第2話 ファンタジーな世界

 まぶたを上げると、目の前でセピア色の靴がたくさん行き交っていた。


『靴でかっ! って人か』


 そこには巨大な人が行き交うファンタジーな景色が広がっていた。


『ええ……』


 とりあえず状況を把握するために周囲を見渡した。


 上を見ると何かの台があり、下を見ると新聞紙のようなものが敷いてあった。空を見ると、太陽のような光が真上にあるので、今は昼だろう。対面にある屋台では、焼き鳥のようなものを売っている。


 梨紗は全てが巨大に感じられた。


『巨人の世界』


 その時、頭上から声が聞こえた。


「おばちゃん、りんごひとつ」

「はいよ、銅貨5枚だよ」


(りんご?)


 匂いを嗅いでみると、フルーツのさわやかな香りが広がっていることに気づく。


 どうやら梨紗は、おばさんが店主の屋台の果物が乗っている台の下に居るようだ。


 外に出ようと右足を出したときに、茶色のとら柄に靴下をはいたような白色の足先がみえた。(猫好きの間ではこれをクリームパンという)


『なんじゃこりゃ!?』


 あわててひっくり返して手の平を見た。


『にくきゅう! って、もしかして猫になってる!?』


 梨紗は犬より猫派であった。


 びっくりして台の下から這い出ると、こちらに気づいたおばさんが梨紗に話しかけてきた。


「おや、もうそんな時間かい? しょうがないね、ごはんをお食べ」


 おばさんはそう言うと、梨紗に木の器を差し出した。

 木の器に入っているのは、硬そうなパンをミルクに浸した食べ物のようだ。


 食べてみるとミルクの味が濃厚で、パンの酸味がアクセントになっている。もぐもぐ美味しい。


 ふた口め、さん口めと次々に食べていたら、あっという間に完食してしまった。


「おいしいかい?」


 おばさんは目を細めて梨紗をなでると、器を下げてくれた。

 食後の毛づくろいをしていた梨紗は、ふと考えた。


(あれ? なんかおかしい?)


 一瞬、違和感を感じたが、まあなるようになるかと思った。ポカポカな陽だまりの中、屋台の屋根の上で昼寝するのだった。

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