第20話 主人公の行方

「……ん?」


 リビングにやって来たエドワードは、何かがいるカーテンとウィリアムを見つけ、しばしの間考えた。


「しー、静かに。」


 ウィリアムは人差し指を口に当てると、ちょいちょい、とエドワードを呼んだ。

 不思議に思ったエドワードは、そっと近づいてカーテンの裏を覗いた。

 すると、そこにはキジトラ柄の猫(梨紗)がカーテンに包まれるように丸まり、健やかに眠っていた。


(キジトラ柄の猫……?)


 エドワードが思わず笑顔になったが、ふと、ウィリアムがにやにやしながら見ていることに気づいて、慌てて目線を逸らした。


「ふん……それがどうした」

「猫、かわいいよね。……ぷ、あはは!」

「なんだよ!」


 ウィリアムが笑うと、エドワードは顔を真っ赤にして去って行った。


 ウィリアムは、エドワードが完全にリビングから去ったことを確認すると、と笑顔を消して梨紗を見て、そのふわふわの毛に手を伸ばした。


 ガブリ


「ぎゃーー」


 ウィリアムは慌てて梨紗から離れると、涙を浮かべてリビングを後にするのだった。




☆★☆




「…………はっ!」


 ステラは目を覚ますと、勢いよくベッドから起き上がった。


「弁償しなきゃ……!」


 ステラは柱の惨状さんじょうを思い出し、顔を真っ青にした。


「その必要はないですよ。」


 扉の方から声が聞こえてそちらを見ると、侍女服を着て肩で髪の毛がハネた、若い女の人が立っていた。目と髪の色がすみのように真っ黒なのが、印象的だった。


「あなたは……?」

「わたしは、侍女のソフィと申します。傷だらけの柱はもう修繕されたので、弁償する必要はないですよ。」

「でも、お金がかかったんじゃ……」

「……」


 侍女は笑顔のままだった。


「そういえば、お連れになった猫は探さなくていいんですか?」

「あ、トラちゃん!」


 ステラは梨紗のことを思い出すと、すばやく布団を畳んで、部屋から出て行った。




☆★☆




『……ぐら。かぐら。忘れたの……?』

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