第47話 完了
一行は慎重に地下に降りていった。
洞窟の中は薄暗い。天井を突き破って生えている竹の内側から淡い光が溢れていた。
「冷たっ」
天井から垂れてきた水が、一人の冒険者の頭に落ちてきた。
土の床には所々に水たまりができている。湿気が多いため、天井に溜まった水が土の地面に落ちてきて水たまりをつくったのだろう。
水たまりはきらりと反射して水紋を作った。
ギルを含む冒険者達は、先を歩く人が松明を掲げ、武器を持った冒険者が後に続いた。
しばらく歩くと、土の地面が規則的に耕されている場所を見つけた。そこで育った新緑色の蔦が、地面に刺さった渋い緑色の竹に巻き付くようにし成長し、地面から天井へ、姿を消していた。
所々で新緑の蔦から赤い実が実っている。
——ここが元凶なのか?
ギル達は地上にいる冒険者数人にシャベルを持ってきてもらい、全員で植物の根元を掘り起こす作業を行った。
人工的に耕された土にシャベルを入れ、根っこを切らないように慎重に掘り起こす。
全ての根っこを掘り起こすと、仕上げに除草剤を撒いてクエストが完了した。掘り起こされた根っこは、後に地上で焼却処分する予定である。
「それにしても、なぜこんな場所が作られてるんだ?」
「さあな。俺たちは黙って後始末をするだけさ」
「あ、ああ。……そうだな。」
冒険者は歯切れ悪くも言葉を留めた。
「……」
黙って見ていたギルは、踵を返し、冒険者ギルドに戻る道を進んだ。
☆★☆
冒険者ギルドでは、先んじて知らせに来た冒険者数人が、ギルドマスター、ジンにクエスト完了の報告をしていた。
「これで、赤い実の撤去は完了したか。」
ジンの言葉に、ギルドの受付嬢はほっとしたように表情をゆるめた。
「手早く済んで良かったですね。」
受付嬢の言葉に、ジンは肩を回して返事をした。
「そうだな。全く、人によるものとは迷惑なものだ」
「まあまあ、その分きっといい事ありますよ!」
「だと良いんだが……」
受付嬢の励ましに、ジンは疲れたように少し微笑んだ。
★☆★
ロレーヌ伯爵邸では、ベルナデットの夫、シア・ロレーヌが不貞腐れた顔で椅子に腰掛けていた。
「失敗したのか」
「はい。失敗しました」
普段から何を考えてるか分からない笑みを浮かべている従者のノートだったが、今回ばかりは真面目な表情を浮かべていた。
従者の、まるで失敗するのが当たり前だったかのような言い方に、伯爵はむすっとした表情で黙ってしまった。
「どこで気づかれた」
「5日前からです。偵察が訪れていました」
「……」
伯爵は怒って従者を追い払うと、部屋に閉じこもってしまった。
従者はいつものことだと思い、変わらず自らの仕事に取り掛かるのだった。
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