第45話 撤去

 次の日の朝、すぐさまリチャードは領内の竹林へ捜査に向かった。

 竹林の中に入ると、狂暴化した野生生物が複数体発見され、いたるところに赤い実が実っていた。


 リチャードが部下に指示して赤い実の採取を行っていると、竹林の中から栗色の猫っ毛がひょっこり覗いた。


「久しぶりね。」

「……ここで何をしているんだ?」


 ベルナデットがリチャードに話しかけると、さわやかな風が水色にそよいだ。


「貴方に会おうと思ったの。」

「なぜだ?」


 リチャードは疑問に思った。リチャードとベルナデットは、学生時代から今まで、会うことはなかったのだ。


「一つ、伝えたいことがあってね。」


 ベルナデットが不敵に笑うと、笹の葉が太陽の光を遮った。


「あと一日。あと一日で、この街に野生生物の氾濫が起きるわ。それまでに何かあったら、私が……」

「なぜ知っているんだ?」


 ベルナデットは不意に悲しい顔をすると、そっと顔を上げて表情を取り繕った。


「……いえ、なんでもないわ。」


 去り際にベルナデットがそう呟いた。

 

 リチャードにはベルナデットの心境が理解できなかった。困ったような、懐かしいような、その複雑な顔色が、リチャードの心を表していた。


◇◆◇


 一方冒険者ギルドでは、ギルが竹林で採取した赤い実をジンが手に取っていた。


「これは……。」


 ギルドマスター、ジンの知識では、この赤い実はある地方で食用とされていて、特有の甘い香りからアイスなどのスイーツの食材として使用されていた。

 ただし、食べ過ぎると副作用として下痢を起こしてしまう。

 この木の実を育てている地域では、たまに野生生物が氾濫することがあり、取扱いに注意する必要があった。


「とりあえず、この木の実の撤去が最優先事項だな。」


 ジンは緊急クエストとして、赤い実の撤去、根元からの根絶を依頼書に提示し、多くの人々に呼び掛けた。


◇◆◇


「ギルさん、大変です。緊急クエストが出されていますよ!」


 ギルと梨紗が朝食を食べに降りてくると、ラインが慌てた様子でギル達に話しかけた。


「なんでも、竹林にある赤い実をすべて採取、根元から根絶することが、今回のクエストのようです。採取した赤い実は食べられるそうですよ!」

「わかった。朝食を食べたら向かおう。リョクを頼む。」

「了解です!」


 猫が好まない赤い実、果たして人間が食べたら美味しいのだろうか……。


 ギルは再び竹林に向かうことになった。

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