第3話 人探し

 目が覚めると、空が赤色になっていた。どうやら夕方のようだ。


(散歩に行こう)


 体がなまっていた梨紗は、屋根からぴょんと飛び降り、大きく伸びをすると、しっぽをぴんとたてて


『いざ行こう!』


 と、テンション高く散歩に行くのだった。


 屋台の通りから住宅街の方に歩いていると、右の細道からヒョウ柄のやんちゃそうな猫が歩いてきた。


「にゃー(君は、ここらで見ない顔だね。どこから来たんだい?)」


 存外ぞんがいに丁寧な口調で、紳士的な猫だと思った。



 種類はベンガルに見える。

 どうやら他の猫の縄張りに来てしまったようだ。


『あの屋台の通りからきました。この街のことをよく知らないので、よかったら教えてください』


 梨紗は、紳士的なお兄さん猫にこの街のことを教えてもらった。


『ここは猫を尊ぶ国なんだ。幸運を運ぶ猫を人間は大切にしている。その代わり、野良猫はご飯をもらうと1つ、人間の手助けをするというルールがあるんだよ。この街に居たいなら気をつけるといい』


 そう言うと、ヒョウ柄の猫は飄々ひょうひょうと帰っていった。どこか優雅に見える。


『ごはんをもらう……あ! 屋台のおばさんになにか返さないと!』


 そう思い立った梨紗は、すぐに屋台に向かって駆けていった。


「にゃーー(おばさーん! いる?)」


 梨紗は屋台に戻ったが、おばさんが居た果物屋には人の気配がしなかった。すでに閉店しているようだ。


(そういえばおばさんの家、知らないや。匂いで探せるかな?)


 梨紗は試しに、おばさんが座っていた椅子の匂いを嗅いでみる。すると、住宅街の方向にも微かに同じ匂いがすることに気づいた。あまり時間が経っていないのかもしれない。


(とりあえず、住宅街に行ってみよう)


 匂いを辿っていくと、赤いレンガの集合住宅にたどり着いた。


(まあ、扉閉まってるよね……)


 家の周囲をぐるっと一周してみると、高いところの窓が数カ所開いているのが見えた。


(くんくん、二階かな)


 運の良いことに、ロビーの屋根がある場所、部屋の二階からおばさんの匂いがする。


(これはロビーの屋根に登って、そこからジャンプして入るしかない)


 腹を括った梨紗は、レンガに足をかけてガッ!と屋根まで這い上ると、思いっきり助走をつけてジャンプをした。


「にゃーーーーー!(って、勢いつきすぎたーー!)』


 なんとか隙間に手を引っ掛けることができたが、梨紗は顔面から壁と衝突することになった。


 びたーーん

(やっちまったなあ)


 梨紗はこうして、おばさんの家の侵入に成功したのだった。

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