第43話 異変

 ギルと梨紗が宿屋に帰宅した翌日、アスカとギルは再び竹林の調査におもむくことになった。


 梨紗は宿屋でラインと一緒にお留守番であった。


……。


 基本的に無口な二人はあまり喋ることがなく、無言で道を進んでいた。


 竹林に入ると、以前と同じように巨大化した野生生物が襲いかかってきた。


 とぐろを巻いているその全長は2メートル程度、緑色に光る身体は鱗で覆われ、ギラリと細めた黄色の目は、線のように残る鋭い光を発していた。


 アスカは大剣を握ると、蛇型の野生生物に向かって、大剣を叩きつけた。


バキリ


 蛇型の野生生物は顔面に打撃を喰らうと、視界を失ったようにふらり、とよろけ、そのままとぐろを巻いて苦しんだ。


「今だ、行くぞ!」


 アスカがギルに呼びかけ、二人は素早く竹林を薙ぎ払い、進んだ。


 しばらく進んでいると、危険地帯が近くなってきた。二人は一度、安全な場所で休憩することになった。


 アスカが大剣を背中から手元に下ろし、ギルが動物よけの樹液をつけていたその時、白色の巨大な狼が竹の影から現れた。以前、ギルが干し肉を与えた狼のようだった。


 白い狼はギルの匂いを嗅ぐと、ワオン!と一声発し、危険地帯の近くへ向かった。


 ギルとアスカは顔を見合わせると、ギルは頷いて意志を示した。


 二人が白い狼の後をついて行くと、そこには白い狼とその家族が大きな一本の竹の近くで集まっていた。白い狼には、つがいとその子供という家族が存在したようだ。


 目の前には、割れて中身が見えた大きな竹と、それを囲むように複数の竹が半円状に並んでいた。


 割れた大きな竹の中は真っ暗で、地下深くまで続いているようだった。


「地面が見えないな。一度冒険者ギルドに報告すべきか。」

「そうだな。」


 ギルが冒険者ギルドに戻ることを提案すると、アスカがそれに同意し、再び冒険者ギルドに戻ることになった。


☆★☆


 一方、宿屋では、ラインは宿屋の受付をしていて、暇を持て余した梨紗はそのカウンターの上に乗っていた。


 客足が途絶えてくると、あくびをした梨紗を見たラインは、ポケットから赤い木の実を取り出した。


「猫ちゃん、実はね、昨日の竹林でこれを見つけたんだ」


 梨紗は鼻先にある赤い実の匂いを嗅ぐと、鼻に皺を寄せてそっぽを向いた。


「あれ、好きじゃなかった? ごめんね!」


 ラインは慌てて赤い実を箱の中にしまった。


★☆★


 ハワード伯爵邸の執務室では、机に向き合ったリチャードは、部下からの報告を受けていた。


 最近、多くの竹林で蜂蜜のような香りの赤い実が確認されていた。


 現地で調べた者の話では、竹林で、日が経つごとに身体が大きくなる野生生物の個体が発見された、との報告があった。


 リチャードはその報告を受け、初期に竹林で異変があった、隣街の冒険者ギルドを訪ねることにした。

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