猫になったけど、まあいっか。

こと。

第一章 スローライフ

第1話 プロローグ

「疲れたーー」


 週末にはいつもビールを飲んでいる。疲れた心はなかなか癒されないのだ。


 梨紗は24歳の比較的まじめなOLだ。

 努力は評価されるのだが、頑張りすぎてしまうことがたまにキズである。


 後ろで束ねていたこげ茶の髪は解かれ、緩んだ顔でソファーにもたれている。

 働く時のキチッとした姿を知っている人なら、同一人物とは思わないだろう。


 うとうととしていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。


☆★☆


 気付いたらふわふわと空を飛んでいた。

 眼下には壮大な森が広がっている。


(ここはどこだろう……飛んでる?)


 空を飛んでることがいまいち現実だと思えず、見渡しても自分の身体を把握することができない。


 体がないならそもそも目とかはあるのだろうか? ふと思ったが、考えてもしょうがないことだった。


 とにかく現状を把握しようと森を観察していると、遠くにぽつんと草原があることに気付いた。


 何気なくそこに行こうと思うと、身体がまるで空を移動するドローンのようにスーっと動いた。


 草原を近くで見てみる。草が密集しているなかに小さな花が咲いていて、大きな葉っぱからてんとう虫が飛び立った。梨紗は、この場所がとても綺麗だと思った。


「ガサガサ🍃」


(ん? 何かいる?)


 キジトラ柄の猫が草をかき分けて出てきた。


『ねこだー! かわいい』


 猫の身体は茶色のトラ柄だが、手足だけ白色をしている。この柄はまるで靴下を履いているようだった。

 瞳は緑色で、光を浴びて宝石のようにきらきらと輝いている。


 ふと猫と目があった気がした。


(え? 吸い込まれる! )


 梨紗は猫の瞳に引き寄せられ、吸い込まれたのだった。

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