第10話 ステラと除霊する猫(物理)

 ステラは母についての記憶がほとんどない。ステラを産んですぐに亡くなったからだ。


 ステラが小さかった頃に一度だけ、ステラの母について一緒に暮らしている伯父夫婦に聞いてみたことがある。

 伯父夫婦はその時、涙ぐみながら「私たちがついているから大丈夫だよ。」そう言ってステラを抱きしめた。


 今になって思うと、ステラが罪悪感に駆られないように気を使ってくれたのかもしれない。

 当時、幼児だったステラは不思議に思うことはなく、笑顔で「うんっ!」と返事をしたのだった。


 ステラはそのことを思い出し、涙をこぼしていた。伯父夫婦の気遣いは暖かく、そして苦しいものだった。


☆★☆


(あ、ステラだ!)


 梨紗はうずくまっているステラを発見したのだが、ステラの様子に違和感を感じた。

 膝に顔を押しつけて泣いているステラの両肩には、巨大な黒い幽霊が重そうに漂っている。

 ステラは、悪霊によってネガティブな思考に引っ張られてしまったのかもしれない。


 梨紗はステラを守るため、悪霊に猫パンチをくらわせた。


「にゃー(うちのステラに取り憑いてんじゃねぇー!)」


ぺしっ


 梨紗は悪霊をはたいたが、効果はほとんどないようだ。悪霊の防御力はかなり高いと推測できる。


(……こうなったら引っ掻いて倒す)


 梨紗はシャキーンと爪を出して集中すると、鋭い爪で悪霊を引っ掻いた。


シャッ


 悪霊はだんだん薄くなり、とうとう消えてしまった。


「にゃー!(ステラ、私だよ! 一緒に帰ろう)」


 そう言いながらステラに駆け寄った梨紗は、自分のしっぽが二つに増えていることに気づかないのだった。


☆★☆


「!!」


 突然両肩が軽くなったことに気づいたステラは、顔を上げて辺りを見渡した。


「にゃー!」


 梨紗が前から駆けて来ることに気づくと、ステラはと息を吐いた。


「トラちゃん〜! 少しもふらせて〜」


 ステラは涙ぐみながら、梨紗の毛並みをと堪能した。(特にほっぺの毛が最高!)


 梨紗を撫でて落ち着いたステラは、

(らしくないな、暗い気持ちになるなんて。)

 そう思い、気持ちを切り替えて梨紗に話しかけるのだった。


「さあ、帰ろう! みんなが待つ宿屋へ!」


 いつの間にか雨はんでいて、日差しで水たまりがキラキラと輝くのだった。

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