第6話 思わぬ幸運

 ちょうど梨紗がネズミを捕獲した頃、梨紗は、とネズミをくわえながら考えていた。


(このネズミ、どうしよう。)


 よく見るとネズミは薄汚れて毛並みがごわごわだ。とても美味しそうだとは思えない。


 梨紗は思った。それでも猫は、ネズミを食べている。

 

(同じ猫なら私も食べれるはず!)


 梨紗は覚悟を決めると、ネズミを前足で押さえ、大きく口を開けてネズミを食べようとしたその時、


「でかしたトラ公!」


 頭上から大きな声が聞こえた。

 慌てて頭上を見上げると、エプロンをした腕の筋肉がたくましい男の人がこちらを見ていた。


(料理人かな。それより、トラ公ってなに……?)


 梨紗がネズミをぶら下げたままたたずんでいると、


「トラ公、ネズミ食べないのか? じゃあ飯と交換しよう」


 そう言って料理人はネズミをすばやく回収して台所に行くと、朝食用に作っていたビーフシチューを器に乗せ、ほどほどに冷めた頃、梨紗の前に置いた。


(猫って確か、ネギ類と魚介類(の一部)とチョコは身体に毒なんだっけ。他にも何か……。このビーフシチュー、玉ねぎ入ってる?)


 そんなことを考えながら、おそるおそるビーフシチューに近づき、ペロリと舐めてみた。


(……す、すごく美味しい!)


 あまりの美味しさに、梨紗は夢中になってビーフシチューを食べた。気づいた時には、お皿がピカピカのさらな状態になっていた。


「どうだ、うまいだろ。我が家の猫だったら毎日食べることが出来るんだけどな」


 料理人が冗談めかしながら言うと、梨紗は


「にゃー!(ここの猫になる! よろこんで!)」


 と言って、料理人の肩に飛び乗るのだった。


「本当か」


 ガイは嬉しそうに頬を緩め、梨紗の頭をそっと撫でた。


「俺の名前はガイだ。ここの店主兼、料理人をしている。これからよろしくな、トラ公!」


 お前の仕事はネズミ獲りだ! ガイは笑顔でそう言った後、頭に頭突きをくらった。


「あいたっ」


(トラ公じゃない、って言っても伝わらないから、今だけはトラ公で甘んじるとしよう。こちらこそよろしく!)

 

 梨紗はそう言ってガイの肩にポンと手を置くと、朝食準備の邪魔にならない様に肩から降りるのだった。


(つい美味しくて食べちゃったけど、玉ねぎ平気だったな。なんでだろ……)


☆★☆

  

 満腹になった梨紗は、受付カウンターの上で香箱座りをしながらお客さんの様子を見ていた。すると、一人の冒険者がぼんやりと赤いオーラを発していることに気付いた。


(赤い幽霊に憑かれてる)



 幽霊に憑かれると、憑かれた本人は影響を受けてしまう。本人の気質にもよるが、黒色はネガティブ、緑色は温厚、黄色はポジティブ、青は冷静、赤は熱血という性格になりやすい。


(他の人は幽霊が見えてないからあまり関係ないんだけどね。)


 梨紗はそう思いながら、日当たりの良い受付カウンターの上で居眠りするのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

⚠️実際の猫に玉ねぎを与えないでください


宿屋の中は、一階は入ってすぐ受付があり、側にキッチン、キッチンの隣の部屋に食糧庫、縦長に食事場所となっていて、二階と三階は宿泊部屋、屋根裏部屋がガイの部屋となっています。


ちなみに、ネズミは飛竜の餌として売られました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る