第42話 竹の実

 4人と1匹でごはんを食べた後、ギルと梨紗は3人にお別れをして、宿屋に戻った。


 梨紗は定位置の麻の布団の上で香箱座りをし、ギルは藁に寝転んだ。

 ギルは大きく伸びをすると、頭に腕を置いて目を閉じた。


ぐー


 しばらくすると、ギルの寝息が聞こえた。疲れて眠ってしまったようだ。


 梨紗は香箱座りのまま、周囲の音に耳を澄ませていた。


チリン


 何かがかすれる音がして、梨紗はそちらに鼻を向けた。


……。


 梨紗は顔を伏せると、丸くなってしっぽで鼻を隠した。


☆★☆


 従者風の男性、ノートは伯爵邸に到着すると、伯爵夫人の部屋を三回ノックした。


「失礼します。」


 伯爵夫人、ベルナデットは、椅子に座ったまま、眉間に寄ったシワに手を添えた。


「……様子はどう。」

「順調です。そういえばお嬢様、猫はお好きですか?」


 従者の突然の質問に、ベルナデットは不意をつかれ、手を顔から離した。


「伯爵夫人よ。突然何? 好きだけど。」

「よし、今度猫を探して連れてきましょう!」


 嬉しそうにノートがそう言うと、ベルナデットはめんどくさそうに視線を外した。


「本当に何なの? そんなことはどうでもいいわ。」

「そうですか……。」


 ノートは落ち込んだように眉を下げると、肩を落として去って行った。


 ベルナデットはノートが去った扉を不思議そうに見送ると、表情を少し緩ませ、伸びをした。


「まあいいわ。ちょうどいい気分転換になったし。」


 肩の力が抜けたベルナデットは、再び机に向き合った。


 机に積まれた資料の一番上には、竹に寄生して育つ赤い実の植物について、詳しい説明が書かれていた。


—————————————————————

【竹の実 : 蜂蜜のような甘い香りが特徴的で、野生生物を引き寄せ、捕食者を巨大化させる。】


・赤い実は、野生生物に捕食ほしょくされることで、生物の巨大化を引き起こす。


・野生生物の巨大化は、食糧しょくりょうの不足による縄張なわばり争いを誘発ゆうはつし、生態系せいたいけいを狂わせる。


・縄張り争いにやぶれた野生生物によって、市街地しがいちへの被害ひがい予測よそくされる。

—————————————————————


 ベルナデットは資料を目で追った。









「期限はあと3日。」


 そう呟くと、何かを思い出すかのように瞼を閉じた。

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