◇赤色幽霊事件

 ある日、いつもと変わらない昼頃のことだった。

 

 寝坊してやっと起きてきた梨紗が階段を降りていると、唐突に一階から大きな声が聞こえた。


「やあ! 今日もいい天気だな! みんなで一緒にスクワット200回だ!」


 大声に驚いた梨紗は、階段の陰に隠れて様子を伺った。一階では、従業員のみんなが集まっているようだ。


「兄貴!?((ガイ兄さん!?))」


 どうやら、大きな声を出していたのはガイだったようだ。ガイの様子がおかしい。


 梨紗は恐る恐る階段を降りてガイに近づくと、足元に擦り寄った。


「おはよう、トラ公! 寝坊するなんてたるんでるんじゃないか? その根性を鍛え直すんだ! ジョギングするぞ!」

「にゃっ!?」


 梨紗はショックを受けた。


(ガイが、いつも穏やかな兄貴のガイが、熱血系だって……!? いくらなんでも無理があるよ)


 さすがにおかしいと思った梨紗は、ガイを観察することにした。よく見たら、薄らと赤いオーラを発しているようだ。


(赤いオーラ? ということは、赤色の幽霊か)


 ガイの後ろに回り込むと、背中に赤色の幽霊が憑いていた。


 その間もガイはただただ暑苦しい言葉を発し、みんなは困惑しているようだ。


「「兄貴(ガイさん)……(どうしよう)」」

「……(触らぬ神に祟りなし)」


 普段は穏やかなガイを振り回している赤色の幽霊に向かって、梨紗は勢いよくガイの背中に飛び乗った。


「にゃーー(くらえ、抱え込みけりけりーー!!)」


ガシッ! けりけりけり!


 赤色の幽霊はたまらず逃げ出していった。


「にゃー(ガイ! 殺ったよ)」


 ガイは、背中から飛び降りた梨紗の声で正気に戻り、いつもと異なる周りの様子に気がついた。


「……あれ? みんなどうかしたのか?」


「な、なにもないっス!」

「……」

「あはは……」


 カールは必死に誤魔化しながら、シーナはさり気なく目を逸らし、ステラは苦笑いしていた。


 どことなく気まずい空気の中、三人は仕事に戻るのだった。


————————————————————


 ガイは一人取り残されていた。


「みんな、どうしたんだ……?」

「にゃー!(私がいるよ!)」


☆★☆


・猫パンチ

・引っ掻き

・抱え込みけりけり ←NEW!

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