第39話 洞窟
ばりばりばりばり
梨紗はなんとなく、本能に従うまま、ヒビの入った大きな竹で爪とぎをしていた。
ばりばりばりベキッ
ヒビの入った大きな竹は亀裂が入り、梨紗は内側の空洞に落ちていった。
『なんでやねーん……。』
☆★☆
梨紗は竹の内壁に爪を立て、ばりばりと地面まで辿り着いた。
どうやらここは洞窟のようだ。
大きな竹の空洞の下は、暗いジメジメした洞窟とつながっていた。
天井からぽたりと水が落ちた。
梨紗は頭を二回振って水気を落とすと、洞窟から地面に向けて突き刺さっている竹で、仕上げの爪研ぎをした。
ばりばりばり
最後に爪研ぎをして心を落ち着かせた梨紗は、気持ちを切り替えて洞窟の探索に向かった。
洞窟の内部は薄暗く、所々に生えている竹林から地上の薄明かりを取り込んでいるようだった。
チラチラとした淡い光が洞窟内を照らし、天井から溢れる水がきらりと光り、幻想的な光景を創り出していた。
しばらく歩いていると、梨紗は何かに足を取られて転びそうになった。
(……?)
地面をよく見ると、梨紗の足元の土が耕してあり、新緑色の植物が人為的に植えられていた。
匂いを嗅いでみたが何もわからない。
植えられている植物の蔦は、地上に伸びている渋い緑色の竹林に巻き付き、さらに成長しているようだった。
「あれ?」
梨紗が振り返ると、何を考えているのか分からない薄い笑みを浮かべた従者風の男性が、すぐ近くに佇んでいた。
「こんなところに猫がいる。面白いですね。」
従者風の男性はそう言うと、梨紗をひょいと持ち上げた。
「持ち帰ったらお嬢様が喜びそうです。」
従者風の男性は、ある伯爵夫人のために梨紗を大切に抱えて持ち帰った。
★☆★
オレンジ髪で大剣使いのアスカと浅緑の髪留めをしたラインは、ギルと別れた後、冒険者ギルドに向かって歩いていた。
「さっきは何をしていたんだ?」
アスカが訊ねると、ラインは気まずそうにアスカを振り返った。
「この辺りの生態系について、観察していました。」
「そうか。何か発見はあったか?」
「そうですね。やはり野生生物の巨大化が目立ちます。日々、その数が増加しているようです。」
「野生生物の巨大化……何を、表しているんだろうな。」
「気づいた時にはもう遅い。それではダメなんですよ、きっと。」
「……。」
「あと、少し気になることがあって。」
★☆★
ギルはアスカとラインと別れた後、梨紗を探すために竹林の最深部に向かっていた。
野生生物の気配は至る所にあるが、梨紗についての手掛かりはどこにもなかった。
奥に進むにつれ、殺気だった野生生物が増えてきた。
ギルは動物避けの樹液を肌の露出している部分につけると、地面にゴロゴロと転がって自分の臭いを消した。
物陰に隠れながら探索していると、ふと、蜂蜜のような甘い香りに気づいた。
匂いを辿ると、竹に巻きつくように育った、植物の赤い実のようだった。
ギルは引き寄せられるようにその実に近づくと、そのひとつを手に取った。
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