第4話 恩返しと冒険者ギルド
部屋に入ると、毛糸玉と椅子の背もたれにもたれたおばさんが見えた。編み物をしているようだ。
『……?』
おばさんに近づこうとしたら、黒いモヤがおばさんの背中に憑いてるのが見えた。
(あれは……)
梨紗は昔から幽霊が見える体質である。
幽霊は色によって異なる性質を持っている。中でも、黒色の幽霊は取り憑いた人をネガティブにしたり、体調を悪くするなど、人間に悪影響を及ぼす幽霊である。
酷い場合はとり憑いた人間を自殺まで追い詰めてしまうため、梨紗は黒い幽霊にはあまり関わりたくないと思っていた。
(しょうがない、こうなったら……猫パーンチ!)
ぺしっ
梨紗が憑いてる黒い幽霊を叩き落とすと、黒い幽霊はわたわたと慌てた様子で逃げていった。
「にゃー!」
(おばさん、殺ったよ!)
梨紗がおばさんの右腕にすり寄ると、おばさんは少しびっくりした様子で振り返った。
「……おや、家までついて来たのかい? しょうがないこだねぇ」
編み物を中断すると、梨紗を膝の上に乗せてほほえんだ。
「なんだか調子が良くなった気がするよ。猫ちゃん、幸せを運んで来てくれたんだね」
『ゴロゴロ……』
梨紗はおばさんの膝の上で目を細め、気持ちよさそうに喉を鳴らすのだった。
☆★☆
次の日の朝、目が覚めた梨紗は街の散策をしようと思い立って街の中を歩いていた。通行人が徐々に増えているようだ。
観察してみると、剣や革の鎧などを身につけた人がほどんどだという事に気づいた。
(ファンタジーによくある冒険者の人かな?)
きょろきょろと屋根の上から辺りを見渡していると、一つの冒険者らしきグループが黄土色の大きな建物に向かっていることに気づいた。
その建物は入り口が縦に大きく、ドアの代わりにカウンター扉がついている。黄土色の壁は分厚くて頑丈そうだ。
(冒険者が集まってるから冒険者ギルドだね。ちょっと覗いてみよう)
梨紗は歩いている人々の隙間をすり抜け、するりと冒険者ギルドに入った。
冒険者ギルドの中には机と椅子が並び、奥にあるカウンターの近くには酒棚がある。一階は酒場になっているようだが、梨紗はあまり興味がなかった。
入り口の近くにある階段を上ってみると、二階には部屋の真ん中あたり、部屋を区切るようにカウンターが並び、そこに4人ほど人が立っているのが見えた。
一人一人
受付の1番左に、笑顔で赤い髪の青年に対応している20代ぐらいの女性がいた。
(もしかしたらごはんをもらえるかもしれない)
青年は梨紗をわしゃわしゃ撫でくりまわしそうな雰囲気があったので、梨紗は隣のカウンターに並んでいる厳ついお兄さんの後ろに隠れて様子を伺った。
お兄さん(猫がすぐ側にいる!? そ、そんなまさか……癒される)
「全部で銀貨10枚です」
「はーい。ところでカレンさんこの後あいてる? ご飯食べに行きませんか?」
「すみません。仕事があるので」
「残念、また来るね!」
赤髪の青年は、カレンさんに誘いを断られても挫けず去っていった。
(常連の人かな)
梨紗はとにかくカレンさんの笑顔に惹かれてカウンターにひょいと飛び乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます