第15話 宿屋『銀のうさぎ』

 お客さんもだいたいけてきて、カウンターで暇になった梨紗は、香箱座りのまま眠気と戦っていた。


こくり、こくり……


 時々頭が床にぶつかりそうになる梨紗を、まだ残っているお客さんはハラハラしながら見守っていた。


 このまま寝たら、梨紗が土下座をしているように見える。まさに『ごめん寝』であった。


 そんな時、扉を開く音が部屋に響き、目が覚めた梨紗は、毛づくろいで心を落ち着かせた。


カランカラン


「いらっしゃいませ。……?」


 気品のある佇まいをした男と、その斜め後ろで警戒している無表情の男が来店したようだ。


(???)


 梨紗がぼんやりと見ていると、思ったより深刻な話をしているようだった。


 おおよそ聞いた話の内容を整理すると、


 ハワード伯爵がステラの本当の父親で、『伯爵邸で一緒に暮らさないか』とステラに提案した。伯爵はステラに『貴族として学園に通って欲しい』と言っていた。

 ステラは『少し時間をください』といい、伯爵は、明日またここへ返事を聞きに来るそうだ。


 ステラは悩んでいる様子であった。

 梨紗はステラを元気付けるために、ステラの足にすり寄った。


スリスリースリスリー……ん?


 くるぶしを発見した梨紗は、なぜかくるぶしが憎たらしくなって齧り付いた。


ガブリ


「いたっ!」


 ステラは思わず手でくるぶしを守った。しかし、梨紗はちゃんと手加減していたので甘噛みだった。


「くるぶしに齧り付かないでーー!」


 驚いた様子のステラを見て、ガイは慌てて梨紗を回収し、シーナは腹を抱えて爆笑し、カールは必死に笑う事を耐えていた。肩が震えている。


「シーナ、笑いすぎ」


 そう言ったステラも笑い出してしまい、それを見たみんなで一緒に笑い合った。


「ははは……!」

「あっはっは! ……お、お腹苦しい……あはははは!」

「ぶはっ!」

「あははは……!」


 みんなは、それぞれがステラの肩をかるく叩いてから仕事に戻るのだった。


(みんなありがとう、少し元気出た)

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