第17話 新たな生活に向けて

 ステラは決意を固めて、宿屋『銀のうさぎ』にやってきた。

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 ステラは朝食の準備をしているガイに挨拶をした。


「……ステラ、答えは決まったか?」


 ガイは挨拶を返した後、すこし間を置いてステラに言った。梨紗はまだ屋根裏部屋で寝ているようだ。


「はい。私は、伯爵邸に行くことを決めました。」

「そうか。……よかったら、トラ公も一緒に連れて行ってくれないか?」


 ガイの予想外な発言にステラは目を丸くしたが、すぐにガイと梨紗の信頼関係を思い出して眉を下げた。


「でも、……トラちゃんがいなかったら、ネズミが、」

「こっちは大丈夫だ。ネズミ捕りの罠でも作って様子を見てみる。そんなことより、ステラの方が大変だろ。トラ公はきっと、ステラの力になってくれるはずだ」


 ガイは誇らしげな様子で言うと、ステラはうつむいて涙をぬぐった。


「ありがとうございます。」


 ステラの満面の笑みを見て、ガイも嬉しそうに笑った。


☆★☆


 梨紗はご飯をもらうと、いつものカウンターではなく、ガイの足元でくつろいでいた。時々踏まれそうになっていた。


 そうして時間はあっという間に過ぎていった。


 昼ごろ、宿屋『銀のうさぎ』に伯爵が訪れた。ガイとステラが伯爵と話し、カールとシーナは台所の影から様子を伺っていた。


「私、伯爵家に行きます!」


 ステラがそう言った時、梨紗はステラの肩に飛び乗った。


「にゃー(私も!)」

「そうか。この猫も一緒に来るのか?」


 伯爵は嬉しそうに微笑み、思わずそう言うと、ステラは元気よく返事をした。


「はい!」


 一部始終を見ていた二人は、ステラが伯爵邸に行くことが分かると、カールは後ろを向いて寂しさを誤魔化し、表情が変わらないシーナは、いつも跳ねている頭の毛がしなびていて、落ち込んでいるようだった。


 伯爵が帰ったあと、宿屋のみんなでお別れの言葉を交わした。


「ステラ、嫌なことがあったら戻ってきていいからね。待ってる。」

「シーナ、ありがとう。頑張る!」

「ステラ、俺達のこと、忘れるなよ。」

「カール、ありがとう。絶対忘れないからね。」

「ステラ、いつでもここに来ていいからな。料理を食べにおいで。」

「ガイさん、ありがとうございます。毎日食べに行きますね!」


 ステラの冗談で場の空気が和むと、宿屋の従業員二人はステラと最後のお別れをしていた。そんな中、ガイは一人、梨紗とのお別れをしていた。


「トラ公、寂しくなるな……」


 ガイは寂しい気持ちで梨紗の頭を撫でた。


「にゃー(ガイ、また会う日まで!)」


 梨紗はガイとお別れすると、新たな生活で食べるごはんに想いを巡らせていた。


 その翌日、ステラと梨紗は、馬車に乗って伯爵邸へ向かうのだった。

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