第36話 野生生物
シャキシャキシャキシャキシャキ
ギルと梨紗は朝になり、竹林の近くまでやって来た。ここら辺に生えている草は薬の材料として使われることが多く、売ったらお金になるようだ。
シャキシャキシャキシャキぶちっ
「……?」
さっきから聞こえてくる奇妙な物音が気になったギルは、何気なく顔を向けてぎょっとした。
そこでは、耳を伏せた梨紗が牙を剥き出しにして薬草を食べていた。カワウソがご飯を食べる時に流れるあの警戒音が聞こえてきそうであった。
のほほんとした普段の梨紗からは考えられないような形相に、ギルはすぐさま梨紗を薬草から遠ざけようとした。
「リョク! 食べてはだめだ。お腹を壊してしまう。(……大丈夫だろうか。)」
千切れた葉っぱをむしゃむしゃしながらこちらを向いた梨紗に、ギルは恐る恐る異変がないか観察した。
「にゃー『どうしたの? これ美味しいよ。噛めば噛むほど滲み出てくる苦味とコクが最高だね! いくらでも食べれるよ。』」
……どうやら大丈夫そうであった。なぜかいつもより澄んだ瞳をした梨紗を見てほっとしたのも束の間、突然何かが倒れる音が聞こえ、ギルはすばやく竹林へ視線を走らせた。
バキリ
大きな物体が竹をなぎ倒しながら平原に出て来た。それを目にした梨紗は、思わず食べかけの葉っぱを地面に落とした。
体長は1m程度。紫色のわさわさした体毛に狸のような縞模様のしっぽ。ちょこんと付いた丸みのある耳は、まるで巨大なアライグマのように見えた。
興奮しているのか全身の毛が逆立ち、牙を剥き出しにしてこちらを警戒していた。ぼんぼんになったしっぽに興味を惹かれた梨紗だったが、鋭い爪を見た瞬間、ギルの後ろに引っ込んだ。
ギルが上着の裏から何かを取り出す動作を見せたその時、紫の巨大なアライグマはてけてけてけとこちらへ走って来た。
思ったより素早い様子に、梨紗は危機感を覚えるも、ギルが吹き矢を吹いた途端、どさりと地面に崩れ落ちた。心配した梨紗はそろり、そろりとアライグマに近づいた。
よく見ると、アライグマは所々怪我を負っているように見えた。
梨紗はそれに気づくと、しっぽと耳をしょんぼりと下げた。
「野生生物の気が立っている。竹林で何か異変が起きているようだ。」
ギルは背負い袋から道具を出してアライグマの手当てをすると、ワイバーンのレイを呼んで冒険者ギルドへ向かう準備をした。
『魅惑の竹林。本当はもっと様子を見てみたいけど、なんだか危険な様子。等間隔に並んだ竹は普通の竹林と違って整備されてるように見える。どこか不思議な竹林の生態系、気になる、やっぱり気になる……。』
空を移動するギルの背負い袋の中で、あきらめきれなかった梨紗は密かに竹林に侵入する方法を考えるのだった。
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