◇ガイの兄貴

カール視点です。


————————————————————


 俺は兄貴を心から尊敬している。

 兄貴は、心が広いと思うんだ。

 この前なんか……


☆★☆


 夕方頃、カールが机を拭いていると、ある男がやってきた。


カランカラン


「いらっしゃいませ。……?」


 来店した男はお酒を飲んでいたのだろう。足元が覚束おぼつかない様子でふらふらと歩き、と乱暴に席についた。


 カールは慎重に注文を聞きに行った。


「あの……ご注文はいかがでしょうか」 

「酒をくれ!……ひっく」

「申し訳ありません。ここではお酒をあつかってないので、季節のフルーツジュースなどはいかがでしょうか」

「ばかにしてんのか!」

「ひいっ」


 粗暴な男が顔を怒らせ、大きく手を振り上げた。カールは思わず目をつぶり、今から来るだろう痛みに耐えようとした。


(……!)

 

 しかし、いつまで待っても衝撃がこなかった。疑問に思ったカールがゆっくり目を開けると、目の前では、ガイが片手で男の腕を掴んで止めていた。


 ガイはカールに気づいて困ったように微笑むと、下がっているように合図を出した。

 カールはガイに言われるまま男から距離を取り、気が抜けてその場に座り込んだ。


「お客さん、少し落ち着いてください」


 ガイはそう言って男の両肩を押して、さり気なく出口まで誘導した。


「飲み屋はまっすぐ行って左手に見える赤い屋根の店ですよー!」


 粗暴な男はガイの出現に驚いている間に、促されるまま外に出て歩いてここから去って行った。

 ガイの馬鹿力を認識したことで、心のどこかで自分では敵わないと思ったのかもしれない。


(兄貴、かっけえ……!)


☆★☆


 あの時、兄貴は全く怒ることなく、冷静に短時間で嫌な客を追い出した。しかも、お酒が飲める店まで紹介をする親切さ。これはなかなか真似できることじゃない!


 でも、怖い時もあったな……。


☆★☆


 カールは主に宿屋の接客を担当しているが、空いてる時間は食器洗いを中心に行なっている。

 その日、カールは手に切り傷ができてしまい、洗い物をすることがとても辛かった。


「イタッ! ……痛い」


 カールは大雑把おおざっぱに皿洗いを終わらせると、水切りかごに皿を並べた。

 

「カール、なんだこれは……!」


 皿を拭こうとやって来たガイは、カールの洗い残しを見つけて、ひどく怒っている様子だった。


「すみません。切り傷が痛み、洗うのが雑になりました……」

「そういう時は相談してくれ。事情が分かれば、手袋を渡して対応することができるからな」


 ガイはため息をつくと、カールに説明をした。


「料理はな、一番は、お客様を喜ばせることだ。不快な思いをさせてどうする! そんなことがあれば、誰も食べに来なくなるだろ? 二番目に……!」

 

☆★☆


 相談することは大切なんだけど、些細なことでは疎かになってしまう。失敗だったな。


 あの時、兄貴の料理に対する熱意がとてもよく伝わった。けど、だんだんヒートアップしてきて途中から収集がつかなくなったんだよな……って違う違う!



 ……兎に角とにかく

 そんな兄貴だからこそ、俺は心から尊敬しているんだ。

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