第9話 雨

 昼頃、受付カウンターで寝ていた梨紗は、カールとガイとシーナの話し声で目が覚めた。


「ステラ遅いっスね」

「雨が降ってきたが……心配だな」

「何かあったんでしょうか」


 カランカラン


 宿屋の扉が開いた音がした。


「いらっしゃいませ、少々お待ちください」


 ガイがそう言うと、シーナとカールは慌てて自分の作業に戻った。


 その後も次々と人が増えて忙しく、三人はステラを探しに行くことが出来ずにいた。

 それを見ていた梨紗は、三人の代わりにステラを探しに行こうと決意した。


 猫用の扉から外に出ると、ザバーっとバケツをひっくり返したような雨が梨紗の全身を叩いた。


(雨か……。ステラ、大丈夫かな)


 梨紗はぶるぶるっと水を払うと、ステラを探すために先を急ぐのだった。


☆★☆


 梨紗が目を覚ました頃、宿屋の外では、至るところで色とりどりの幽霊が浮かび上がっていた。


 青い幽霊は四方八方にぴょんぴょん飛び回り、たまに水溜りを跳ねたら通りすがりの人に泥がかかる。緑の幽霊は葉っぱで跳ねる水滴をじーっと眺め、黄の幽霊と赤の幽霊は雨から屋根のあるところへ慌てて避難していた。


 そんな中、住宅地の影になって薄暗く、不気味な雰囲気が漂うところで、人々の負のオーラを吸収した黒い幽霊のモヤが少しずつ大きくなっていくのだった。


☆★☆


 雨が降る前、買い物を済ませたステラは、宿屋に戻ろうと考えていた。


ピチョン


 頭がひやっとして、ステラは上を見上げると空は暗い雲に覆われていた。


「雨?」


 小降りな雨だと思った瞬間、ザバーっとバケツをひっくり返したように降ってきた。


「寒っ!(こんなに雨がひどいと食材がだめになるかも)」


 ステラは急いで宿屋に戻ろうと、紙袋を抱えて歩くペースを早めた時、フードを被った男の人とぶつかった。チラリと見えた顔色は青白く、体調が悪そうに見える。


「すみません! 大丈夫ですか?」

「ああ……すまない。大丈夫だ」


 フードの人はそう言うと、急ぎ足で去っていった。

 フードの人が見えなくなったその途端、ステラの体がと重くなった。


(えっ!?)


 驚き、怖くなったステラは急いで宿屋に戻ろうとするも、一歩一歩、進むごとに足が重くなっていく。


(……早く戻らないと)


 とうとう前に進めなくなったステラは、住宅地の端で小さくうずくまった。

 多くの人は雨から避難したからか、周囲に人がいる気配がしない。


 ステラは、この悲しい気持ちに覚えがあることに気づいた。

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