第25話 後ろ

フシャー!


 梨紗に追われているウィリアムは自室に逃げ込むと、扉を閉めて厳重にロックを掛けた。

 梨紗は扉をひっかいたが、しばらくして我に返った。


(はっ! そんなことよりステラは……。)


 焦った梨紗は、足をもつれさせながらも、急いでリビングに向かった。


 しかし、そこには片づけをしている黒髪の侍女しかいなかった。マフィンは紙袋に詰めて、食器はワゴンに乗せられていた。


 ステラがいないことを知った梨紗は、しっぽをしょんぼりとさせてとぼとぼとステラの部屋へ向かった。


 いつものように猫用ドアからステラの部屋に入ると、辺り一面が真っ暗だった。梨紗の目には、ステラがいる布団が白くはっきりと見えた。


「にゃー(ステラ……?)」


 梨紗が呼び掛けても、布団に閉じこもったステラは何の反応も示さなかった。梨紗は、考えてもよく分からなかった。

 梨紗はベットの上にジャンプすると、ステラの横で丸くなった。

 


□■■


 ステラが部屋に閉じこもってから数日後、王都で仕事をしていたリチャードは屋敷に帰宅した。書類仕事で頭痛や体のだるさを感じ、疲れている様子であった。

 

「おかえりなさい。」


 リチャードが声のした方を向くと、階段の上から顔を白くしたメリッサが下りてきた。リチャードはいつものように挨拶をして、屋敷の様子が変わりないか尋ねた。


「……ええ、屋敷のことは大丈夫よ。」

「そうか。」


 メリッサは安心した様子のリチャードを見て、一度顔を伏せると、赤色の光を湛えた紫の目でリチャードを見据えた。


「なぜ、アリサを妻にしなかったの。」

「……?」

「アリサを屋敷に呼んでいれば、こんなことにはならなかった。」

「……」


 リチャードは驚いた様子でメリッサを見た。


「あなたがはっきりしないから……!」


 そこまで言って、はっと目を見開くと、『ごめんなさい。』と言ってメリッサは小走りに去っていった。

 

「捨てられたと思っていたんだ……。」


 一人呟くリチャードの背後にある柱の影、そこには、二つの琥珀がじっとリチャードを見つめていた。

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