首に剣を中てた、たしか介錯って言ったっけか。

両手で銅の剣の柄を掴み、渾身の力で振り落とす。


 ゴトン・・

 大きな石が転がるように落ちた。

 光りの点滅がやがて尽きるまで、ハカセ・・ジジッ・・ハカセ・・ハカセ・・ジジジ・・ハ・・カ・・セ・・・て。


ふぅ「・・最悪な気分だ・・その博士ってやつを一発殴ってやらないと、気分が悪いな」

 おれは、ヤツの頭くらいは拾ってやろうとして屈む。

 その瞬間、機械の背中が開いた。


心臓?動力?体の中心の所に、まだ熱のある石・・鉱石が鈍く光っていた。


(コレが機械の魂ってヤツなら・・)頭よりこっちを持って行くべきか。

 機械の心臓・動力の石に触れた時、目の前が深い霧に包まれ周囲の音が消えた。


(ピョートル?・・なんだ?)倒したはずの機械はそこから消えて無くなり、

深い霧は足元しか見えないくらいに白くなり眼をふさぐ。


「ピョートル!聞こえていたら返事をしろ!その場から動くな!」


(・・・返事は無い・・か)


 何かの魔法かトラップか、鉱石を取ったらどこかへ飛ばされるような術が仕込まれていたのだろうな・・・面倒な。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る