第32話 3つの影

 梨紗は朝食を食べてステラ達が学園に行くのを見送った後、自然豊かな庭でぽかぽかと日向ぼっこをしていた。


『この葉っぱ、おいしいかな?』


 人間のプライドが行方不明になった梨紗は、その辺に生えてる草のにおいをいでいた。すると、ちょこんと耳の生えた3つの影が、太陽の日差しを遮った。


『ちょっといいかな、そこの君。』


 渋い声が聞こえて顔を上げると、目の前に3匹のにゃんこが佇んでいた。


 1匹目は黄緑色の目をした茶トラ。顔周りのふっかふかな毛が最高だった。


 2匹目は蒼色の目をしたサバトラ。こちらを警戒する様子がとてもキュートだった。


 3匹目は金色の目をした黒猫。艶やかな毛並みは美しく、声が渋いおじさんだった。


『……。』


 黒猫はチベットスナギツネの表情になった。気にしてないよ、気にして……ぐすっ。


 黒猫は毛づくろいをして気を取り直すと、梨紗にあることをげた。


『昨日の昨日のそのまた昨日、宝石のような緑目に茶色のキジトラ猫が、屋台通りで無銭飲食をしたとの報告があった! 君のことで間違いないな?』

『にゃーにゃ―そうだそうだー!』

『カッカッ!』


 茶トラは黒猫の言葉に同意し、サバトラは口から空気砲を放った。


 梨紗は強風を受けて頬毛が吹き飛びそうになるも、考えているうちにだんだん当時の記憶がよみがえってきた。


『あ。』


 以前、梨紗がちょびに会いに行った時、サンドイッチを持った冒険者が、ちょびと梨紗にパンを分けてくれたのだ。(『◇ちょびとおでかけ』より)


 確かに梨紗はお礼をした覚えがなかった。冒険者さん、ごめんなさい。


『わたしです。ごめんなさい。』

『そうか。残念ながら規則(“第3話 人探し”より)を守れなかった猫はこの街から追放することになっている。すまない。……ちなみに、その時君と一緒にいた猫は、お礼として鳥を献上していたようだ。すばらしい!』


(さすがちょびさん!)


 梨紗は友猫が褒められてうれしい気持ちになったが、一つだけ、不思議に思ったことがあった。


(鳥、いつどうやって捕ったんだろう?)


☆★☆


 その後、梨紗は3匹のにゃんこに連れられて、この街から出ていった。


 柵の下に掘られた穴を通り、突然ネズミを追いかけたサバトラを連れ戻し、茂みの中にある秘密の通路を通り、何を思ったのか無差別に空気砲を放ちだしたサバトラを落ち着かせ、家の屋根に上って門を超え、3匹のにゃんこに見送られて、梨紗はこの街とお別れをした。

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