第16話 別れ
ステラは仕事を終えると、パン屋『リスのしっぽ』に帰宅した。
ガチャリ
「ステラです。ただいま帰りました」
扉を開けると、香ばしい匂いがふわっと流れてきた。伯母のサラが夕食を作っているようだ。
ステラは思わずぐうと鳴りそうなお腹を抑えた。
材料の在庫確認をしていたステラの伯父、ロイは、ステラに気づいて作業を止めると、落ち着いた声で言った。
「おかえり。晩ご飯を食べた後、大切な話があるんだ」
「はい。」
ステラは迷ったように目線を彷徨わせると、ロイを見て返事をした。
★☆★
晩ご飯はどっしりしたステーキとパン、野菜スープだった。
ステラは考え事をしていたからか、あまり味を感じることはなく、もぐもぐと咀嚼していたらいつの間にか食べ終わっていた。
三人が晩ご飯を食べ終わると、サラが温かいお茶を入れてくれた。
一息つき、ようやくロイが話を切り出すと、ステラの表情が引き締まった。
「ステラの今後についてだが、ステラが伯爵の所へ行きたいと言えば、私は反対しない。今回のことは、ステラが新たな経験を得る貴重な機会になるだろう。しかし、それはステラが本当に行きたいと思った時のことだ。ステラが嫌だと言ったら、俺はあいつに断固として断ってくる。無理しなくていいんだ。自分が本当にやりたいことを選びなさい。」
ロイの言葉に、ステラははっと目を見開いた。
「……」
この場に静寂が訪れる。サラは少し寂しそうにステラを見守った。
長い沈黙の後、真剣な表情になったステラは、二人に言った。
「私、伯爵家へ行きます。学園でたくさん学んで、知識を蓄え、多くの人のためになるような仕事に就きます」
ステラの言葉に、ロイは涙した。
ステラは困惑した。ロイが泣いているのを初めて見たのだ。
サラも涙を手拭いで抑え、ステラに言った。
「寂しくなるわ。ステラ、離れていても私たちはあなたの家族だということを、忘れないで」
その言葉に、ステラの涙腺も崩壊した。
「伯父さん、伯母さん、ありがとう……!」
☆★☆
その頃、宿屋でガイは片付けをしていた。
「ステラが伯爵邸に行く可能性があるのか。……心配だな」
ガイはカウンターの椅子に腰掛け、独り言を呟いた。
ガイはふと、カウンターの上にいる梨紗を見た。
「そうだ。トラ公! ステラと一緒に伯爵邸に向かってくれないか? トラ公が一緒だと、ステラもきっと心強いだろう」
ガイがそう言うと、梨紗は元気よく返事をした。
「にゃー!(私に任せて! ステラの平穏は私が守る!)」
「ありがとう、トラ公」
ガイは少しだけ寂しそうに微笑むと、梨紗の頭をわしわし撫でた。
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