第27話 逃避
『ひぇっ……って、ステラ!?』
『……。』
梨紗が猫語で言葉を発すると、ステラはこちらに顔を向けた。顔色は青白く、いつもの三つ編みはほどけていた。……よく見ると、足元が透けていた。
(い、生霊……?)
——生霊とは、執念や怨念が体から離れ、霊体として具現化したものである。生霊は大抵、何らかの恨みを持った相手に取り憑き、悪影響を及すものだった。
なぜか生霊のステラには梨紗の言葉が通じるようだ。
冷静にステラの生霊と対話して、生霊化をやめるよう、説得を試みた。……だが怖い。
『ス、ステラ、落ち着いて聞いて。周囲の言葉だけが本当のこととは限らないよ。ステラは、新しい環境に疲れて
梨紗はそう言ってステラからリチャードを隠すと、ステラの目が暗く落ちくぼんでいった。
『……なんでワタシの邪魔をするの? トラちゃんは、ワタシの味方じゃなかったの? ねえ、なんで? ナンデ……、ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ。』
ステラの眉間に深く刻まれたしわはどこか哀愁を漂わせ、赤い髪の毛は炎のようにゆらりと逆立ち、メキメキと額を割って一本のツノが生えてきた。まるで鬼のような形相だ。怒りと悲しみを湛えたステラの目から、一筋の黒い涙が零れ落ち、やせ細ったその頬を伝った。
『きやああああああ鬼いいいいい……!』
飛び上がった梨紗はボンボンに膨らませたしっぽを丸め、足をもつれさせながら死に物狂いでその部屋から逃げた。
カシャーン
猫用ドアに体当たりして部屋に入ると、深呼吸をして落ち着きを取り戻した。
『ぜーぜー……と、トラウマになりそう……。逃げてきちゃったけど、どうしよう……ぴゃっ!』
梨紗がふと部屋を見ると、ステラが死んだように眠っていた。本体であった。どうやら、逃げてる途中で無意識にステラの部屋まで来てしまったようだ。
そのとき、再び思考に耽った梨紗は、何げなく見た先であるものを見つけ、一つの考えを思いついた。
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