第11話 帰ったその後

 ステラが宿屋に着くと、カール、ガイ、シーナは仕事を中断してステラに駆け寄った。


「ステラ! よかった。……帰って来るのが遅いからみんな心配してたぞ」

「びしょ濡れじゃないか。ほら、座るといい」

「はい、タオル。ガイ兄さん、お風呂沸かしてきますね」


 カールは一番にステラに駆け寄り、ガイは暖炉の側に椅子を持ってきてタオルを敷き、シーナはお風呂を沸かしに走って行った。


 みんなの優しい心遣いを感じ、ステラの心はふわりと暖かくなった。


「ステラ、災難だったな」


 台所でポットを火にかけたガイは、眉を下げて言った。


「大変でした。まさか、こんなに酷い雨が降るとは思ってなかったです……」


 ステラの言葉に、カールは皿洗いをしながら、何か考えているようで考えてない顔で返事をした。


「朝は天気が良かったんだけどな。まあそんな日もあるよ」


 ステラが暖炉の前で温まっていると、シーナが戻って来たようだ。


「ただいま戻りましたー。ステラ、髪の毛まだ濡れてるよ」


 シーナはステラの髪をタオルで拭いた後、自分も暖炉で温まった。


 ステラはみんなに向き直ると、改めて言った。


「みんな、遅くなってごめんなさい。……ありがとう!」


 突然お礼を言ったステラに、みんなは笑顔で返事をしてくれた。


 その後、しれっと宿屋に入っていた梨紗が忍び足で歩いていると、すぐにガイに見つかった。


「に゛ゃっ」

「あっ、トラ公! ……お前も、外に行っていたのか」


 苦笑したガイは、後ずさりしてタオルから逃げようとする梨紗を、容赦なくわしゃわしゃと拭くのだった。


☆★☆


 次の日の朝、梨紗は朝ごはんを催促していた。


「にゃー!(ごはんー!)」

「ちょっと待ってろよ、今日は珍しいものが手に入ってな」


 ガイはそう言うと、何かわからないものを器に盛って梨紗の前に置いた。


 見た目は茶色い豆のようだ。梨紗は匂いを嗅いでみる。


(くんくん。こ、これは……!)


 梨紗は恐る恐る食べてみた。


パクッ

ねばーー

もぐもぐ……


(美味しい! やっぱり納豆だ!)


 梨紗は、異世界で納豆に近いものを発見し、なんだか嬉しくなった。


 ごはんを完食し、ねばねばになった口周りをペロペロした梨紗は、気分転換に散歩をすることにした。


 宿屋の猫用扉から外に出ると、空は快晴だった。水たまりが街の風景を逆さまに写し、キラキラ輝いている。

 梨紗は水たまりを上からのぞいてみた。


(猫がいる)


 そこには、キジトラではちわれの、緑の目をした猫がいた。


(本当に猫になったんだ……。)


 梨紗は今まであまり実感がなかったが、だいぶ猫としての自分に違和感を感じなくなっていた。


 水たまりを肉球で触ると、そこから波紋が広がり、猫の姿がぼやけた。

 その時、視界の端で動くものが見えた。


(ん……?)


 後ろを振り返ると、自分のしっぽが二つ見えた。

 思わず二度見した梨紗は、目を見開いて全身の毛を逆立てた。


「にゃーーーーー!?(なんでーーー!?)」


 梨紗はパニックになり、ひたすら自分のしっぽを追いかけた。


くるくる、くるくる、くるくる……


 梨紗は目を回し、フラッフラになって、ようやく尻尾を追いかけるのをやめた。


(しっぽがふたつ、しっぽがふたつ。これはもう、普通の猫じゃないじゃないかー!)


 梨紗は、ようやく現実を認識したのだった。

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