第二章 トラウマ

第18話 はじめての場所

 伯爵邸に向かう日が来た。


 ステラはパン屋『リスのしっぽ』でロイとサラに別れを告げた後、宿屋『銀のうさぎ』で梨紗と合流した。

 しばらく外で待っていると、宿屋『銀のうさぎ』に伯爵家の馬車が到着したようだ。二人は迎えにきた伯爵家の執事に補助されながらも、すぐに馬車に乗り込んだ。


「わぁ……!」


 馬車の中は外観より広く、ステラが思っていたより快適に感じた。

 梨紗はステラの肩から降りると、さっそく置いてあるクッションの上で丸くなった。


「あー、ずるい」


 ステラは近くのクッションに飛び込むと、クッションに埋もれて幸せそうだった。

 その様子を見ていた伯爵家の執事は、自然と笑顔になった。


「では、出発します」


 御車台に乗った執事が声を掛けると、ゆっくりと馬車が進み出した。


「うわぁ……!」


 ステラは馬車に乗るのが初めてだった。ガタガタと風を切って進む馬車に、目を輝かせていた。

 窓を開けると、緑のさわやかな風が馬車の中に吹き込んできた。


『ぎゃあーーーーー飛ばされる……!』


 強風に襲われた梨紗は、ステラの足元に貼り付いた。耳を伏せ、爪を立てて必死の形相であった。


(そういえば、昔は乗り物に平気で乗れてたような気がする……!)


 梨紗はそんなこと少しの違和感より、今にも飛ばされて窓から放り出されるんじゃないかという恐怖で気が気じゃなかった。


「にゃーーー(たすけてーーー!)」


 梨紗は涙目でステラに助けを求めるも、ステラは外の景色に夢中であった。窓を閉めてくれそうにない。


☆★☆


 伯爵邸に着いたようだ。

 馬車がしばらくして停止すると、執事がそっと扉を開いた。


「どうぞ、到着いたしました」


 馬車の旅が終わり、ステラは緊張した様子で外に出た。梨紗はステラの肩に飛び乗り、と脱力した。


 入り口の大きな柵のそばには、清潔な白黒のメイド服を着た人と、赤い執事服を着た人たちが、左右に5人ずつ並んでいた。

 伯爵邸の正面には、当主のリチャードと厳格そうな金髪の貴婦人、優しそうな金髪の男性と、生真面目そうな赤髪の男性がステラ達を待っていた。


 執事が柵の扉を開くと、ステラは促されるままにリチャード達の方へ向かった。


「よく来てくれた、ステラ」


 リチャードは目を細め、嬉しそうに微笑んだ。


「ステラ、紹介しよう。私たちの家族だ。こちらの女性は私の正妻、メリッサ。貴族の作法など、これからの生活に必要なことをしっかり教えてくれるだろう。次に、金髪で眼鏡をかけているのは長男のウィリアムだ。人脈が広いので、学園で困ったことがあれば力になってくれるだろう。最後に、赤髪でガタイがいいのが次男のエドワードだ。剣と体術が得意なので、武術を学びたい時は頼るといいだろう」


 リチャードは一通り説明した後、ステラに挨拶を促した。


「はじめまして、ステラです。至らないことが多いですが、よろしくお願いします!」


 ステラはそう言って、深々と頭を下げた。


「「「よろしく。(ね)(な)」」」


 メリッサは表情が変わらないが少し目を細め、ウィリアムは笑顔で返事をし、エドワードは素っ気なく答えた。


 ステラはこれから頑張ろうと思い、ひっそりと両手の拳を握りしめた時、梨紗が飛び乗ってきたので慌てて腕に抱えた。

 梨紗はステラの腕の中で、新しい家を探索することを考え、心躍らせているのだった。

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