◆噂の真相

 雨が地面を叩く。


 とある貴族の一室では、どこにでも紛れてしまいそうな特徴のない顔の従者が、淡々と、葡萄酒色ワインレッドのシンプルなドレスを着た女性に報告をしていた。


「……。」


 従者から報告を受けた女性は、眉間にしわを寄せて唇を歪めた。舌打ちをして机に頬杖をつくと、女性の栗色の猫っ毛はぶわりと広がった。


「……私が流した噂のおかげで絆を深めたって? はっ、くだらねぇ。」

「お嬢様、口調が乱れております。」

「伯爵夫人よ。訂正しなさい。」


 女性はイライラと机を指で叩く。


「あの無愛想な女。いつもいつも、私のものを奪っていく。……リチャードはあの女のどこを見て気に入ったというの?」


 女性はと目を細めると、鋭く従者に視線を流した。


 従者は静かに視線を受け流す。相変わらず何を考えているかわからない表情であり、よけいに女性をいらつかせた。


 ピリリとした静寂が訪れた時、扉を三回ノックする音が聞こえ、女性はすばやく頬杖をついた手で口元を覆った。


「どうぞ。」


 従者の言葉を聞き、静かに扉が開いた。訪れた男性は、丸い片眼鏡をして身だしなみのしっかりとした、自分にも他人にも厳しそうな執事であった。


「失礼します。ベルナデット様、旦那様がお呼びです。」

「……今行くわ。」


 伯爵夫人、改めベルナデットは渋々しぶしぶと立ち上がると、執事に先導されて、伯爵がいるリビングへ向かった。


◆◇◆


 一同はリビングにたどり着いた。


 伯爵と思われる男性は、一人用のソファーに深く座り、ワインをあおっていた。


「お呼びでしょうか。」


 ベルナデットが声をかけると、伯爵はつまらなさそうな表情で侍女にグラスを渡した。


「まずい。……なぜ安いワインしか飲めないのか、知っているか?」

「お金がないからよ。」

「それもあるが、この土地の悪さが一番の原因だ。作物の実りも悪けりゃ、野生生物による被害も絶えない。さらに、領民からの苦情もあるな。」


 伯爵は自分で言った言葉で苦い表情になると、何がおかしいのか歪な笑みを浮かべた。


「だというのに、ハワード家はのんきに家族ごっこだと。……そうだな、あいつの領地を攪乱するのはどうだ? ついでに金儲けもできる。」

「そうね。……詳しく教えて頂戴。」


 ベルナデットは瞬きと同時に視線を伏せ、再び伯爵に視線を戻すと、作戦について詳細を詰めていくのだった。

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